地震が起こると地下の岩盤の急速なずれ(くいちがい)が面状に広がっていく。この面が断層面だが,断層面上のずれの性質やそれが発生する波動は一様ではない.断層面上で,応力降下が大きく,大きな加速度をもつ強震動を発生させる部分をアスペリティと呼ぶ.

 断層面の強く固着している部分は,そこで地震前に応力が多く蓄積されるところであるから,応力降下が大きくなり,そのような部分をアスペリティと呼ぶこともできる.従来岩石の摩擦すべり実験で二つのブロックが接している面のうち,じかに接している部分をアスペリティと呼んでいた(図1).これを現実の地震に応用して,地震の断層面で固着していて大きな地震動を出す部分をアスペリティと呼びはじめたのは金森博雄とその大学院生であったThorne Layで,1980年代の初めであった.

 しかし大きなアスペリティがあってその固着度などの性質が一様であるとすると,そこから出てくる波の振幅自体は大きくなるが,短周期の強震動は生まれないはずである.したがってアスペリティがアスペリティとしての特徴を示すためには,アスペリティでない部分が隣り合っていることが必要となる.このような部分はバリアーと呼ばれる.バリアーという概念は,アスペリティよりも少し早く安芸敬一によって1970年代の終わり頃導入された.なめらかな断層すべりに対する障害物であって,強震動を発生させる源というものであるから,アスペリティとは対になる概念である.

 図1 岩石の資料の接触面をミクロンスケールで拡大したもの(Kato, N., et al., 1993)

 金森らによって提案されたアスペリティモデルでは,アスペリティがその周りを普段からすべる部分に取り囲まれ,アスペリティにおける応力が限界に達すると,そのアスペリティが壊れ地震となる(図2a).ずるずるすべっている部分は地震時には急にすべることができないので,これはバリアーとしての役割を果たしている.このモデルではアスペリティのサイズの大小が地震の大小を決めることになる.

 このモデルではまずい点が二つある.大きな地震の場合したがってアスペリティが大きいことになるが,このような地震でも短周期強震動が出る.アスペリティは決してのっぺりとした大きなものがそのまま存在できるわけではないのである.もう一つは,大きな地震が繰り返し起こるところには大きなアスペリティが存在し,小さい地震しか起こらないところには小さいアスペリティが存在することになるが,このような地震活動の違いは例えば三陸沖と茨城沖のように同じ太平洋プレートが東北日本下に沈み込んでいるところで起こっている.同じ海洋プレートが沈み込んでいるところで,なぜこのようなアスペリティサイズの違いが起こるのか説明困難であるという点である. 

 図2 (a)金森らによるアスペリティモデル (b)フラクタルアスペリティ/バリア−侵食モデル(Seno, 2003, PDF, 瀬野, 2003, PDF)

 これらの問題を解決するために,私はアスペリティのサイズ分布は場所によらないこと,しかしそれはフラクタル分布をするとしたモデルを提案した(図2b).このモデルでは,大きなアスペリティの中にサイズが小さいアスペリティがいくつか入り,またその中にさらに小さなアスペリティが入ってくる.このようなアスペリティの分布では,どのアスペリティもその周りをバリア−で取り囲まれ,すべりに対する障害を受けることになるので,アスペリティの高速破壊としての地震は発生できない.そこでバリア−部分の間隙流体圧が静岩石圧近くにまで上昇してその部分の有効摩擦を0にしてしまうという,バリア−侵食が起こると仮定している.このようなバリア−の摩擦の変化というアイデアは,津波地震がなぜ海溝近くで発生できるのかを考えた時に生まれたものである.

用語解説リストへ

瀬野ホームページへ