2001(平成13)年11月14日(水) 1.観測支援: 警視庁ヘリ 「おおとり5号」 JA6726号機      東ヘリ始発。クル−3名、観測関係者5名、往路のみ三宅警察署長同乗、      計9>8名搭乗。      午前中火口観察、新島で給油・昼食の後、午後COSPEC観測、の計画。      重力観測の大久保さんと三宅警察署長が三宅中で降りた後、観測飛行      開始。観測終了時に大久保さんを「回収」して帰投。      ベテランクルーの厚意で、最大限火口観察をさせてもらった。大感謝!        2.搭乗観測者 : 火口観察; 川邊(産総研)・大島(2名右側前後に着席)         COSPEC観測; 中堀 ・ 管野 (気象庁、左側と中席) 3.天候・飛行コース・時刻等 :  久しぶりの晴天。三宅上空に雲なく島雲もなく、絶好の観測日!と思ったらカルデラ 内は白煙とガスが滞 留してはっきりは見えない。何度もグルグルまわっているうちに 状況は少しずつ改善、後刻ほどよく見え るようになったが、スッキリはしない。クル ーの厚意で午後のCOSPEC観測終了後にも再度カルデラ接近、 更に大久保さん搭乗後の 帰りがけにもう1回、結局この時が一番ハッキリ見えた。しかしカルデラ壁上半 は色 鮮やかなものの下半や底と火口は午後の低い太陽と噴煙の蔭でやや暗かった。(大久 保さんが火口を 見るのは初めてとのこと。たった1回で今日最高のシーンに巡り合う とは!日頃の行いが余程よいらし い。)   搭乗時間 08:59 〜 15:22 (11:30〜12:50 新島給油・休憩)   観測時刻 10:00 〜 11:15,13:15 〜 14:00(COSPEC),14:18離脱 08:59 搭乗、機外でモンキーベルト着用。(久しぶりの東ヘリは警視庁〜       東消庁格納庫前の駐機場が工事中で、ヘリまで少々迂回。) 09:02 エンジン始動 09:08 発進、 09:09 北向きに離陸、左旋回で警視庁コースへ。 〜 木場 〜 三田 〜 目黒 〜 丸子橋 〜(東横線沿い)〜 横浜 〜 逗子  〜 (高度1800ft)  内陸部を飛行中は白雪の富士山もよく見えていたが、南下につれ視程悪くなり、南 の空は白い。 09:24 長者ケ崎から洋上へ。前方にかすかに伊豆大島の島影。       海はおだやか、西方伊豆半島もかすむ。 09:38 伊豆大島東方(島はかすみの中)。小さな白波がちらほら出始める。       風向きが変わる。当初北北東、以後北北西の風。 09:51 右に新島、前方に三宅島。どちらもかすむが雲はない。       白色噴煙が三宅島向こう側(南南東)へたなびいている。       09:59 三宅中学に東側から着陸。三宅警察署長と大久保さん降機、 10:00 三宅中学を西向きに離陸。  西斜面を南下、〜伊ケ谷〜二男山〜 カルデラ南縁に接近後、ドアオープン。  カルデラ縁すれすれの低空観察から5500ft まで徐々に高度を上げる方式。  西北西の風で、噴煙は東南東の三池港〜空港方向にたなびき、下部は斜面沿いに  海上まで青白い SO2ガスがたちこめている。 10:04 噴煙わきのカルデラ南縁から時計回りで観察開始。超低空、縁上20?m。       白煙は火口の位置から東南東へ。気流のためかカルデラ内にも白煙が       たまり、北東縁からも幅広く東へ上がっている。中はもやって見えな       い。半周後、 10:07 スオウ穴で青白ガスに接近、左旋回で離脱。       反時計回りに西斜面上を南下、カルデラ南縁に再度接近。 10:10 2周目開始、少し高度をとり時計回り。中はやはり煙ってよく見え       ない。東側までまわると、噴煙は低角度でカルデラ縁を越えている。       噴煙排出はパルス状で途切れもあり、すり抜けられる!       高度上げつつ隙間部分をまたぐ(高度3500ft?)。ガスが臭うが濃度は       それほど高くない(中堀さんが検知器で確認)。 10:13〜 そのまま3周目(高度3500ft)へ。       視程は時間とともに少しずつ改善。以後、高度を徐々に上げつつ時計       回りを続行、東南東に流れる噴煙は毎度跨ぐことに。       スオウ穴西隣の北壁崩落は以前ひっきりなしだったが大分鈍り、観察       飛行中土煙なし。加えて最近の雨で洗い流されてカルデラ壁は色鮮や       か。だが、カルデラ内は白煙が綿雲のように邪魔してわかりにくい。       特に火口や底の様子が見にくいのでねばる。 10:39 8周目!高度5500ft 。丁度最高噴煙の高さ(これを跨ぐのに一時的に       6000ft まで上昇) 10:49 低い噴煙を跨いで10周目に入る。カルデラ内は再び煙って見にくく       なってきたためカルデラ南縁を離脱。高度下げつつ鉢巻き林道沿い       に西〜北西斜面上半部観察へ。(そのまま北進) 10:52 北山麓(支庁付近)から外周斜面観察へ。(時計回り10周目後半)   〜神着 〜三池 〜空港(噴煙下のガスもやを通過、臭いわずか) 〜坪田    〜牧場 〜 北西〜北〜北東斜面 まで。ガスの手前で左旋回、   再度西斜面を南下、大路池で右旋回後、海岸沿いを時計回り、 11:15 伊豆岬西海上から離脱。 11:27 新島空港に東から着陸 11:30 エンジン停止。    −−−−−−− 給油、昼食、休憩の後、−−−−−−− 12:50頃 COSPEC固定作業開始(左側) 12:56 エンジン始動(パイロット左右交代) 13:01 新島空港発進   13:02 西向きに離陸、三宅島へ。 13:12 三宅島(神着)接近、噴煙は相変わらず東南東側へ。 13:20頃?COSPEC測定開始、       三宅島東方沖約7哩を高度約300 ft で南北に往復、噴煙を横断。       噴煙軸を横切る時は島の中央部は煙って見えない。 13:55 御蔵島北方でCOSPEC観測終了、三宅島へ向かう。 14:03 カルデラ南縁接近、時計回り開始。       午前よりクッキリ見える。中は蔭で暗い。 14:05 北東地獄谷で左旋回、北海岸沿いに三宅中学へ 14:10〜11 三宅中学 touch-and-go (大久保さん乗機)  14:16 西まわり後、再度カルデラ南縁接近、時計回り開始       最もクッキリ見えた。低い太陽と噴煙の蔭で中は暗めだが、もやが       少ない。底と火口の様子がやっとつかめた。 14:19 北東斜面で左旋回後、美茂井から離脱、北へ。 14:38 伊豆大島東方 14:53 城ケ島西端、以後往路と逆。 15:20 東ヘリ着陸(南から)  15:22 エンジン停止 15:23 降機。  クルー3氏に感謝。  4。 観察 4−1. 噴煙 西寄りの風を受けて、噴煙は主に東南東にたなびいている。純白色、灰を含まず。 約2ヶ月ぶりに見るが、さほど量の変化(減少)を感じさせない。最近の雨のためも あるか? 噴煙排出 の勢いは弱まっている。力強さに欠けしかも連続排出ではない。 以前にも増してはっきりとパルス状に なっており、たなびく噴煙に途切れ・隙間もで きている。このようなはっきりした途切れ噴煙(間欠噴 煙)は初めて。(上述のよう に、風下側で噴煙の切れ間をヘリで通過することもできる。噴煙の上方から は、切れ 間から地上がのぞくこともある。) 個々の噴煙柱の頭位はブロッコリー状。高さは東〜南カルデラ縁より低いこともある が、最高は島の高さ の約2倍強、海抜約1700m程度まで。火口上で頂位に達した後、 西よりの風に運ばれて低角度で上昇、頭 打ちになってゆくが、勢いのない噴煙柱の多 くはカルデラ内で東へ倒れ、東南東カルデラ縁にもたれかか るように斜め上方へ上が ってゆく。 パルス状排出のため、たなびく噴煙を横から見ると入道雲のような白煙柱が倒れ、高 低くりかえしの噴煙 塊が東方へ移動、拡散していくように見えることが多い。 噴煙下部には青白いガスを明瞭に伴っている。斜面を下り、海上にひろがっている。 下位ほど色濃いた め、高く上昇する水蒸気白煙とはっきり分離して見える。逆光で見 るといつもどおりに赤味を帯びてい る。 なお、カルデラ内の気流のためか、低い噴気、特に北西噴気帯から上がる噴気は、主 噴煙柱とは逆に北西 〜北側にひろがってカルデラ内に滞留、北東側カルデラ縁からこ ぼれるようにひろがっていた。特に観察 始めの時点では、一見噴煙が幅広くいくつも あるようにも見えた。 * 高い噴煙に注目して気象庁の震動データをあとから見せてもらったが、個々のパ ルス状噴煙に対応す るような波形は見られなかった。 4−2. 火口 モーモーと上がる噴煙・噴気で火口はなかなか見えない。(こんなにモーモーとす るのも珍しい?)火口 から北西噴気帯まで全体に力強さは感じられないが広い範囲で 白煙が上がる。 10回余りの上空旋回で、高い噴煙を上げる活動火口は1つでないように見えた。起点 の異なる噴煙柱が2 本(〜3本)並列することもあり、2〜3火口が活動しているよ うにも見える。秒単位のズレはあるが 「同時多発」噴煙! 主火口はこれまで北西〜南東方向の南北2列上で計5〜6点 vent 位置を変えてきて おり、このところは最 も南東寄りの火口(S2〜3)で主噴煙を立ち上げてきた。 今日も基本的には同様。しかし北側の列も(最初の主火口=N1、ひょっとするとそ の東隣N2も?)間欠 的に噴煙を上げるように見える。休んでいることの方が多く、 時に輪郭や底も見えるが。 最も活発な南東寄りの火口(S2〜3付近)は常時白煙の奥。火口自体は見えず、噴煙 柱の立つ位置でそこ とわかるものの、噴煙排出位置は列上で幅があるように見え、南 東側に新たにS4 が加わった可能性もあ る。 +++++++ 火映現象について、「同時多発」が関係? +++++++ 飛行中の温度測定で400度をこえる最高温度が測定されたこと、その後火映現象が今 年1月以来初めて観 測されたことを、あとから知った。火映現象に直結する明瞭な表 面変化等は感知できなかったが、複数火 口(vent)の活動による高温領域の拡大が火 映現象につながった可能性も考えられる。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 4−3. カルデラ底 午後のフライトでやっと(ちゃんと)見えた。 4−3−1。 底はかなり水浸しになっている。中央部分に大小多数の池がある。大 雨の後によく見る光 景だが、カルデラ底のしみ込みが悪くなってきたことも考えられ る。(しばらく続いた北壁崩壊ダストも 一因?)今後の推移、観察の必要あり。 4−3−2。 大きく変わったのが「西池」=「黒池」。一時東西に細長く縮小ぎみ だったが、大型かつ 南北径も劣らず大きく変身している。周辺部が赤黒いのは変わり ない。南西カルデラ壁の崩落による崖錐 が大きく成長したために池の位置はややカル デラ中央側に押し出された格好。(北西噴気帯の延長上では 崖錐の間からも小規模な 噴気が上がっている。)カルデラ底全体に水位が上がった(水量が増した)らし い。 4−3−3。 「北池」健在。ほぼ三角の形に大きな変化はないが、やはり水位上昇 のためか島状に点在 していた大型岩塊は見えない。北壁崩壊による崖錐堆積のため、 北岸はより南に移動している。半島状に 小さな張り出しも。北壁東端の常時崩落も最 近は収まったとみえ、オード色だった水の濁りはない。 4ー3ー4。 北西壁直下の(マウンドとの間の)「西小池」もやや変形、肥大。 (他の水没部分とは独 立の閉じた窪み) 4−3−5。 火口丘(火砕丘)北斜面に早くも?雨裂が数条見える。 4−3−6。 東カルデラ底の岩なだれは地形明瞭だが真新しいものではない。 4−4. カルデラ壁・カルデラ縁 北壁の常時崩落がなくなったため、カルデラ壁〜底の「きな粉まぶし」もなく、雨に 洗われ、赤や黒の火 砕岩層、白い溶岩・貫入岩体、岩脈、、、など、新旧成層火山の 断面がよく見える。 4−4−1。 最も目立つのは西壁の貫入岩体がますます大きく姿をあらわしてきた ことか。南西〜西壁 の崩落は小刻みに進んでいるらしい。前記のように南西壁下の崖 錐はますます成長、崖は切り立ってい る。カルデラ縁には崩落し残り部分がまだ1 /3〜4程度残っている。 4−4−2。 北東壁の上中部に逆三角形の断面の白い岩体が2つ、やけに目立つよ うになった。(以前 はブルカをかぶって?大して目立たなかったが。)谷埋め溶岩の 断面らしい。 4−4−3。 スオウ穴西隣の北壁東端(正確には北北東壁)崩落は落ち着いた様 子。大きくえぐれ、西 隣の(本当の)北壁がカルデラ内にやや突き出したかたちにな っている。以前は常時土煙がたちこめ、噴 煙の影が空中に映るくらいだったが、それ もおさまり、隣のスオウ穴は澄んだ青色を呈している。(スオ ウ穴の大きさに変化は 見られない。) 4−4−4。 南東壁。丁度噴煙に隠されてよく見えないが、1535年火口列の火口 内?溶岩は転落した可 能性あり。カルデラ縁の火口が半分歯抜けのように、そして直 下に大型岩塊が鎮座しているように(一 瞬)見えた。しっかりした岩体である上に落 ちたところがアグルチネート壁の崩落による岩なだれの斜面 のためソフトランディン グを果たせたのかもしれない。底にひろがる岩なだれ(4−3−6)と対比?  現火 山活動への直接影響はないが今後要確認。 4−4−5。 南縁〜南西縁の様子が久しぶりに見えた。旧登山道のカーブ地点から 東の縁に昨年からあ る地割れ(亀裂)群は最近殆ど変化していない。内壁は切り立っ ているのは上部だけで中部以下は大きく カルデラ内に段丘状にはり出しているため、 比較的安定しているらしい。これと対照的に、南縁は目立っ た地割れなく、かわりに 小刻みな湾入がふちどり、内壁は下まで垂直に切り立っている。ここが大きく崩 れれ ば火口を直撃(一時埋没)して噴煙活動に変化を生じ得る。(現にかつてあった。) 4−5. 山腹斜面 特段の変化はないが、再認識したことを少々。 4−5−1。 スオウ穴北西外側斜面の沢(カルデラ北縁からの放射谷に合流する支 沢)の浸食がやけに 目立つようになった。 4−5−2。 東斜面の谷の浸食は、分布の上ではあまり変化ない。 4−5−3。 南斜面上部のW字型浸食は進んでいる。 4−5−4。 南斜面の長い谷は中流部がやや拡幅したか?下の仮設橋への影響なし。 4−6. 植生被害とガスの影響 植生変化には目を奪われる(久しぶりに晴れの日に全景が見られたためかもしれな い)。 緑と茶色のコントラストが見事。元々の昨年8月のダメッジもあるが、その後続くガ ス流による植生被害 がはっきりしてきており(茶色く立ち枯れ)、その範囲と地形と の対応がより明瞭になってきている。以 下の観察は人の住環境にも直結する。 4−6−1。 山頂カルデラ縁から海岸まで、ガスが単調に重力下降できる南西斜面 (大路池西〜南風 平;真北から時計回りに約190度〜235度方向)は海岸近くの低い地 域(標高約150m)まで茶色く枯れ ている。 4−6−2。 旧カルデラが地形的に明瞭な手島牧場〜(阿古)〜伊ケ谷方面(約 235度〜315度方向) はカルデラ内茶色、旧カルデラ外の勾配の急な旧外輪山斜面は 緑。山頂からのガスは旧カルデラ縁を境に ジャンプ台同様に地表を離れ空中に放り出 されて風下に漂う。着地点が海上であることが多いため、西斜 面下半(標高約300〜 350m以下)は被害少ない。(この地域はいわば蔭に当たる。)これは以前から はっ きりしていたがますます見事に見えてきた。 4−6−3。 北西〜北斜面(約315度〜0度方向)は、埋没カルデラを示す地形の 変換地域(鉢巻き林 道の上)を境に緑と茶色の境界。下は緑だが、泥流域や昨00年8 月29日の灰を受けた地域は少々くすむ。 全体的にはやはりガスの離陸で色分けされて いる。 4−6−4。 北〜北東斜面(約0度〜80度方向): この地域は明治と昭和2回の 噴火の被害で、もと もと大きな樹木は少なめ。地獄谷ぞいなど、海岸まで緑少ない部 分もあるが、大きめの樹木のあるところ で見ても、茶色部分は標高200〜250m程度ま で下がっている。スオウ穴と地獄谷上方にカルデラ縁の特 に低い部分があり、カルデ ラ内に滞留したガスの漏れ口になっていることに対応している。 4−6−5。 東斜面(約80度〜120度方向): 古い樹木のひろがる東斜面はふだ んガスの流れる頻度 の高い地域。ほぼ全域茶色と言ってもよいが、海岸付近の標高 150m以下と三池火口内壁の一部などには まだ若干緑の気配が残る。役場付近は比較 的緑が残っているが、金層火口(ガスのジャンプ台)の蔭で保 護されている。 4−6−6。 南東斜面(約120度〜190度方向): 坪田〜大路地域は緑が最も濃く 残る地域。鉢巻き 林道付近(標高350m程度、電波中継施設付近など)に茶/緑の境 界がある。ガスの流れる頻度の高い地 域であるにもかかわらず、かなりよく緑が保た れている。ガス流のかげをつくる意味で、古澪、水溜り火 口の存在は大きい。地形を よく見ると、水溜り火口の上方の鉢巻き林道の更に上にも埋没した火口地形が ある。 その東、電波中継施設の上方(標高450〜500mを主体)にも古い火口地形があり、両 者の間の丁 度林道沿いが(2火口とは独立に)地形の変換帯(上が緩やか、下が急) になっている。(これは埋没旧 カルデラの南東縁である可能性がある。) 多量のガス流にもかかわらず緑が多く残されているのは、以上の火口の存在と僅かな 斜面勾配の変化(南 西の阿古方面と同じ)による、地形効果と考えられる。 5. COSPEC このところ2万 t/day を超えていたが、今日の中堀さん管野さんの測定では2万 t/day を切ったらしい。  (大島 治)