活断層としての認識について

 今回の地震は第四紀断層であるChelungpu断層が動いたと思われている.池田(未公表資料)は,Chelungpu断層は何カ所かで更新世後期-完新世の河成段丘を切っていることを報告している.また池田氏によると今回の調査でも,地表の断裂がそのような地形をまた切ったところがあるらしい.しかし認識されていないところを切ったところもありそうである.例えば京大隊の中興新村の写真にあるChelungpu断層を示す立て看板の足もとを切った断層は,断層として認識されていたChelungpu断層から300 m離れている.また今回の地震ではなく,1906年の嘉義地震の例であるが,地表断層をトレンチしたことろ断層面がみつからなかったそうである(王源私信).

 断層が堆積層の中を抜けるときは,とんでもないところにトレースが出現することはありそうである.楊昭雄教授は,調査中,Chelungpu断層の断層面が地表でどこにあたるか,同定することはきわめて困難で,活断層法の適用はあまり意味がないことを強調されてていた.実際,光復新村の運動場に表れた断裂は活断層と呼べるかどうか疑わしい.そのような意味で今回の地表の断裂がどのように第四紀の地形と対応するのか,詳しい調査が必要だろう.

    すなわち日本の活断層という概念を単純にあてはめるべきでない.

{10/20/99追加}

 これを書いてから数人の方に,専門家は表面の断裂を活断層とはけっして思っていないとか,逆断層の場合には変なことがおこることがよくある,という指摘を受けた.確かに断裂そのものが活断層と私も思っているわけではない.しかし大体は地形と対応していて,深させいぜい10 mくらい掘れば活断層かそれからの分岐と一致してほしいと思っている.そういう対応をはずしてしまうなら,”活断層”という概念はその有効性を失ってしまい,単なる”地震断層”に収斂してしまうだろう.変動地形で活断層を認識できるというのが,そのよって立つところなのだから.上では,今回の表面の断裂は,その対応がなりたたない可能性があることを指摘している.例えば運動場の南西方向へのすべりである.普通の感覚では,これは地滑りだと見なすことになる.実際ある外国のチームは地滑りとみなしているらしい.しかしその北西100 mくらいのところにある中学校の校舎の破壊のすさまじさは非常に大きな力がかかったことを示している(南西押し出しの破壊力は地滑りよりもすさまじい参照).

{1/20/00追加}

 その後重要な反響として,渡辺満久(東洋大),太田陽子氏から,”今回の地表断層は,第四紀の活断層地形が再活動したものとみなせる”という意見がよせられた.渡辺・太田氏らは空中写真の判読を台湾で行い,今回の地震の地表断層の多く地点で活断層地形を認識したとのことである.したがって「活断層としての認識について,および追加」の私の記述は誤解をまねきかねないという.
 このホームページで,私は”第四紀活断層地形”が再活動した可能性を否定しているものではない.それどころか暗に,”多くの場合は地表断層は活断層地形を再活動させたもの”ということを示唆している.これはホームページの中の,
●活断層地形を切っていないところもあるようだ
●筆者は地震直後からこの地震はプレート境界でおきた地震であると言ってきたが,さすがにプレート境界であるとは言え,活断層には違いないだろうと思っていた.ところがプレート境界地震として,プレート内地震とは違った特徴を存分に見せているようである
●池田(未公表資料)は,Chelungpu断層は何カ所かで更新世後期-完新世の河成段丘を切っていることを報告している.また池田氏によると今回の調査でも,地表の断裂がそのような地形をまた切ったところがあるらしい.しかし認識されていないところを切ったところもありそうである
などの表現からも察していただけると思う.ただ私が言いたかったのは,この地表断層を”内陸のプレート内活断層が活動したもの”ととらえるならば,それは致命的な間違いになるだろうということであった.9月21日台湾地震は,実質は,地学的には海底のプレート境界断層が動いたものであるからである.このことを強調したいあまり,活断層地形の活動を否定するかのような,誤解をあたえかねない文章になってしまったのかもしれない.Chelungpu断層が活断層である限り,地表の多くの地点で活断層地形を形成してもなんら不思議はない.
 しかしこの地震に伴って現れた地表断層を活断層と単純にいってしまうことはできない.地表断層にそった
すべり方向の詳細があきらかになって来た.大槻憲四郎・楊昭雄や杉山雄一らによるすべり方向を断層全体のトレースに沿って分布させるならば,それらが地震すべり方向を表しておらず,さまざまな方向(大体断層の走向に直交方向に)にすべったといわざるを得ない.また,北西端での異常隆起は非弾性変形 が河川堆積物で起きたことを示す.これらは地表付近の媒質の流体的な振る舞いの結果,断裂が発生したことを物語る.これらが変動地形として活断層地形として残るだろうか?もし残ったとしても,地震すべりは北西なので,震源断層運動と活断層とは対応しなくなってしまう.鈴木康弘(UP, 9月号, 1999)は”活断層は地震時の地表変形の痕跡であり,それを解析すること地下深部の震源断層の特徴をある程度解明できる,というのが活断層研究の基本的なスタンスである”と述べている.そういうスタンスが,今回の地表断層に(まったくあてはまらないというわけではないにしても)単純には当てはまらないということが私がこのページで言いたかったことである.そしてこのような特異さは,今回の地震がいわゆる海溝系の地震であったことに由来しているだろう,ということである.