4月10日(水) 今回の同乗者は東宮昭彦さん(産総研地質調査所),中堀さんほか1名(以上,気象 庁),大久保さん(地震研)の計5名.搭乗したヘリは警視庁航空隊の「おおとり6号 」.天候は曇り.  この日東京は小雨がぱらつく悪天候であったが,南方ほど天候がよいという判断で フライトが決行された.午前9時5分,東京ヘリポートを離陸.  10時02分,三宅中学に着陸.島内観測の大久保さんほか1名が降りた後,モンキー を付けて10時09分に再離陸,火口観測を開始した.観測は10時28分までおよそ21分間 行った.観測コースは,島の北西側から反時計回りに島の南まで中腹を旋回したのち, 村営牧場上空で方向を変え,カルデラリム沿いを時計回りにスオウ穴付近(ほぼ真北) の位置まで移動.スオウ穴付近で再び機体を反転させ,中腹域を反時計回りで村営牧 場付近まで飛行した後,再びカルデラリムの縁を飛行.このルートを3回繰り返した. 観測時の飛行高度は,最初の2回は約3500ft,最後の1回は4500ft位.  観測終了後新島へ移動し,給油と昼食を採った.12時38分に新島を離陸,COSPEC観 測を行った.13時32分に三宅中学校に着陸,大久保さん他1名を乗せ,帰路に着く. 14時35分,東京へリポートに帰還.長時間にわたる丁寧なフライトを遂行していただ いた警視庁航空隊の皆様に深く御礼申し上げます. [噴煙] 噴煙は午前中は東南東方向に流れていたが,午後はほぼ真東に流れた.噴煙は白色. 雨上がりのせいか,放出量は4/8の金子さんの観測時の状況よりやや多い.到達高度 は海抜1600〜1700m程度(写真1)で,火口観測時(午前中)もCOSPEC観測時(午後) も変化がなかった.一方,青みがかった硫酸ミストは,噴煙の流下方向と同じ方向に 流れていたのが確認された. [カルデラ底] カルデラ内部の様子はあまり変化していない(写真2).雨上がりのためか,地面が 湿っているらしく,地形の起伏がわかりにくい.4/8のフライトで赤褐色に変化した ことが確認された北側の水たまりは,色がコーヒー牛乳色に変化すると同時に,サイ ズがやや大きくなった.雨水の注入と同時に地下水位の上昇の影響を受けているもの と思われる.この北側の水たまりと黒い水たまりとの間にも水たまりが出来ている. ちょうど北西側のマウンドおよび崖錐堆積物と南に位置するコーン群の境目に出来た 低地が水たまりになるらしい.  噴気を供給する火口付近は,ほとんど変化がない(写真3).メインのコーンはひょ うたんというより,同心円状の2重構造になっているように見える(写真4).外側, つまり”外輪山”にあたる部分からは青みがかった硫酸ミストが直接放出されている. そしてその内側にある”主火口”からは,白い噴煙が放出されている.大きく開いた メインのコーンの中にはカルデラ壁の崩壊によると思われるテーラスが火口のすぐ側 まで流れ込んでいる.こういった崩壊堆積物が火口を塞いだ時に小爆発が起こるので はないかと思われる. [カルデラ壁] カルデラの南西側の壁が若干汚れている様に見える(写真5).この壁の汚れている 部分の方向を延長すると,地表付近も若干暗く色づいて見える(写真6).一方,カ ルデラ壁の南西に見えていた亀裂は目立たなくなった(写真7).かつて亀裂が存在 していた場所は黒い水たまりのすぐ背後に位置し,ここには比較的新鮮な崩壊堆積物 が認められる(写真6).火山灰で汚れたように見えているのはその崩壊地形のすぐ 隣り(南西側)であることから,よってこれらの事実をまとめると,カルデラ壁の南 西リムの一部が崩落し,それに伴って火山灰がカルデラの外まで放出されたものと考 えられる.これまではメインのコーンを崩壊堆積物が埋めたときに火山灰が放出され るとされてきたが,今回の崩落はメインのコーンとはあまり関係のないところで発生 していることから,単純なカルデラ壁の崩落だけでも”土ぼこり的な”火山灰がカル デラの外側に放出されうる事が初めて示されたのではないかと考えられる. 今回,初めてカルデラの南側の壁を観察した(写真5および6).カルデラの南壁は薄 い溶岩流が何枚も重なっており(写真8),他の壁面とは若干様相が異なっているよ うに見える.噴気帯に近い領域は熱水変質によって白く変質している(写真9).ま た,メインのコーンのすぐ近くには,巨大な岩脈がほぼ垂直方向に入り込んでいる (写真10).この大きな岩脈の位置がちょうどスオウ穴の対角線上に位置しているこ とから,三宅島ではほぼ南北方向に大きな岩脈が入り込んでいることになる.広域応 力場を考慮すると何か意味があるのかもしれない. [山腹および山麓] 今回は特に詳しい観察は行わなかったが,新たな泥流等は確認されなかった. [その他] COSPEC観測時に玉子の腐ったような臭気を感じた.温泉臭いというより,ある種の不 快な臭いに類似している.中堀さんによる火口温度の測定結果は356度であった. (大野希一) [写真の説明] ※撮影時刻は誤差1秒以内です. 写真1 南東から遠望した三宅島.噴煙はほぼ真東に流れていく.到達高度は海 抜1600〜1700m程度.13時15分00秒撮影. 写真2 カルデラ底のほぼ全景.全体に暗く,地形の起伏がわかりにくい.水たまり が増えている.10時25分34秒撮影. 写真3 噴煙をあげる主火口と噴気帯.雨上がりのため,噴気量はやや多め.10時21 分04秒撮影.     写真4 メインのコーンの拡大.メインのコーンは2重式のように見える.外側の”外 輪山”付近からは青みがかったミストが放出されている.その内側にある”主火口” からはしろい噴煙が噴出している.10時21分50秒撮影. 写真5 ほぼ真北から見たカルデラの南壁.南西側の壁がちょっと汚れているように 見える.10時17分13秒撮影. 写真6 西南西からみたカルデラの南壁.壁の汚れている部分は,地表付近も若干色 づいて見える.黒い水たまりの背後には新鮮な崩壊堆積物が認められる.手前は中堀 さんの足.10時25分57秒撮影. 写真7 南西から見たカルデラ壁.やや遠い視点のせいか,亀裂が目立たない.写真6 と合わせて考えると,最近カルデラ壁の一部が崩落したらしい.10時25分10秒撮影. 写真8 カルデラ南壁の拡大.薄い溶岩流が互層しているように見える.10時17分06 秒撮影. 写真9 カルデラの南壁に認められる噴気帯.噴気帯の周辺は白っぽく,熱水変質し ているように見える.10時21分40秒撮影. 写真10 カルデラの南壁に認められる岩脈の拡大写真.赤っぽい層を灰色の岩脈が貫 いている様子が分かる.この岩脈の入る方向を北方に延長すると,スオウ穴の近くに 繋がる.10時26分09秒撮影.