各講議の概要
IRISを中心として進んできた1980年以降のグローバル地震観測の概要と,地球内部構造全般についての知見のレビュー,さらに今後10年の見通し.「グローバルからリージョナルへ」
地球内部の活動を探る上で地震学的手法は一つの重要な道具であるが、多くの興味深い現象は地表の2/3を覆う海域下で見られる。既存の陸上観測データを用いた解析手法ではこれらを詳しく理解するのには自ずと限界があり、現象が起きているその場直上で高密度の観測を、すなわち海底で行う必要がある。
地震研究所では海底を「地球内部を覗く窓」と位置付けた海半球ネットワーク計画を1997年より開始し1999?2000年に世界最初の長期海底広帯域地震観測を行った。その後も多様な海域での多点観測などを進めている。このような観測を実現させたのは、1970年代に始まる日本独自の海底地震観測の歴史とその中での独自技術・経験の蓄積である。
本担当分では、海底地震観測の技術開発の歴史に触れた後、最新の観測から見えてきた結果、進行中の機器開発などについて解説する。
地震観測で使われるセンサーの設置場所はソース(震源・信号源)に近くなるべく静 かな場所が望ましい。しかし、深さ10kmを越える地下深部にセンサーを設置するのは 技術的にきわめて困難であるため、地球全体からみればごく地表付近に設置場所が限 られる。そのため、たとえば地球中心付近を起源とする信号はセンサーまで届く間に とても微弱なものになってしまう。それを捉えるには予想される信号の空間・時間ス ケールに最適の観測網・観測機器が必要となる。
本講義では地球内部構造をさぐるための観測手法として地球自由振動を挙げ、予想 される信号とそれに適した高精度センサーの開発について解説する。
地震は地下の岩石の破壊現象であるので、実験室で再現できる程度の数cmから数mスケールの現象から、地殻全体(数10km)に広がる破壊を含む複雑な現象である。さらに、地震が準備されて発生するプロセスには、日本列島全域規模(リージョナルスケール)のプレートの相互作用によって生じた広域応力が、断層域規模(ローカルスケール)に集中するプロセスが関与している。このため、地震の発生予測(地震予知)を目指した研究では、日本列島規模の研究のために必要な広域地震観測網から、個々の断層を調べるための地震観測が必要となる。本講義では、地震予知研究に必要な研究の対象(何を見たいのか)と、対象を観測するための手段(どうやって観測するのか)を解説する。特に、現代的地震観測に必要な、超多チャンネルシステムの実現方法について、地震研究所で運用している通信衛星を用いたテレメータシステムや、現地収録型の小型地震計システムなどを例に議論する。
1.地震観測と地盤・構造物
地震工学の観点では,地震は建物・構造物を揺らす地面の揺れである.地殻を伝わった地震の波が地盤や構造物を揺らすのであるが,揺れには地盤・構造物の力学的特性が強く反映される.比較的揺れが小さい場合には,地盤・構造物の振動に対する応答は線形であり,特定の周期の成分が卓越する.またさまざまな原因で減衰も生じる.地震の揺れが大きくなると,地盤・構造物の応答は非線形となり,より複雑な振動を示すことになる.地震観測の目的の一つには,地震災害に強い構造物や都市を造ることであり,地盤・構造物のスケールでの振動観測は,この目的に沿うものである.
2.大規模シミュレーション
一方,地盤・構造物の応答は多種多様である.例えば,地盤の種類によっては,地下水との連成によって液状化を起こすものもある.また構造形式や材料に応じて応答特性が異なるため,構造物毎に耐震設計が整備されている.計算力学の観点からは,固有の特性を持つ地盤・構造物群の応答を,都市全体で丸ごとシミュレートすることは極めて挑戦的な課題とされている.
3.センシング技術
応答が多種多様であるため,地盤・構造物スケールでの地震観測には,応答特性にあった計測手法を採用しなければならない.エレクトロニクスと材料科学の進歩により,このスケールでのセンシング技術は,MEMSを使った小型センサの開発として実を結びつつある.加速度や角速度の計測は実用化され,安価なセンサが市販されている.また,構造物によっては100から1000のセンサを付けることもあり,センサのネットワーク化の技術も研究が進んでいる.
GPSの登場によって地球表層の変動は、小は火山体程度のスケールから大はグローバルなプレート運動まで様々なスケールの現象を統一的に記述できるようになった.本講義では,まずGPSを含む宇宙測地技術の概略を述べ,特にGPS精密測位の原理を述べる.続いて,グローバルプレート運動,西太平洋?アジアのテクトニックな変動の最近の観測成果を紹介する.続いて日本列島のGPS稠密アレイとその成果,最後に地震・火山活動に伴う変形を紹介する.GPSという単一の手段によってマルチスケールの現象が統一的に見え且つ解釈できることの重要性を理解してもらえれば幸いである.
伊豆大島,三宅島を例にとって,噴火直後から終息までの経過を重力変化,地殻変動などの観点から調べ,火山活動推移の予測可能性を論じる.
また,丸い形状のマックスウェル粘弾性地球に関するディスロケーション理論にもとづき,サブダクション・ゾーン陸側のインターサイスミックな重力変動を見積もる.
また,秋に実施する中国雲南でのハイブリッド観測の狙いと,観測概要を紹介する.
火山噴火過程において,最も重要な過程のひとつは,マグマの上昇過程である.この分野の研究では,火山噴火と言う頻度の少ない現象を対象としているので観測事実が少なく,モデル研究が主導している.しかし,ひとつの良質の観測事実は,これまでのモデルを否定し,火山活動に関する新たな理解をもたらす.
この講義では,観測事実から解明されたマグマの動きの実例と,それに基づく新たな火山活動についての理解を紹介する.
キーワード:火山活動,ダイク貫入現象,地殻活動,地震観測,地殻変動観測
火山体及びその周辺に設置した広帯域地震計で観測される地震波形から,どのような事を知る事が出来るのか,これまでの火山地震学の研究成果を紹介する.特に,爆発地震や低周波地震等について,ある程度モデル化をされている現象についても紹介する.
地球及び惑星の内部活動および内部構造を調べる上で、電磁気観測は基本的な手段の一つである。そして、対象とする現象ないしは構造の時空間スケールの違いに応じて様々な観測システムが開発され適用されている。この講議では、グローバルスケールを主たるテーマとする。地球電磁気観測のうち地球磁場の観測は広く行われ、コアダイナミクスやマントル構造を調べる上で基礎的データ源となってきた。近年、電場のグローバル観測が行われるようになり、従来の地球磁場観測では得られない情報をもたらす可能性が出て来た。この講義では地球電場の観測に焦点をあて、観測技術の基本とそこから得られる情報、現在開発中の新しい電場観測システムを紹介し、今後の観測研究の方向を議論する。