2001年1月24日(水) 観測支援: 警視庁ヘリ 立川より飛来  「おおとり2号」 JA6635号機 (ベル412)  クルー3名の他、搭乗者は我々観測員2名のみ。 観測者:大島、松島(地調)  東京は快晴、三宅島は晴ときどき曇り 天気予報は「貴重な晴の日」、今後しばらくぐずつくという。東京〜伊豆大島は快晴 、白雪の富士山、南アルプス、まだら雪の丹沢などくっきり。(北関東の山々は見え ない。) 北よりの風だが、これまで(少なくとも今月前半)のような強風ではない。 海面は多少白波が見える程度。 三宅島上空は高度約1500mに雲(べた一面ではない)、そのかかり具合で晴一部曇り。 北東の風。噴煙は南西へ。島の上半分を白くした1月14?〜15日の雪は既になし。 搭乗時間 9時00分 〜 12時40分 (帰路伊豆大島で給油のため1時間待機) 観測時刻 9時51分 〜 10時31分 (上空観察40分間) 9:00 東京ヘリポート、立川から飛来の「おおとり2号」に搭乗。 9:02 北に向かって離陸、いつもの警視庁コース。  (〜 芝浦 〜 目黒 〜 二子玉川 〜 新横浜 〜 横浜 〜 逗子 〜) 9:21 城ケ島西方 9:35 伊豆大島東方      視程よし、新島・神津島・三宅島など広く見渡せる。      前方三宅島は1500mに雲。噴煙は雲を突き抜けて真上に上がり、      島の高さの2倍強で右に折れ曲がって(南西にたなびいて)いる。 9:51 三宅島(神着)上空到達、      雲がかかっているため高空からの俯瞰断念、雲の下高度約1000mを行く。 カルデラ内見える!(1月前半は強い西風でカルデラ内に噴煙噴気がこもり、底や火 口を見ることは出来なかった。見えるようになったのは、中野・大野組の1月22日 から。) 1回目往路;スオウ穴〜カルデラを右に見つつ東斜面上空を南下、右窓が真っ白な噴 煙だけの1535南東火口列あたりで左旋回、 1回目復路;カルデラ東縁に再接近、縁外側を東〜北〜北西へとまわる。噴煙手前の 西中腹で左旋回、臭う! 2回目往路;カルデラ西縁に接近、ドアオープン。松島さんは熱測定、大島は肉眼観 察。カルデラ縁沿いを西〜北〜東へ半周、斜面も観察のためそのまま噴煙沿いにレス トハウス東まで南西進。ドア閉、左旋回。 2回目復路;カルデラ東縁に再接近、縁外側を東〜北〜北西へまわる。1回目同様、 西中腹やや手前で左旋回、今度は臭い感ぜず。 3回目往路;カルデラ西縁に接近、再びドアオープン。松島さんもう1回熱測定、肉 眼観察ももう1回。噴煙による隠れ具合、雲による陽射し/日蔭の具合など時々刻々 変わるので、観察回数は多いほどありがたい。カルデラ縁沿いを西〜北〜東へ半周、 南東火口列手前で左旋回、ドア閉、カルデラ内観察終了。 3回目復路;中腹観察。東〜北〜北西。 都道沿い;伊豆〜神着〜赤場暁。時間切れらし、左旋回。 10:31 三宅島離脱       東ヘリ出発時に「帰路は神津島で給油」と聞いたが、新島に変更、       新島給油不可の連絡を受けて伊豆大島に再変更。 10:59 大島空港着陸、 11:02 エンジン停止(管制塔前)、降機。       空港待機約1時間。ロビーから気象庁へ概要電話連絡。       給油はクルー3人がかりだった。 11:58 大島空港離陸、北へ 12:14 城ケ島西方       〜 葉山から内陸へ 〜 往路と逆 〜 12:38 東京ヘリポート着陸、 12:40 降機。 (1)噴煙の状態 噴煙は灰を交えず純白色。主火口付近からいつもより力強く、モックモックと上がっ ている。前述のとおり、高さは島の高さの2倍強、約1700m。1500mの雲を 突き抜けて真上に上がり、北東の風で南西にたなびいている。粟辺〜阿古が噴煙下。 噴煙下部・両側の青白ガスは容易に認識され、毎度のことながら、これを通して見る 南の空は赤っぽい。接近時、機内硫黄臭。 (2)火口 1月22日午前以降48時間内に南西カルデラ壁の崩落があった模様、西側噴気列一 時的に閉塞中? 主火口は活発。その西側の列状噴気地帯が不活発。これまでグループにして少なくと も7カ所(数えようによっては十数カ所)から高く上げていた噴気列の活動が弱く、 立ち上がる白煙はせいぜい50m、多くはもっと低い。噴気地帯全体が蒸し焼きのよ う。あちこちから無秩序に弱い噴気が上がっている。カルデラ壁崩落物に覆われたら しく、弱いところならどこでも構わずに蒸気もれしている感じ。噴気が少ないだけ背 後のカルデラ壁は見やすくなっており、新鮮。 1月22日フライト(中野・大野氏)までは従来と同じ噴気状態と見えるため、その 後48時間以内に崩落・閉塞が起きたと考えられる。小規模降灰が起きる可能性も考 えられる。 壁面崩落による埋没で一時的に噴煙活動が減衰する現象は、12月中旬にも見られた 。その後高い噴煙、降灰があった。崖錐斜面にガスの抜け道を見いだして結局元のよ うな噴気列を再現した。今回もまた元のようになるのではないか。 今日は噴気列から出る白煙の邪魔がないため、主火口が西側から今までより見えやす く、大きい。(南半分はこれまで殆ど姿を見せていない。)主火口の北からの姿に変 わりはない。なお、主火口火砕丘北西斜面上部の亀裂部分は、今日、噴気活動盛ん。 (ここは結構盛衰をくりかえす。) (3)カルデラ底 (3−1)水溜まり 池(水溜まり)が多い。主体は従来からの北側の池(NP、Northern Pond)と、マ ウンドをはさんで西側の池(WP)。主火口火砕丘の北側一帯(カルデラ中央とも言 える、CP、Central Pond)も湿地状に全面水浸しに近く、起伏に富んだ凸部分が多 島海?的に浅い水に顔を出している。東側(EP)も湿地〜浅い多島海状。 色はNP=うすカーキ色、WP=黒、CP・EP=無色。水の色は、過去数カ月の経 緯からすると、崩落(または流入)物質の細粒物の懸濁によると思われる。(海食崖 下の「変色水」と同じ。)NPは酸化スコリア(〜アグルチネート)が落ちれば赤く 、オード色の壁面の崩壊の後はオード色に、と変化してきた。WPの背後には黒色ス コリアが見える。CP・EP=無色は崩落物質の供給・懸濁がないことに符合する。 EPは以前、東壁面物質の流入で色変わりしたこともある。 水量は降雨の影響もあるかもしれない。今、CP・EP・NPはわずかに繋がってい るように見える。CP・WP間もきわめて近い。 WPは12月にくらべて明らかに水位が上がり、かつ拡がった。水位上昇により西か ら張り出す半島状部分はやせ細り、主火口側から飛び石的にのびていた半島状部分は 中間が水没して先端が島状に取り残された。この水位上昇には、西カルデラ壁の崩落 が寄与している。崖錐が拡がり、その張り出しでWP南岸(の長さ)は12月末より 縮小している。 どの水面も湯気ひとつ立っていない。そばで蒸気排出をつづけているのに、かくも熱 は伝わりにくいのか。(NPを除いて浅い)池〜水溜まりの数々、今はカルデラ湖誕 生の第一段階を見ているのだろうか?将来の中心噴火の時、防災上は水はない方があ りがたいのだが。。。 (3−2)マウンド 特に変化はない。以前から顕著なカルデラ縁に平行にカーブするリッジ(カルデラ縁 と同心円状のリッジ)は健在。堆積物の帯状配列や粒径分布から見ても、やはり、崩 落による(皺寄せ)とみてよいだろう。 (4)カルデラ壁 成層火山の見事な環状断面。白煙に隠された南壁とドロに汚れた北壁上部以外は目を 見張る露出。ひとつひとつ書き始めたらたまらない。しかし現在の活動推移の予測に 直結する話ではないので、ここでは略。 (5)カルデラ縁 南西縁の地割れは今の噴煙排出活動に影響が出るため注目している。今日は、噴煙の 下で近づけなかったが、火口噴気閉塞状態から察するに壁面崩壊の可能性大。南西縁 の地割れの崩落は進んでいるだろう。 北縁は、崩落候補生として地表がガタガタにゆるんでいるのが見える。不規則な地割 れが生じている。最大傾斜の谷筋を切ってもいる。 (6)カルデラ周辺斜面の縞模様、今日は南西側に行けず、東〜南斜面では見られな かった。 (7)松島さんによる熱測定 主火口火砕丘北西斜面上部の亀裂部分で約180度、主火口で200度超、とのこと 。前回1月15日より視程は格段によかったが、噴煙に邪魔されて高い温度はキャッ チできなかった模様。なお、15日の宮城さんによる300度強は、噴煙がカルデラ 南壁から離れた時、瞬間的に南西側から主火口付近をねらったもの。 (8)スオウ穴その他の水の色 スオウ穴の水はきたない薄カーキ色。東南東縁そばの1535火口もほぼ同じ色。北斜面 のダムもきたなく、かつての赤さはうそのよう。主な原因はいずれも、流入(崩落) 堆積物の微粒子の懸濁によると考えられる。以前からの共通認識と思っていたが、個 人的勘違いではまずいので、あらためて掲載。 なお、1月22日フライト直後、上記の黒い西池(WP)が話題になったらしいので 、気象庁には下記の参考メールを送った(23日)。 (9)都道沿い 久しぶりに北半の民家のある周辺状況を見た。伊豆から神着、赤場暁まで。都道の所 々泥流で路面の見えないところ、片側埋まったらしい所もあるが、島下あたりを2台 の車が南下するのを見ると、通行に支障はないらしい。やや高めの飛行のため細部ま ではわからないが、新たな泥流、民家の被害など、特記しなければならないような別 状はなし。色とりどりの屋根を見せた家々が主の帰りを待っているよう。 (大島 治)