掘削研究から南海トラフ地震を考える


NanTroSEIZEの概要と成果
全体概要
ステージ1(2007-2008年)
ステージ2(2009年)
ステージ3(2010年)
今後(2011-2013年)
木下の主要論文概要
巨大地震固着域で蓄積される応力推定
ACORK デコルマ先端部の間隙水圧変動
メタンハイドレート下限深度異常から断層活動の推定

海溝型巨大地震固着域で蓄積される応力の大きさを推定

クーロン破壊モデルによれば、プレート境界地震における破壊(地震発生)を規定するのは、せん断応力、上載荷重、有効摩擦係数(間隙水圧を含む)である。このうち、プレートの沈み込みにより断層面上に蓄積される、せん断応力の大きさを推定した(図1;Kinoshita and Tobin, 2013)。熊野灘沖南海トラフにおいて2次元弾性体モデルを構築し、地震発生間隔(~100年間)に海洋プレートが5m沈み込むとして、断層固着域上に蓄積される最大せん断応力値を評価した。固着域の最深部(downdip側の縁)で最大となるが、その大きさは媒質の弾性特性に依存することが示された。地震準備期間の応力蓄積量は、地震発生時の(静的)応力降下量(3-4MPa)にほぼ等しいと想定すると、その最大せん断応力を生じるのに必要な媒質のヤング率・ポアソン比は、既往研究による南海トラフ域のVp、Vsから計算される値と整合的であった。


Kinoshita, M., Tobin, H.J. (2013), Interseismic stress accumulation at the locked zone of Nankai Trough seismogenic fault off Kii Peninsula, Tectonophysics, 600C, 153-164. http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2013.03.015.

デコルマ先端部の間隙水圧変動を孔内モニタリング

断層の有効摩擦係数を規定する上で、浅部断層では間隙水圧が重要な役割を果たすと考えられている。室戸沖南海トラフ付加体先端部において、2001年に孔内間隙水圧モニタリングを開始し、これまで11年にわたる連続データを取得している。2003年に室戸沖で起こった超低周波地震や、2011年東北地震の発生から数日後に間隙圧の一時的な増加が観測された(Davis et al., 2006; 2009)。私は無人潜水船(ROV)によるデータ回収航海提案を提出し、ほぼ毎年採択されており、首席研究者として乗船し、データ回収を行ってきた。


Davis, E., M. Kinoshita, K. Becker, K. Wang, Y. Asano, Y. Ito (2013), Episodic deformation and inferred slow slip at the Nankai subduction zone during the first decade of CORK borehole pressure and VLFE monitoring, Earth. Planet. Sci. Lett., 368, 110-118, doi: 10.1016/j.epsl.2013.03.009.

メタンハイドレート下限深度異常から断層活動の推定

メタンハイドレートの生成分解過程は主に温度・圧力で規定されることから、ハイドレート下限深度(〜BSR深度)から熱流量を推定することができる。ところが南海トラフ付加体斜面では、両者下限深度が温度場と明らかにが一致しない場所が存在する。断層活動や堆積・浸食作用による急激な深度(圧力)変化によりハイドレート条件が変化するが、生成分解時の潜熱は周囲の地層との熱交換が必要なため、BSR下限深度が新たな平衡に達するまでの遷移状態が存在することが原因だと推定仮定した。エンタルピーを考慮した熱拡散モデル計算により、熊野沖前弧スラストがごく最近(1万年)活動を起こしたと推定した(図2Kinoshita et al., 2011など)。


Kinoshita, M., G. F. Moore, and Y. N. Kido (2011), Heat flow estimated from BSR and IODP borehole data: Implication of recent uplift and erosion of the imbricate thrust zone in the Nankai Trough off Kumano, Geochem. Geophys. Geosyst., 12, Q0AD18, doi:10.1029/2011GC003609.