2005年当時、大学院生と脈動と呼ばれる海洋波浪が引き起こす地面の振動を研究していました。するとデータの中に奇妙な微動の信号が混じっていました。見つかった微動の周期は12秒程のゆっくりとした振動です。冬に庄内平野の海岸線付近で発生し、一度発生すると数日微動の活動は続きます(図1 (a)に典型的な地震波形を示しています)。当初、冬の日本海は荒れているため、波浪が原因ではないかと考えました。波が海岸線に打ち寄せ、陸を叩き地震波が発生していると考えたのです。ところが詳しく調べてみると、海の波では説明のつかない、二つの奇妙な観測事実が浮かび上がってきました。

Fig. 1
図1: (a)典型定期な微動の記録(2004/12/6 の1時間分)。縦軸は微動源からの距離、横軸は時刻を表す。右上の地図には、微動源の位置と微動の振動方向を図示している。

一つめは、地震波がある一点で発生している点です。図1(a)に微動が発生した場所を星印で示しています。波が海岸線を叩いているのならば、海岸線にそって地震波発生するはずです。実際はそうなっていない。どうも海洋波浪では説明が難しそうです。

2つめは、Love波のみが観測されRayleigh波がほとんど観測されない点です。図1(a)の右の図は各観測点での波の振動方向を示しています。微道源(星印)と観測点(赤印)を結ぶ直線に対して直交する方向に振動している様子が分かります。言い換えると、微動源(星印)からLove波が発生していることを示しています。単純に考えるとLove波を発生させるためには、地球をねじる力が必要です。そのような力を現実的とは、考えづらい。観測はしっかりしているのですが、どう解釈すれがよいかさっぱり分からない。2005年当時は解決の糸口もつかめない、というのが本当の所でした。

私の研究テーマのひとつは、とにかく地震計が記録する地面の動きの記録をひたすら見て、何か新しい現象を探す事です。そうすると、奇妙な現象が見えてくることがままあります。しかし多くの場合その場では白黒つかず、はっきりと現象を理解できないことが多々あります。そういうときには、分からないことは分からない事として、研究テーマの卵としてストックしておくことが大切です。研究の経験を積むと新たな視点から視界が突然開けることもありますし、新たな観測から新たな手がかりが得られることもあります。2005年当時、あらたなテーマとして暖めておくことにしました。

2010年の秋頃、そろそろ研究を再開することにしました。まずは、本当に観測されたLove波を説明するために"ねじりの力"は本当に必要なのかを、考える事にしました。すると、一つ大きな落とし穴があることが分かりました。地表付近に数kmの厚さの堆積層(柔らかい層)が存在するので、堆積層の底に微動源が存在するならば観測された現象を説明できることが分かってきました(*1)。微動源の位置を精密に決定したところ、時期にかかわらず、最上川の河口のほぼ一点に決まりました(図2)。微動活動は冬に活発で、海が荒れている時期と一致していることも分かって来ました(図1(b))。色々な状況証拠から、最上川河口の堆積層の底に流体層が存在し流体の移動に伴い微動が引き起こされると、私たちは考えています(図2)。海が荒れるとそれが引き金となり流体の移動を引き起こし、微動が始まると推定しました。

この現象には、まだまだ謎がつきまとっています。まず、なぜ世界中で庄内平野のみ観測されるのか?かが依然大きな謎です。私は、日本国内でも、もう少し小規模ならば、同じ現象がおこっていると考えています。日本以外では地震観測網の密度が落ちてしまうため、この論文と同じ精度での議論は難しいのが現状です。しかし、その候補は存在します。例えばギニア湾には、1960年代の昔からこの微動に似た現象が知られています。アフリカは観測点が少ないのですが、ずっと大きい微動が発生しているために世界中で観測されているのです。しかし、いまだその原因については謎に包まれたままです。もしかすると、今回発見された新たな微動現象は世界的中に普遍的に存在している現象なのかもしれません。

Fig. 2
図2: 上図は決定された微動源の位置。下図は、どうやって微動が発生しているかの模式図(上図の太線に沿った深さ断面)。

*1 もう少し詳しく説明すると、堆積層内のP波速度が、その下の地殻のS波速度と一致するために、波源が堆積層内にある場合にはLove波を非常に効率的に励起する事が分かってきました。

Enigmatic very low-frequency tremors beneath the Shonai plain in northeastern Japan, Kiwamu Nishida and Katsuhiko Shiomi, J. Geoph. Res., VOL. 117, B11302, 11 PP., doi:10.1029/2012JB009258, 2012.