2001(平成13)年4月4日(水) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 「おおとり8号」 JA18MP号機         クル−3名と我々観測員2名のみ。         東ヘリ始発〜東ヘリ帰着、のため途中給油着陸なし。 昨日、目視観察時のドアオープンの必要性と要望を理由説明付きで潟山さんに伝えた。 それが警視庁航空隊に伝えられ理解も得られたのか、今日は出発前から(まだローター の廻っていない機外で)モンキーベルト着用となった。 (「モンキーベルト」は去年海上自衛隊ヘリで知った俗称/通称?で、いくつかの種類 に出会ったが、今回のはチョッキ型、裏には「SAFETY VEST ASSENBLY」とある。) 今日も(前回とは別の)ベテラン機長、お世話になった。 2.搭乗観測者 : 伊藤(地調)・ 大島 3.天候・飛行コース・時刻等 :  今朝まで雨模様。東京の空には8時前に急に青空が見えてきた(北から寒気が張り出し て来た)が、伊豆諸島方面はまだ。回復を待って1時間延発。  搭乗時間 09時50分 〜 12時35分 (搭乗後エンジン始動、エンジン停止後降機)  観測時刻 10時48分 〜 11時29分 (約40分間) 09:50 東京ヘリポートにて搭乗。  9:52 エンジン始動  10:00 発進    10:01 北に向かって離陸      いつもの警視庁コースで南下、視程よし(北関東の山々までは見えない) 〜 田町 〜 多摩川園 〜 新横浜 〜 逗子から海上へ 〜 城ケ島西 〜 伊豆 大島東方 〜 (伊豆半島には雲がかかって富士山は見えないが、視程よく、大島過ぎから一面の雲の 下に三宅島がうっすらと見える。海面おだやか、白波ちらほら、弱い追い風、機は時に 上下するくらいの安定飛行) 〜 10:4X 三宅島直前は一面の雲の下だったが、三宅島から南の空は明るく高曇り、 背後の御蔵島も見える。 高度4500 ftより上にちぎれ雲、噴煙はそれに届かない。白煙が火口上太めに上昇、御 蔵島の西海上に向けて弱い風を受けて南南東にたなびき拡散している。白煙の高さは島 の高さの1/3弱。即ちカルデラ縁上約200〜250m。 10:48 三宅島北西(伊豆岬)上空到着。 噴煙が南側に流れているため、西〜北(〜東)側からの観察(右ドアオープン)とな る。 1回目: 高空(5000 ft) できれば先ず全景を見ようと高く上がってもらったがち ぎれ雲の上。この雲は実はうすい雪雲で雪が真横に走ってしばらく下がよく見えない。 これを過ぎるとパッ、カルデラ内くっきり。 2回目: 中空(4500〜4000 ft) ちぎれ雲の下。カルデラ内よく見える。 3〜4回目: 低空(3500 ft〜外側へ離れたところでは700m以下) 11:29 坪田で反転(海側へ左旋回)後、北東海上から離脱。 〜 伊豆大島の東 〜 城ケ島西端 〜 油壷 〜 小田和港から内陸へ 〜 追浜  〜 磯子 〜 横浜 〜 丸子橋 〜 田町 〜  12:32 東京ヘリポートに北から着陸、 12:35 エンジン停止、後降機。 4。 観察事項 4−1. 噴煙 噴煙は弱い北寄りの風で火口から約45度上方に上昇、南側へ流されている。白煙。灰を 交えず。観察飛行中に風向きが徐々に変化したため、当初は南南東へ、最後は南西にた なびく。 噴煙の高さは rim上200〜250m程度、最高時でもせいぜい300m。そのまま南側へ拡 散、白い主体部は島の範囲どまりと言っても過言でない。 青白ガスは薄く下部に漂い、海上までのびる。噴煙直近まで接近していないため、今回 の飛行では西側でも東側でも臭いは感ぜず。 噴煙量は、3月21日の少なさは別格として、回復してきてはいるが、以前に較べて少な い。3月28日より少ない感。しかも排出に力強さを欠く。 (以前のモックモックはなく、だれている。パルス状でないとは言えない程度に排出に 「息遣い」をしているが弱い。) 4−2. 火口 噴煙の主な排出点は第2主火口(ふだん主火口と呼んできたカルデラ中央寄りの火口の 東隣)。 噴煙のために内部までは見えないが、白煙の出具合から判断すると、単一の火口ではな く、北西〜南東に配列した3〜4コ?の vent から噴いている可能性も(?)。 かつての主役である主火口の活動は弱い。3月28日の観察と同じく、もうもうとするこ ともあるが、火口の輪郭を見せがち。その時は少なくとも2本の白煙が見分けられ、た いてい高さはせいぜい150m。(第2主火口からの大型白煙に合流して、区別しにくい こともある。) 南火口は不復活。黒い地肌を見せがち。噴気の高させいぜい100m(?)。その後方、 南西にかけて白煙排出点が4つくらい並んでいる模様。位置は丁度、北西噴気帯の vent 列の延長上。 (以前からそのあたりから噴煙が出ているように見えてながら噴煙に隠されて確認しづ らかったが、ようやく見えるようになってきた。) 北西の噴気帯はほぼ全体から白煙。一般に高させいぜい100m。根元からモワッとひろ がって、これまでのような噴気「点」は確認できない。よって白煙帯。 よく見ると主火口の北西隣の最大火口(直径主火口の約1/4)からの白煙が盛んで、 カルデラ内の気流のためか(南壁に当たった北よりの風が下降し、底に当たって二手に 別れるらしく)主噴煙とは逆の北西にむかって、丁度噴気列の上を漂っている。 12月22日かその直前頃の崩落以降崖錐北側のカルデラ壁下に生じた北端の噴気は相変 わらず。 その他今日は3カ所から噴気。 ・火口丘北西斜面の亀裂はほぼ沈黙。下端のカルデラ床との接点(北麓)で弱い噴気。 白煙高さ50〜20m?未満程度で変動あり。(3月28日には見られなかった。) ・火口丘北北東斜面下部 沈黙に近いが弱く噴気。高さ50〜10m未満程度で変動あ り、複数。(ここも3月28日は沈黙状態だった。) ・火口丘北東斜面の亀裂 弱く噴気。高さ一般に100m未満。 4−3. カルデラ底 カルデラ底は特段の変化なし。かすみなどもなく、久しぶりにクリアに見える。今朝ま での雨のためもありそう。 中央の(火口丘北麓の)湿地帯状小池群は、今日は水浸し。今朝までの雨のためと思わ れる。 西池(黒池)は相変わらずの黒池。カルデラ壁崩落による崖錐の成長で西池の平面形は 少しずつ変化している。 北池は相変わらずきたないオード色。岸線若干変化。 北東〜東側は壁の崩落に伴う流れ込みの地形が顕著。(詳細略) 4−4. カルデラ縁と斜面上部 今朝までの雨できれいに洗い流されたらしく、カルデラ壁面はよく見える。(3月21日 のような灰かぶりとは段違い。)赤・黒を基調とした成層構造が美しい(が、今の活動 自体にあまり関与しないので、略)。 カルデラ縁の地割れは、南西〜南は健在。以前に較べると大分スリム化している。 西南西縁の大地割れは、南側への延長が出来たように見える。3月28日のような超低空 での観察ではないので、細かくはわからないが、細い地割れとして南東へ延び、再びカ ルデラ縁に抜けて見える。 従って、地割れによって外側斜面から隔離されたブロックは、平面が分厚いレンズ状と なった。全長200m余り、幅50mくらいか。(寸法は後刻もう少し検討、前回の長さ見 積はオーバー。) なお、この下が黒池の崖錐。崖錐は主に壁面下半から供給されており、上半分はオー バーハングぎみ。下から物質が抜け落ちたために天井に一部に穴が開いたようなもの で、他のこれまでの地割れとは出来方が異なる。下位が先に落ちたために上位が沈み始 めたのも(落差も)うなずける。 いずれ崩落は間違いないだろうが、位置的に、噴煙活動への影響はあまりなさそう。 南側の壁面はあらたに薄く落ちたかもしれない。南壁が新しく見えるのと、南火口の南 東延長の蒸し焼き的な噴煙の排出状況は、壁面崩落をにおわせる。(南壁の過去の様子 がつかめていないので、はっきりとは言えない。) 東壁の崩落も進んでいる。東斜面の浸食も大分進んだ。スオウ穴東隣の沢は幅広い谷頭 浸食が殆ど縁に達した。 スオウ穴の水は相変わらずきたない草色。今朝までの雨にもかかわらず、水位は高くな い。以前は縁ぎりぎりまで水面が来ていたが、もう大分前から水位は下がって、縁から 20m程度内側は池底堆積物が露出している。 カルデラ縁と池の間に幾筋もの細いすじが前から見えていたが、スオウ穴の水はここを 排水路がわりにカルデラ内(および下位)に漏れ出ているらしい。 北斜面上部は以前と同じく、沢すじは転石のガレバとなっている。全周斜面上半分は灰 まみれで荒廃が進んでいる。 4−5. 斜面周辺〜山麓部 鉢巻き道路あたりを境に下位の植生は緑がよみがえってきている。前回の坪田付近に続 き、今回は北東斜面でも緑の回復を観察できた。ただし針葉樹は茶色のままに見える。 久しぶりに見る東斜面のガリの発達著しい。 赤場暁の都道は今朝までの雨で再び泥流にうすく覆われたように見えた。(今日は波高 く船が出ずに島内復旧作業はない。) 5。 コメント 昨夜4月3日23:57、静岡付近を中心に強い地震があった。揺れを感じてすぐつけた TVニュースでは、静岡で震度5強。 (気象庁発表はのち一部訂正されて、深さ33km、M5.1だそうだが)速報段階で式根島 で震度3とも聞いた。とっさに三宅島への影響を思う。三宅島でも震度2くらいあった かもしれない。その震動でまず2つの影響が考えられる。 (1)ガス排出路(この際火道とほぼ同じとみてもよい)の閉塞促進。 (2)カルデラ縁の崩落、地割れの発達 > 位置により、火口閉塞促進。 外来地震が三宅島のガス排出阻止に貢献する可能性はこれまで何度か述べてきた。三宅 島の地下はステップに伴った陥没で落ちたものの、細密充填にはなっていない。十分に 隙間があり、時間と共に沈下収縮が進むが、外から刺激を与えれば促進されると考えて いた。(外来地震歓迎!) (東海大地震が起きれば三宅島の毒ガス災害も終わる!??) 無知な地質屋のたわごとか? 今日のヘリ観察では、それを試すチャンスに恵まれた。結果ははっきりとはわからな い。しかし、 1)噴煙の力の無さ、 2)噴煙量の(前回観察の3月28日に較べての)少なさ、 3)主火口南側の噴煙排出状況+南壁小崩壊の可能性 4)西南西カルデラ縁の地割れ(南東側への)進展(らしい) 5)さらに、気象庁帰還後、今朝8時台に微動発生とも知った。(< 火道内は分離し た空間だらけだろうが、震動による空間体積収縮で微動発生のチャンスは増す可能性あ りと考えられる。) は、「外来地震効果」に否定的ではないだろう。今後の活動推移を見守り、今日の状況 をふりかえって比較検討してみたい。 (大島 治)