地震波異方性第五のパラメターと地球標準モデルの構築 (科学研究費・基盤(B)H29-H31)
[HOME]

地震研究所 川勝均




地震波異方性第五のパラメターと地球標準モデルの構築

-リソスフェア-アセノスフェアシステム (LAS) 異方性の適切なモデル化をめざして-



Publications:
研究の概要(科研費申請書より)

本研究は,我々(国際共同研究チーム)が最近新たに提案した“地震波異方性第5のパラメター”を使い,最終的には現在の標準モデルPREMに代わる全地球(上部マントル)標準モデルの構築を目指すものである.そのための基礎的な理論的研究,ロバストな解析アプローチの提案,データ解析,モデル構築などを国際共同研究チームとして推進し,グローバルな異方性構造およびトモグラフィー研究の新たな指標となることをめざしている.地球内部の地震波異方性が,あらたに定義されたパラメターにより適切に記述できるようになることは,地球内部の流動変形を観測から制約する上で重要な進展となり,地球内部構造,地球内部ダイナミクス等の研究分野に広く貢献するものと考えられる.


Seleceted related publications:
研究の学術的背景

地震波の伝わり方が,伝播方向(または振動方向)に依存する性質を,地震波異方性という.地球内部については,そもそも異方的構造を持つ鉱物結晶が,ランダムな方向に混ざり合っていると想定して,第一次近似的に等方的な構造を仮定することが多い.いわゆる標準構造モデルの多くはこの等方性を仮定したものであるが,全地球の代表的な標準モデルであるPREM (Dziewonski & Anderson, 1981, PEPI)には,深さ24-220kmの範囲に,鉛直軸対象な異方性が組み込まれており,地震波異方性が単なる二次オーダーの現象でなく,地球構造の基本的性質であることを示していると言える.地震波異方性は,結晶がランダムでなく一定方向に並ぶ(配向する)場合に実現し,そのような現象を引き起こす地球内部の流動変形等の情報をもたらすことから,近年盛んに観測研究がなされている.

弾性体の一般的な異方性を記述するには21個のパラメターが必要だが,等方の場合の2個と較べて格段に増えるため,軸対象な異方性(Hexagonal symmetry)を導入し,5個のパラメターで記述するのが一般的である.上記PREMにおいては,対称軸が鉛直方向であるとして(鉛直異方性,radial anisotropy),標準地球モデルに組み込まれている.近年の表面波を使ったグローバルトモグラフィー解析では,水平方向に変化する鉛直異方性を決定し,プレート運動等との関連を議論するまでに至っている.また対称軸が水平面に平行として,方位に依存する異方性(方位異方性)を議論することも多い.

さてこのように近年観測研究が盛んな地震波異方性研究分野であるが,軸対象な異方性を記述する5つのパラメターの内,P波,S波の速さとそれぞれの異方性の強さを記述する4つのパラメター以外の5つ目のパラメターの物理的意味が深く検討されずに研究が進んできたという意外な一面がある.最近我々は,この5番目のパラメターの物理的意味を考察し,一般的に使われているものではなく,新たに導入したパラメターが適切なものであることを明らかにし公表した(Kawakatsu et al., 2015, GSA special paper).本研究は,新たに導入された“異方性第5のパラメター”の性質の詳細を明らかにし,最終的にはPREMに代わる全地球(上部マントル)標準モデルを構築し,今後のグローバルな異方性構造およびトモグラフィー研究の新たな指標となることをめざしている.



go to Home OHRC ERI