"重力場の時空間変動からよみとる,火山活動の推移"
(重力測定グループ:大久保修平、古屋正人、孫文科,田中愛幸、渡辺秀文、及川純、前川徳光
文責:大久保,古屋)
下の図は1998年6月を基準としたときに,各地点で重力値がどのように変動していくか,その推移を表しています.島の西部で重力がコンスタントに増えています.これは,三宅島西方海域への流体移動の経路が今も生きていることを示唆します.島の南部から南東部の重力増加が気になるところです.島の中央部の重力減少は,主として山頂陥没の地形効果です.山頂付近の重力減少が図c,dでは小幅に見えますが,これは山頂付近の観測点が陥没で失われたことによるもので,見かけ上のことに過ぎません.もし,それらの点が残っていたら,もっと巨大なマイナスの変化が現れたでしょう.
"Supernovaから,家庭の真空掃除機へ(解釈編)"
・ 三宅島火山の山頂陥没で吸い込まれていくマグマによって,重力変化の"波動"が四方に広がっていく.ちょうど,星の一生の最後の段階で,周囲にガスをまき散らし,中心部は爆縮で縮んでいく超新星(SUPERNOVA)の出現をみるようだ.
・ マグマはなぜ吸い出されるのか?その鍵は,三宅島から神津島・新島にのびる群発地震域で生じる無数の亀裂生成が握っているように思われる.亀裂の先端では,固体ー流体
(マグマか熱水か?)相互作用で正のフィードバックがかかり,どんどんと亀裂が成長する.次々に生成された亀裂の膨大な空間は真空となっている.そこに向かってマグマが受動的に吸い出ださせれているのでは...(真空掃除機モデル).根拠はつぎのとおり.
- 上の積算図(d):流出経路にあたる島の南西部では,コンスタントに重力増加が成長している.その付近への物質の継続的な注入が示唆される.
- GPS観測でみられる三宅島の定常的な収縮は,マグマの定常的な流出を示唆する.
- 吸い出されたマグマが三宅島直下に戻っていくと考えると,島北部に設置した絶対重力計(Abs.
G)の値がまったく説明できない.
- 体積に関するorder estimate:三宅ー神津まで約50km,
地震の深度分布2-12kmを考えあわせると,亀裂群の実効的な長さ50km,幅10km,開口量2mが想定され,その体積は10億立米であるので三宅島山頂部のこれまでの陥没量4億立米を十分に収容できる.
下の図は4つの期間の間の変動量(差分値)です.
図(差分値)の解説
- 山頂部の重力減少(-140程度)は,ひきつづく陥没孔形成のための空隙形成(深さ1.5km,6千万立米),
- 南西部の重力増加(+111)はダイクの貫入(開口量1.7meter),
- 一周道路沿い(特に南東部)の重力増加(+60程度)は深部マグマ溜まりの減圧による全島的な沈降,
で説明可能.
- (b) 陥没直前(7月6日)から陥没直後(7月11〜14日)まで
7月8日に最初は5千万立米だった山頂陥没はどんどんと進行し,7月11日には1億5千万立米になっていた.
- 山頂部の減少(−1135マイクロガル!)は、この巨大な陥没進行に伴う(足元の)質量欠損で生じた.
- 山頂から約2kmの環状林道の約50ないし130マイクロガルの重力増加.これらの地点では陥没孔は目線より上にある.引っ張り上げる引力が無くなってしまったことで重力増加をもたらす.
同心円状の重力変化は、火道が垂直な円筒のようなものであることを想起させる.この状態で陥没とマグマの逆流が進むと、島の中央部の重力は減少し、周辺部は増加することが予想される。これらの変動は,写真測量などによる陥没量1.5億立米で説明できる.
水蒸気爆発が7/14,15に発生.陥没孔はさらに深くなって(450m)、容積は3億立米ほどになった.
- (b)のときに+129マイクロガルの増加だった点では、−118マイクロガルの減少。これは陥没が進行して,陥没孔の重心が観測点の目線よりも下に下がったためである.
- 海岸一周道路では,陥没重心は目線より上にあるので,重力はさらに増加する。
重力変化は同心円状に広がっている。
- (d) (7月28〜31日)から8月10〜12日まで
水蒸気爆発が8/10,14,15に発生.陥没孔はさらに深くなって(500m)、容積はさらに拡大(数値は不明).
- 山頂付近では、−680マイクロガルもの減少。これは陥没が観測点に迫ってきたため.
- 東側で見られる58から91マイクロガルの増加は,陥没面が東に広がっていることを示す.
- 陥没重心が下がってくるので,白い領域(変化ゼロ,目線)も標高がさがる(海岸部に近づく)
- 海岸一周道路では,陥没重心は目線より上にあるので,重力はさらに増加する。