阿蘇火山における地震およびGPS観測網について
京都大学火山研究センター 大倉敬宏
本科学研究費補助金では、新たに広帯域地震計 (CMG-3T) 1台、データロガー(LS-7000XT)5台、2周波GPS受信機(Topcon Legacy)3台が購入され、これまでの機材と合わせて阿蘇火山周辺の観測網が整備された。 図1は、本研究で整備された観測点の分布図である。赤丸、黒四角がそれぞれ、広帯域地震計、GPSの観測点を表している。また、本堂(HND)の観測坑道内に短周期地震計アレイが設置された(図2)。
図1 GPS観測点および広帯域地震観測点の分布図。●が広帯域観測点、■がGPS観測点、▼は国土地理院のGPS観測点を表わす。HNDには観測坑道があり、その中にSTS1と短周期地震計アレイが設置されている(図2参照)
地震観測網
本研究以前より、図1のHND、TAK、SUN、NARの4ヶ所において現地収録方式の連続観測が行なわれていた。このうちHNDのデータのみが、12GHz多重無線により本堂観測所から火山研究センターまでテレメータされていた。
そこで本研究では、長周期微動源をリアルタイムモニターするため、広帯域観測網のテレメータ化を行なった。テレメータ化の要点は以下の3項目である。
1.無線LANおよび地域インターネット網を用いた本堂観測所(HOND)と火山研究センターのLAN接続。
2.REFTEKに換えて、テレメータ機能を有するデータロガー(LS-7000XT)の設置。
3.既存のメタルケーブルとDSLモデムを利用したLAN接続。
まず、本堂観測所(HOND)および火山博物館(ASOM)に無線LAN機器(Root RGW2400/ID)が設置され、HOND-ASOM間がLAN接続された。次に、火山博物館と地域インターネットの拠点である阿蘇テレワークセンターとの間がNTTのメガデータネッツにより接続された。阿蘇テレワークセンターと火山研究センターとの間はすでにQTネットの光ケーブル網によりV-LAN接続されていたので、これで本堂観測所と火山研究センター間がLAN接続されたことになる。
一方、本堂観測所と砂千里(SUN)間および砂千里と火口東(KAE)間のLAN接続には既存のメタルケーブルが利用された。各観測点間にはメタルケーブルが敷設されており、短周期地震観測に利用されている。本研究ではその空き線を利用し、DSLモデムを設置することにより、観測点をLAN接続した。また、高岳(TAK)、楢尾(NRA)にもDSLモデムを設置し、一部の区間で既存ケーブルを利用し、さらに無線LANを利用する事で、両観測点のテレメータ化が図られた。
現在、HND, SUN、KAE、TAKそしてNARのデータが火山研究センターまでリアルタイム伝送され、Winシステムを用いた波形収録が行われている。さらに、本堂観測坑道内の短周期地震計アレイのデータも同じように火山研究センターまで伝送されている。
これらテレメータ観測点以外でも連続観測が行われており、それらをあわせた広帯域観測点リストを表1にまとめた。
図2。本堂観測坑道内の地震計配置図。伸縮計、水管傾斜計以外に1台の広帯域地震計(STS1)と6台の短周期地震計(L-22D)が設置されている。
GPS観測網
草千里下6kmの地震波低速度領域に存在すると考えられているマグマ溜まりの変動把握(マグマ溜まりへのマグマの蓄積過程)、あるいはマグマ溜まりから火口へ物質移動の検出を目指して、本研究ではGPSの連続観測を実施した(図1)。表2に観測点リストを示す。これらの観測点うち8点では過去にキャンペーン観測が行われたが連続観測は今回の研究が初である。
表2に示されているように、まず2003年12月から7点における観測が開始された。そして、2004年3月に1点、2004年7月に3点が増設された。しかし2007 年6月に、湯の谷観測点(YNTN)において、建造物の影響で観測の継続が不可能になり、現在は阿蘇中央火口丘の東西12km×南北6km にわたる地域の10観測点で連続観測が行われている。
当初はすべて現地収録方式でサンプリング間隔は30秒であった。しかし、地震観測網整備による観測点LAN化などにより、現在ではAVL1、HOND、SIKM、KBMK、SUNSの観測点ではオンラインによる観測データ収集が可能である。また、AVL1、HOND、SIKM、SUNS、ASOM、NRAOにおいて1秒サンプリングによる観測が行われている。
データ解析の際には、国土地理院の電子基準点(阿蘇カルデラ内の960701,960703,960704)のRINEXデータも使用した。そして、IGS精密暦を用い、GPSデータ解析ソフトウェアBernese4.2 による基線解析を行なっている。
手順として、まず960701(長陽)の座標を、国土地理院による解析結果である日々の座標値(F2解析結果)に固定し、長陽と各観測点との基線解析をおこない、各点の日々の座標値を求めた。なお、大気圏遅延量は各観測点で2時間ごとに推定されている。求まった座標のうち、960703および960704のものとそれらのF2解析結果を比較したところ、両者の差は非常に小さいことから、その他の観測点の決定精度も高いことが推察される。
2007年12月31日までの解析結果の一部を図3に示す。それぞれAVL1-SIKM、KBMK-SIKM、AVL1-KBMKの基線長変化図である。2004年1月および2005年4月には小規模な噴火(土砂噴出)が発生したが、それに伴う顕著な地殻変動は検出されていない。
図3 AVL1-SIKM、KBMK-SIKM、AVL1-KBMKの基線長変化図。2004年4月の変化はアンテナ交換によるもの。
長期的には、東西に長いAVL1-SIKM、AVL1-KBMKともに4年間で約3cm縮んでいるのに対し、南北に長いKBMK-SIKMではほとんど変化がないことが分かる。この傾向は、1999年から2001年のGPSキャンペーン観測で得られた結果(中坊・他(2001))と調和的である。
須藤・他(2006)は、水準測量データを解析し、中岳火口の西 3 km(草千里)の地下4-6 kmを中心とする収縮力源の存在を報告している。しかし、図4からは長期的にはAVL1-HONDの基線長が約2cm、HOND-SIKMの基線長も4年間で約1cm縮んでいることがわかる。後者の変動はAVL1とHOND間に存在する収縮力源のみでは説明できない。また、東西方向のstrain rate を10-7 /yearとしてもテクトニックな変形では説明できず、他にも変動にも存在している事が示唆される。今後も注意深く観測を継続していくことが重要である。
図4 AVL1-HOND、HOND-SIKMの基線長変化図。2004年4月の変化はアンテナ交換によるもの。