第3回 12月4日講義分。 
内容: Sect 1.5(応用5)-2.2(測地経緯度 まで)
          QA作成所要時間(3時間)(備忘)

内容に関するQ

A

  物理測地学 -1】
解の一意性はなりたちますか?(横尾、楠、横田)

 当時の演算能力で可能だったのか?(水越)
 非常に良い質問です。一般的な証明はあるのかもしれませんが、わかりません。次のような反復法で解くならば、一意的に定まりそうな気もします。
 第0近似として、地球=完全球と思って、天文緯度・天文経度から各点の座標を与える。当然、積分方程式の左辺と右辺の差=残差を2乗した値Rはゼロにならない。次にある点 i の座標だけを Δxi だけ変えて、積分の残差を評価してみると、 R+ΔRになるはず。すなわち偏微係数∂R/∂xi が分かる。偏微係数が与えられたとき、多変数関数R(xi)を最小化するアルゴリズムはあるので、スパコンでなくても、普通の計算機で解ける可能性はある。
【物理測地学-2】
地表面各点でのポテンシャルVの値の測定の仕方を具体的に教えてください。そうでないと、「Vがobservable」と納得できない(山浦)
基点OのポテンシャルをVoと、仮置きします。知りたい場所Aのポテンシャルは、
 V=∫ g dh +Vo= Vo+ Σgi (Hi+1- Hi)
となります。ここで積分はOからAに至る経路(路線)上で行います。gは経路上の各点の重力値、 h は水準測量で決めた比高(高度差)。Voだけの不定性が残りますが、全地球表面のVの平均値(これはVoに依存)が GM/a になるよう約束するなど(別の規約ですが)で、決定します。
 【物理測地学-3】
実際、過去の研究ではどれくらいの精度で形状を決められたのでしょうか?(加藤)
 即答はしかねるが、1〜数メートル前後じゃないでしょうか?根拠の一つは海面の平均的な高さ(地中海と北海の差とか)が、ある程度分かっていたこと。
 【物理測地学-4】
(1.5.6)式を地球の形状計測に実用することはなくなったというが、では現在はすべて人工衛星で測定可能でしょうか?(池端)
Good Questionですね。人工衛星自体(GPSを含むGNSSのことだと思いますが)の 位置決めには軌道決定が必要。そのためには、引力ポテンシャル場の決定が必要。地表面の高さ(ジオイドからの)は、依然として、水準測量+重力測量の方が高精度。
 上方接続実験-1】
いくつかの仮定(地表面を球面とするとか、面上で可能な限り密に重力を測定するとか)があるので、現実の積分評価ができるのか疑問だったが、実際にできることに驚き(安藤)
・そのような仮定では精度が悪くて、検証に支障をきたさないのか?

正当な疑問だし、この点を議論することは非常に重要です。

物理でも、地球科学でも、すべては近似です。大事なことは、近似をいれることで生じる誤差の見積で、それが目的にとって十分に小さければその近似は良い近似といえるでしょう。2つの論文を読むと、実際に誤差の見積もりが議論されています。
上方接続実験-2】 上方接続の際、観測面より上は何もないと仮定していると思いますが、湯川ポテンシャルの係数を測るときもそのようにしているのでしょうか?また、鉄塔のつくる重力場は考慮しなくてよいのでしょうか?(西山) ・まず、鉄塔のつくる重力場は、計算で見積もることができます。鉄塔上の各点に及ぼす重力が測定誤差より大きければ、補正することになります。

・ 湯川ポテンシャルの係数は、大きさα(無次元)と到達距離λの2つがあります。λを一つ仮定して、地球内部の密度も適切なものを仮定すると、地球が及ぼす湯川ポテンシャルによる引力が計算できます。これが、上方接続と直接測定とのズレになりますから、これからαを決定するということでしょう。 
  上方接続実験-3】

・Romaidesらの訂正論文のほうが、Cruzらの追実験の論文より先に出ています。追実験する必要はあったのですか?(増田)
よく気づいたねぇ。もっともな質問。Cruz論文のIntroductionの最後にこう書かれています。「訂正論文が出る前に、追実験を済ませていた。また、結果は訂正論文が出る前の1989年8月の国際学会で発表済み(私も参加して確認しています。たしか、"Newton saved"というタイトルだった)。きちんと処理手順と成果とを論文として公表する意味がある」
 【上方接続式-4】
gsurfaceが離散化されており、しかも局所的であるとき、論文ではどのように gextを決定しているのでしょうか(積分のモデル)
(湯本)
 
実際にはgそのものではなくて、2章後半で述べる正規重力を差し引いた「重力異常」Δgについて、上方接続を行います。こうすることにより、2つの利点が生じます。
 利点1:遠心力項が差し引かれ、 rΔg が調和関数であることが保証される。
 利点2: g〜980 ±3cm/sec2に対し、 Δg〜0±0.1cm/sec2 
となり、Δgの方が変動幅がかなり小さく、滑らかになる。
 連続的な面積分は最初からむりなので、離散和をとるしかないですね。
面を細分し、面内に複数の測定点があればその平均値と面積の積を評価。
細分化した面内に1つも測定値がなければ、周囲の測定値から補間。
  【上方接続式-5】
(1.7.1)式では球面を仮定していますが、実際の地球が完全でないことによる誤差によって、結局、第5の力は埋もれて見えなくなりそうな気がします。(中山)

地形の影響について、もっと詳しく教えてほしい。(久住)
 誤差の見積もりが重要なポイントであることに気づいた良い質問です。地形がもたらす誤差の評価については、Cruz論文で詳しく記載されているはずです。
   【上方接続式-6】
1-20頁の「測定値の誤差」はどうやって見積もったか?(西貝)
塔を下から上へ登って行く経路で測定し、また、上から下に戻る経路上でも測定する(同一点を2回)。往路と復路の測定値の差が誤差の目安となる。
 【上方接続式-7】
上方接続式と言うのは、上方だけではなく、惑星内部に対しても適用できますか?(冨田)
 下方に物質がなければ、下方接続ができます。たとえば、航空機で重力を測定して、ある高度における重力分布が得られたら、下方接続で地上面での重力値を推定することは可能です。
【重力の時間変化】
 重力ベクトル(向き)の時間変化も観測されていますか?(楠)
地面が不動でも重力ベクトルの向きが変わると、あたかも地面が傾斜したかのように見えます(重力ベクトルの向きを下向きと定義しているので)。このような鉛直線の時間変化は天文観測や潮汐観測で見出されます。
 【潮汐による変形と重力】
今西先生の講義で、地形自体も潮汐力によって、1日、半日周期で上下していると聞きました。重力測定ではどのようにして補正されていますか?(湯本)
 潮汐ポテンシャルは天体運動によるものなので、精密な天体の軌道予測がまず必要。これで、時刻と場所を指定すると、その場所での潮汐ポテンシャルVが計算される。つぎに、弾性変形で地形が数十cmの振幅で上下する効果はラブ数を用いて、影響を見積もれる。変形によって(密度場が変化)生じる2次的なポテンシャルはkV. また、測定点が上昇する変位はh (V/g)。これらから、潮汐による重力の時間変化は精密に見積もれる。
 【天文緯度-1】
別の講義で地球を楕円として扱った場合の緯度と地心緯度との関係式について学んだが、そのときは重力ポテンシャルについての言及がなかった。実際に一様でない重力場がどれほど測定に影響をもたらすのか気になった(左高)
楕円体のときの緯度というのは、「地理緯度」のことだと思います。
重力場が一様でないために生じる誤差が顕著に現れたのは、日本の地図座標系が2000年に切り替わったときのことです。明治時代〜2000年ごろまでの地図は東京天文台の地理緯度と天文緯度が一致すると仮定して、座標をきめていたため、世界の測地系と比べると経度、緯度ともに約10秒角(水平距離で300m)ずれていました。
参考解説は下記
http://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/jgd2000-2011.html
  【天文緯度-2】
普段つかう緯度は地心緯度だと思いますが、天文緯度はどういうときにつかいますか?(石塚)
地心緯度はふつう、「使いません」。たとえば地図にしても、GPSにしても地心緯度ではありません。次回話す測地緯度・地理緯度に近い。
天文緯度は、たとえば難破した漂流船の乗り組み員が、位置決めにつかうのではないでしょうか?(天測)。 
  【天文経度-1】
時計はどんなものを使う?経度差を測りたい2地点で使う時計はとうやってあわせる?(岡)
18世紀では、機械式(ねじ巻き);クロノグラフ。
2個の同じタイプの時計を用意し、同一点(たとえばグリニッジ)で一定期間(数ヶ月とか)同時に動かして、差ががでないように調整。そのうちの1個を、グリニッジ以外の地点に移動して、南中時をはかる。たとえば日本のある場所で測ったら、南中時が3時10分だったとなると、時差が12:00-3:10=8:50

気楽に読める本として、「経度への挑戦」(デーヴァ・ソベル、 翔泳社)があります。(経度のHarrisonと呼ばれた時計職人と、陰険なニュートンの対決)
1日あたり0.3秒しか狂わない時計が(しかも船の揺れに耐えて)、18世紀にイギリスで出来たという話。
   【天文経度-2】
南中は太陽高度が一番高くなったときとして定義すると、基準水平面に重力場が関係するので、経度が重力の影響を受けると考えました。これでもよいでしょうか?(山名)
それでも良いでしょう。 
 鉛直線
 遠方での振舞が納得できない(池端、横谷)
 座標系が地球とともに回転しているので、(たとえ考えている点が慣性系に対して静止していても)、遠方になると支配的になります。
板書では、向きを書き間違えました

 その他のQや感想  A
湯川ポテンシャルの話で、最初の論文を出した人たちが、自らの誤りを認めたことは誠実だと思った(三木) そうですね。それなりに勇気が必要。「人は間違うものです」
 【物理測地学の基本原理】
 表面(2次元)にしかいることの出来ない人間が、物理測地学の基本原理を通じて、3次元の形状を定めうるという、人類の知恵が感じられて興味深かった
ギリシア・ローマのエラトステネスからの2000年の成果と思えば、人間も捨てたものではないですね。 
計算については、さらに近似をいれたMolodenski理論というのがありますが、かなり難解です。
宇宙の形と物理測地学との共通点がいまひとつわからなかった。計測に基づく形の決定は出来ないと思います(宇宙の観測では、光速が有限なので、観測したものと現在の時間にラグが生じるので(西山) 宇宙の形のほうは、トポロジカルな意味での決定です(ドーナツのように穴があいているのか、それとも穴がないサイコロのようなものか?)。これがリーマン予想と関連しています。地球の形のほうは、定量的な決定です。共通点は、「外から眺めることなく、形を決めているという点です」 
授業で薦めた文庫本をよんでみてください。。
基本的にこの授業であつかっているのは引力に関することだと思いますが、グリーンの定理やポアソン積分について他の物理量の測定等に応用できますか?あれば知りたい(西山) 弾性論でポテンシャルを使います。たとえば、「大学演習 弾性論」(竹内均、裳華房)の問題61では3次元弾性体の静的変形を、グリーンの定理を使っています。
また、動的な問題として、波動方程式に拡張することができます。そうすると、電磁波の問題が扱えて、たとえばレーダー方程式なども導けたと記憶。