地震研究所 観測開発基盤センター 新谷研究室 本文へジャンプ
Research

 地球の地殻活動や内部構造を理解するために、新しい観測機器を開発しそれを用いた観測を行っています。特に、レーザー干渉計などの最先端の光計測技術を用いることで、微妙な地面の変化の計測や地下深部・惑星表面など極限的な環境での観測など、これまでできなかった精度・観測場所でのデータ取得をめざしています。
(研究内容の詳細は文中のリンクやPublicationの文献をご覧ください)

●長基線レーザー伸縮計による地殻活動の観測
 地球の内部構造や地殻活動を観測するために、地面の動きを計測する地震計やGPSなど様々な観測機器が使用されています。しかし、それらに原理的な計測限界があり、地震計はゆっくりとした地面の動きを捉えられず、GPSではミリ単位で地面が動かないと測れません。レーザー伸縮計はレーザー光の干渉を利用した計測方法で、地面の伸び縮みを高い精度で計測できます。また長距離の2点間で計測することで性能が向上します。

 写真は宇宙線研究所神岡施設がある地下1000mの場所に設置された100mのレーザー伸縮計です。宇宙線研究所重力波グループと共同で開発しました。これを用いて月や太陽の重力で地球が伸び縮みする「地球潮汐」を高い精度で計測し、地形などの効果を検証し、また遠地の地震に伴う地殻変動を正確に観測できることを示しました。
 現在、宇宙線研究所が推進している重力波望遠鏡「KAGRA」が設置されたトンネルに1500mのレーザー伸縮計を建設し、観測を始めました。期待通り100m伸縮計よりもかなり良い性能であることがわかりました。歪の観測結果と中部地域の地震・火山活動との関連性などについて今後解析を進めていきます。
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●小型絶対重力計の開発
 地上の重力(加速度)はおおよそ9.8m/s^2という値ですが、これを精密に測定すると地下の物質の動きがわかります。地下水やマグマなどが地下で移動すると密度が変わり、それが地上に及ぼす万有引力が変化するためです。しかし、これはとても小さい重力変化で、比較的大きな物質移動でも地上重力の一億分の1くらいの割合の変化です。そのため、高い精度の重力計測が必要ですが、現在の技術では十億分の1くらいの割合で測定することができます。
 重力計には相対重力計と絶対重力計という種類があります。良く用いられている相対重力計は安価・小型ですが、バネ秤のような原理で重力による力の変化を測るため、重力変化はそれなり測れるのですがバネの伸縮の誤差があるため長い時間の測定には不向きです。絶対重力計はレーザー干渉計を用いて落下体の動きを正確に測定し、重力による加速度を計算し最高の精度で計測できます。ただし、現状の装置では高価でサイズも大きく、たとえば火山観測で多数の装置を用いた観測ができません。
 
 そこで、私たちの研究グループでは、小型・安価な重力計で、しかもいくつかの装置を接続しネットワーク化して観測できる小型絶対重力計の開発をしています。写真は開発した重力計で蔵王観測所(宮城県蔵王町、東北大学)で観測を行ったときのものです。現在はまだ1台のみでサイズもやや大きめですが、性能は十億分の1が出ており、さらなる小型化とネットワーク化できる方式に改良することを計画しています。重力計を用いた火山のマグマ移動を直接観測できれば、噴火や火山活動の推移などの予測に新たな情報を提供できることになります。

●極限環境における計測技術開発
 地球科学研究を進めるための根拠となるデータを得るために「観測」は不可欠です。しかし、観測できる場所はアクセス、温度、圧力などの条件をクリアできているところに限られ、地球全体をカバーするのは困難です。しかし、少しでも観測領域を広げることができれば、あらたな知見・発見が得られる可能性が高まります。未知の領域をめざすために、新たな観測機器を開発していきたいと考えています。

 写真の装置はレーザー計測を用いた地震計で、これまでの装置と比べて、地下深い高温環境での精密観測ができる仕組みになっています。光の干渉を原理とした計測であり、半導体素子が使用できない高温でも計測できるためです。この技術は地球の内部構造を解明するだけでなく、惑星探査への応用も検討しています。低温や放射線が多い環境でも原理的に使用できます。そのため、ロケット打ち上げの振動などにも耐えるような設計になっています。地上では計測性能などの検証は行ってきましたが、実際に地下深部や惑星探査に使用するためには、運搬・設置までの環境変化への耐性や長期間の安定な観測など多くの課題が予想されます。しかし、少しずつ問題を解決しています。開発に困難はつきものですが、それらを克服していくプロセスも研究の醍醐味の一つです。これまで誰も知らない地球・惑星内部の新たな領域を、開発した最高性能の観測機器で解明したいと考えています。

●その他の研究課題
・海中移動体に搭載された重力偏差計による海底下鉱床の探査技術開発
・地震に伴う重力場変動に関する研究
・惑星探査用重力偏差計/加速度計の開発
・惑星表面における地震学的探査手法の研究