台湾地震の地学的意味

-陸上にのり上げた海溝系大地震-

 地球ダイナミクス部門教授 瀬野徹三

図1 台湾付近のプレート境界(瀬野,科学, 55, 62-64, 1985を改変)

台湾は基本的には,南シナ海がフィリピン海プレートの下に沈み込んで,マニラ海溝-ルソン弧を形成している場所とおなじである.ただし400万年前ころからルソン弧が中国大陸の縁に衝突を始めたため,大陸の大陸棚-斜面の堆積物がかき集められて瓦を積み重ねたような付加体構造(図2)をつくり(Suppe, 1981),中央山脈が隆起している.地震が起きた場所は,付加体からなる西部山麓帯が,堆積物からなる平野と接するところである.

図2 台湾の構造断面図(瀬野, 1994)に今回の地震の震源と断層運動を書き込んだもの

ヒマラヤのような成熟した衝突帯では,二つのプレートの接する縫合線(ヒマラヤの場合はインダス-ツァンポ縫合線)は活動を停止し,より前方のスラストがプレート相対運動を消費している.台湾の場合も,プレート相対運動のほとんどは,西部山麓帯の下の逆断層とそれらが接するプレート境界のすべり面(デコルマ)で起きている.今回の地震をおこしたChelunpu断層もそのような付加体を切る逆断層の一つである.

台湾の場合,衝突がはじまったのが約400万年前と若いので,付加体には中国大陸側の大陸棚-斜面の堆積物だけが付加している.なお台東縦谷は縫合線,すなわちフィリピン海プレートとユーラシアプレートが物質的に接する場所にあたる.ここでの活動は,インダス-ツァンポ縫合線と違って完全に死にきってはいない.

台湾西部にみられるような構造は,衝突帯とはいえ,むしろ地学的には海溝-付加体というべきであり,今回の地震は,海溝系大地震を陸上で見ているようなものである.地震のスリップベクトル(Harvard CMT)は,Seno et al. (1993)のEU-PH相対運動方向から5度しかずれていない.

文献

瀬野徹三, 台湾の地震の謎, 科学, 55, 62-64, 1985.

Seno. T., S. Stein, and A. E., Gripp, A model for the motion of the Philippine Sea plate consistent with NUVEL-1 and geological data, J. Geophys. Res., 89, 17941-17948 1993.

瀬野徹三, 台湾付近のテクトニクス, 地震, 46, 461-477, 1994 (English abstract).

Suppe, J., Mechanics of mountain building and metamorphism in Taiwan, Mem. Geol. Soc. China, 4, 67-89, 1981.

 99年10月30日改訂     地表断層調査速報     瀬野のホームページ    地震研のホームページ