隙間産業

すきま the niche

 岩石中の鉱物粒子間に存在する粒界・界面は、地球内部の「隙間」である。岩石構造においても、学問的な意味も含めて、自分はそう捉えている。地球は一つの巨大な多結晶体である。多結晶体が故に、粒と粒との境界に作る粒界・界面が存在し、それらは地球内部で三次元的に唯一つながった構造欠陥である。 原子オーダーで岩石を観ると、粒内を構成する結晶構造と比べ、原子配列が疎であり、乱れた領域が粒界・界面であるからである。微量の流体が地球内部を移動する際、浸透流という形で流れるが、その際、粒間(粒界・界面三重点)はporosity(空隙・隙間)という形で記述される。空隙は実際には存在しないが、界面エネルギーの存在より、流体は選択的に粒界・界面近傍を溶解しつつ移動できるからである。
 岩石中の粒界・界面は、結晶学の知識を適用しやすい双晶などの隣接粒子同士が特殊な方位関係により構成される特殊粒界を除いて、鉱物学者の研究対象にはならなかった。むしろ、主に構造地質学者や地球物理学者の興味の対象になっている。というのは、粒界・界面が岩石の流動・破壊に重要な役割を果たし、さらに粒界・界面の性質によって決定される粒間流体の分布形態が地球内部の物理的性質(地震波減衰や電気伝導度)や流体の移動に大きな影響を与えているからである。しかし、粒界・界面の研究は、ナノメーター以下のスケールで解析することを求められ、マクロな解析を得意とする構造地質学者や地球物理学者の研究対象にはなりづらかった。このことが、岩石中の粒界・界面の知識を大きく遅らせる原因になったと自分は考えている。つまり、ミクロな原子オーダーの構造解析を得意とする鉱物学と、地球規模のマクロな構造を常に相手にする分野との挟間に生まれた学問的「隙間」というわけである。
 ということで、自らの仕事を人に説明する際、「隙間産業です」としばしば言う。何も卑下するわけでもなく、冗談のつもりでもなく、「中身」がそうなのである。


Takehiko HIRAGA, Division of Earth Mechanics/Earthquake Research Institute, University of Tokyo.