学術セッションのまとめ

シンポジウム 1 火山を知る

セッション1-1:最近の火山研究の進歩

 本セッションは,ブルース・ホートンによる基調講演で始まり,火山活動の多様性や様々な火山過程の理解について最近の進歩の紹介があった.月曜日の口頭発表では,活発な島弧火山とホットスポットの下方にあるマグマ溜まりの地震学的イメージング,口永良部島火山における火山性地震スペクトルの時間変化,カルデラ火山地下深部の玄武岩と花崗岩の相互作用,マグマ浸透性の発達に関する数値モデル,火山性ブラストの流体力学,マグマ供給系に関する岩石学的検討,高温珪長質マグマによる脆性・延性変形の証拠,火山の脱ガスプロセスとハザード評価,マグマ対流による脱ガス,雲仙火山噴出物に関する実験火山学が議論された.火曜日の口頭発表では,雲仙火道掘削の科学的成果,モンセラート島スフリエールヒルズ火山のCARIPSOプロジェクト,火砕流のシミュレーション,雲仙火山の火砕流及び岩屑なだれ,火砕流の大規模野外実験,メラピ火山火砕流とシミュレーション,熱残留磁化方位による火砕流と岩屑なだれのメカニズムの解明,テフラの分散化モデルによる近年の研究成果,鬼界カルデラ形成に伴う津波のシミュレーション,2007年ルアペフ火山泥流の概要とモデル,エトナおよびニイラゴンゴ火山における溶岩流シミュレーション,結晶質溶岩ドームのレオロジー的性質,および非爆発的噴火による珪長質噴火のモデル化等について議論された.さらに,150以上の興味深い様々なポスター発表が行われた.

セッション1-2:火山噴火予知と火山警報

 木曜日と金曜日の口頭発表では,地殻変動研究のための干渉合成開口レーダー(InSAR)データの半自動処理,噴火前および噴火中の二酸化硫黄の放出のためのオゾン写像装置(OMI)の研究を含む,衛星リモート・センシングの開発に関する報告が行われた.双方の発表において,これらの重要なデータをより広く,容易に火山学コミュニティーで利用可能にするという目標が強調された.また,地震,稲妻検知,音波モニタリング技術についても最近の開発が報告された.ミリメートル波AVTISシステム試験の速報では,曇った状態での火山の熱・地形変化の追跡に応用が可能との驚くべき報告がなされた.最近のこれらの技術開発は米国におけるモニタリング機器の基準として記述されるであろう.最近の噴火事例研究としては,2006年のインドネシアのメラピ火山,2007年のイタリア・ストロンボリ火山が報告され,ルアペフ火口湖の崩壊の予測において警報発行機関で使われた技術についての報告があった.
 また,立上げに向け努力が進められている,懸念される噴火に対するWOVOdatデータベースや確率的予測システムBET-EFの報告があった.
 航空管制機関にタイムリーな火山噴火情報の提供に向けたチャレンジについて二つの報告があった.これらの報告は,火山周辺で飛ぶ航空機は「火山上空の都市」であり,その大勢の人々のことを考えなければいけないと我々に想起させるものであった.

セッション1-3: 活火山との共存による健康被害

 本セッションで取り上げられた主な話題は下の通りである.特に,雲仙普賢岳をはじめとする日本での事例から多くの情報がもたらされた.雲仙火山での経験からは,被害者の救護に関する重要な教訓が得られた.これらの教訓は,他の火山での防災計画に応用することが非常に有益だと考えられる.また,雲仙での事例を踏まえ,火山災害の対応に従事する人々は長時間,大きなストレスの下で作業を行うので,特別な健康管理と安全管理が要求されることも提言された.さらに,病院などの医療施設の避難では,精神病患者への対応など特殊な問題が生じることも紹介された.
 雲仙以外では,火山ガス災害に関する話題が多かった.地面から放出される火山ガスによる災害は,二酸化炭素やラドン,硫化水素が地面から染み出る火山地域では,より広く認識される必要があることが複数の研究者から指摘された.三宅島における他に類を見ない二酸化硫黄の監視体制も聴衆の関心を引いた.継続的な火山ガス放出は降水や地下水を汚濁することで被害をもたらすが,三宅島の事例は,火山ガスを放出する他の火山島のモデルになると思われる.火山地域での死亡事故を防ぐには,より多くの情報や警報が必要であり,硫化水素が考慮すべき最も重要なガスであることも紹介された.火山を源とする河川の水が中毒事故を発生させることも草津の事例として紹介された.草津の中和事業も重要な参考事例になるだろう.
 このほか,各国の参加者から,噴火モデルの研究者と鉱物学者による分野融合的な研究が火山灰による健康リスクの評価に革新的な手法をもたらしていることや,鉱物学の分野において毒性の理解を深める新しい分析手法が開発されつつあることなどが紹介された.

シンポジウム 2 火山と都市

セッション2-1a:自然災害へどう対処するか:噴火の歴史と教訓から学ぶ

 本セッションにおいては,自然災害の予防・対策において,自然災害の種類,技術の進歩度や経済力に関係なく共通する論点にハイライトを当てた.全ての発表において,正確な科学的理解,危険性評価およびモニタリングの必要性,責任を持つ政府機関,災害を受けるコミュニティー,科学者と公務員との間での事前準備,コミュニティーと科学者,公務員間の信頼関係,そして最も重要なこととして,災害の発生する前に効果的な情報伝達手段と連携を確立していることが必要であることが指摘された.しかし,それらは「言うは易し」である.効果的な災害対策は,全ての部門において長期的で継続的なものである.また,本セッションにおいては,同時あるいは近接した複数の自然災害があると災害対策は一層複雑化すること,最悪のケースシナリオを想定して準備,訓練することの必要性も強調された.

セッション 2-1b: 長期的な火山災害とリスクの評価

 このセッションでは,低確率ではあるが影響の大きな火山現象に対して立ち向かう様々な研究手法が発表された.建設済み,あるいは,計画中の原子力関連施設に関しての火山災害評価,マニラ・バルセロナ・メキシコ市・ナポリ・オークランドなどの都市やアジア太平洋地域といったような,広域で続いている火山災害問題の論文が発表された.多くの発表は,火山活動の再来を評価する確率論的手法や火山活動の規模に関する評価,噴火の影響の面的な広がりに関する評価などによっていた.カンピフレグレイやオークランド地域の研究では,こうした確率評価は総合的な火山災害評価の一部となっていた.群発する火山噴火の時間的空間的評価の事例,更に地球物理学的な異常や地殻構造条件,あるいは,マグマ生成率等の要素と群発する噴火の関係も論じられた.多くの国々で巨大な爆発的噴火とそれに伴うカルデラの形成は,稀ではあるが,重大な災害である.講演では,こうした災害事象の評価や前兆の認識の難しさが強調された.長期的な火山災害評価への挑戦の鍵は,体系的なデータを構築すること,途上国における知識のギャップを埋めること,そして火山学の世界に広く受け入れられる研究手法を開発することである.こうした挑戦の一部はVOGRIPA計画やIAVCEIの火山統計委員会・WOVO・爆発的火山活動委員会等によるデータベースの構築に委ねることができる.

セッション2-2:火山活動の基幹施設への影響と効果的な減災対策

 近年,世界における火山噴火の脅威は,噴火と関連災害の影響に対する調査研究や減災,復旧に対して多くの機会を与えてきた.本セッションは火山地域の土砂移動やその他の災害過程,影響の事例研究,減災対策そして被害想定と危機分析に関する研究を網羅した.
 火山砕屑物の堆積は,地形変化や長年にわたるライフラインへの障害を引き起こすラハール(土石流)を頻繁に発生させる.噴火後の水文システムが新しい土砂移動則に適合し,移動材料が再分布するにつれて,ラハールの発生回数とその規模が低減する.高強度の雨は,将来のさらに深刻な土石流災害を暗示し,即応的な気象データの活用は限定されている.構造物によるハード対策は費用がかさむが,土石流の影響力を減少させるのに効果的である.降灰の影響はしばしば広域にわたり,わずかな公共施設に対してさえも深刻である.噴火前の降灰被害想定とこれに備えた計画は被害軽減を可能にする.
 ハザードマップや緊急対応計画は,新たに形成された流路網を把握した上で,次のより大規模な火山噴火に対して更新されるべきである.進行中の災害状況の把握やとくに地域内の警戒システムにおける地域社会参加は効果的である.ハザードマップ作成や被害分析,リスク評価は,地域行政や市民,公共施設など社会基盤の管理者の要望に適合させるべきである.関連機関相互の関係はしばしば複雑であるが,効果的な連携と危機管理計画に対する科学情報の一元化を確保するよう改善すべきである.警報と対応システムは実行的かつ情報伝達支援に配慮する必要がある.市民教育は土木施設の安全性に対する過剰な信頼を払拭させるためにも重要である.最後に,対策の実行者は首尾一貫した用語に取り組んで,災害とリスクの概念を説明することに注意をはらうべきである.

セッション2-3:火山のリスクを軽減する長期的土地利用

 本セッションでは,7件の口頭発表と4件のポスター発表がなされた.このうち,基調講演で,アメリカのセントへレンズ山では,1980年の壊滅的な噴火を受けて確立された非常事態対応計画が,2004年の噴火時に機能したことが報告された.セントへレンズ山では,火山災害予測図に基づいて,危険区域内の火山周辺の私有地や借地連邦政府が取得するとともに,道路や施設を危険区域外に設置をする対策が実施されていた.このような土地利用及び施設配置が生命や財産に対する潜在的な危険を大幅に軽減するとともに,非常事態対応がスムーズに行えることが示された.このほかの発表においても土地利用計画を通じた火山リスクを軽減するための主要な対策であることが示された.
 土地利用の厳しい日本では,火山が市街地に迫っているため,住宅を含めた土地利用計画が必要である.2000年噴火を経験した有珠山の麓に位置する自治体では,復興計画に示されたハザードマップに基づいた土地利用計画に基づいて,小学校や病院等がより安全な地域へ移転したことが報告された.雲仙普賢岳の被災地では,火山災害で被災した住宅地を嵩上げで再生する住民発案の復興計画が実現したことが紹介された.また,自然災害で被災した住宅の再建に対する支援策のあり方が提案され,参加者の賛同を得た.

シンポジウム 3 火山と共に生きる

セッション3-1:火山災害のリスク軽減に向けての科学者,行政,報道,住民の連携

 このセッション課題の高く広い認識度によって,C会場は,主に,95%以上が外国人の参加者によって一杯となった.多くの国々から,高い水準の効果的な連携についての様々な試みが報告された.危機の間だけでなく,平常時においても協力的な連携が,エクアドル・ツングラウアの2006年の噴火時のように,多くの成功を導き,あるいは進行中である.ウーゴ・イエペスは「ツングラウアで成功が可能だったのは,研究者が地域社会のためにではなく,地域社会と一緒に動いたからである.科学者と地域社会が密接に動くという概念,地域に研究者が継続的に存在すること,彼らの地域社会への溶け込み,それに加えて,地域行政官の溶け込みによって,エクアドルでは危機管理の新しいモデルができた.」と報告した.これに対して出席していた日本のジャーナリストは,1990-1995年の雲仙普賢岳,1998年の岩手山,2000年の有珠山の危機管理の場合のホームドクターの考えと同じであることを指摘した.ニュージーランドにおけるリアルタイムのウエブ利用のようなIT技術,三宅島における効果的なリアルタイムのウエブ・ジャーナリズム,緊急時に数分間で数千の電話が各戸や会社に届くようになる米国ピアース・カントリーのインテリキャスト・システムなど,情報共有のための新しい進展も報告された.また,難題も報告された.すなわち,雲仙普賢岳の災害時の小さな火砕流のような科学用語の困難さ,「一つの声」に対する「二つ目の見解」,情報の氾濫に対する重要情報の欠如など.多国籍のアンデスプロジェクト(カナダ国際途上国局によって支援されたアンデス地域社会のための地球科学,MAP-GAC)は「科学から行動への変換」という地球科学研究所の横断連携にめざしている.このセッションでは通常の講演時間20分に対して15分をお願いし,残りの30分以上を聴衆間での積極的な議論をするために使った.このセッションでは,雲仙普賢岳災害で火山学者と一緒に長い間活躍した3名のジャーナリストの存在を初めて明らかにできただろう.

セッション3-2:教育と広報活動:火山に対する地域社会の自覚を高めるには

 このセッションでは,火山災害の認識を高めるために,多くの既存の施設を使うことの重要さを議論した.例えば,博物館,学校,観光施設,文化交流プログラムやインターネットは,全家庭に情報が届くための,そして次世代に危機に関する情報をもたらすための効果的で効率的な手段である.新技術,そのいくつかは自然に対して対話的なもので,それによって,地質学的背景を多くの人々に教える機会が増えている.私たちは,火山噴火のその影響の記録を残している地域社会の重要性を議論した.火山噴火を経験した人々は,書面による記録,写真やビデオ,そして記憶の中にその経験を記録すべきである.こうして,彼らは次世代にこの情報をもたらす義務を共有できる.このセッションや引き続いて行ったアウトリーチ交換会の参加者は,これに研究者の「知性」を加えれば,彼らは噴火過程を表す効果的な物理モデルを発明できるようになると主張した.火山についての認識を深めるためにどのような施設が使われようとも,私たちはメッセージを注意して選び,聴衆に密接な類似性を適用することにより,彼らに重要な情報を作成すべきである.私たちは科学的な情報で聴衆を困惑させてはいけない.最後に,最も重要なことは,火山についての認識を高めるという共通の目標に対して,科学者,住民,行政,報道が補完的なメッセージでもって協力してあっていくべきである.

セッション3-3:地域社会と火山活動:考古学、伝承そして復興

 種々の神話が火山噴火を直接あるいは間接的に記述していることが知られている.日本とニュージーランドの事例では,地質学的研究によって,神話がどんな種類の火山現象を表しているのか(あるいはそうではないのか)が確認されているのかを示した.また,榛名山の5-6世紀噴火やアイスランドのオレファヨークル噴火では,火山学と考古学を組み合わせた研究から,火山の大災害からの復興について紹介された.また,ベスビオの472年噴火やニカラグアの現在のマナグア地域に影響を与えた完新世の噴火に関する考古学的調査から,火山噴火がいかに地域社会や家族にひどい被害を与えるかが紹介された.1926年の十勝岳の噴火や1943年の昭和新山の噴火では,噴火の観測と噴火およびその余波についての教育に二人の地域住民が人生をかけたことが紹介された.最後の2つの話題提供は社会学者によるものであった.ひとつは,人々が火山噴火によってどのような社会経済影響を被るかに関して,日本で実施された一連の調査結果について紹介し,後ひとつは,火山噴火からの避難に関連した人間の行動の側面を他の災害と比較して紹介した.

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