「直下型地震」はマスコミ用語であり,学術用語でないから地震学者はこれには関わるべきではないとする立場の人もいる.しかしこの用語は,後に示すように,例えば高校地学の教科書にも出てきており,そこでなされている定義はある意味で混乱を引き起こさないとも限らない状況にある.
 混乱の原因は,この語を地学的要因で分類しようとするところからくる.この種の地学的分類は,例えば「地震三兄弟」で述べたような分類である.直下型地震はそれとは全く基準の異なる分類と考えるべきである.それは,人や構造物・ライフラインなどと地震との関係を示す語であって,前者のほぼ直下に震源が位置するため,前者に影響が出て被害が生じるような地震を言っている.
 このような理解をすれば,地震三兄弟のうちいずれも場合によっては直下型地震となりうることがわかる(図1).例えば1923年大正関東地震は三浦半島や房総半島南部に住む人々にとっては直下型地震となるし,将来起こることが予想されている東海地震も御前崎や清水に住む人々にとっては直下型地震となるであろう.これらは長男(プレート間地震)が直下型地震となる例であるが,次男(スラブ地震)も直下型地震となりうる.最近の例では2001年芸予地震,2003年宮城県北部沖の地震がそのような地震であるが,これらの地震は震源の深さがそれぞれ50 km, 70 kmと深いので,被害が出やすいという特徴はやや薄められている.しかし次男にもごく浅い震源を持つものもあり,そのマグニチュードが大きければ典型的な直下型地震となりうるだろう(実際西南日本の下に沈み込むフィリピン海スラブの地震には20-30 km程度の浅い震源を持つものがある).

図1 地震三兄弟いずれも直下型地震となりうる(瀬野徹三,プレートテクトニクスの基礎, p.111より)

 ここで高校教科書の記述を見てみよう.東京書籍「地学の世界IA」p.107には“Mの大きな地震が必ずしも大きな災害を引き起こすとは限らない.プレート内の震源の浅い直下型地震は,プレート間地震に比べてMは小さいが,震源が都市に近いことが多いため大きな被害をもたらすことがある”とある.ここでは,プレート内の浅い地震=直下型地震と定義しているように見える.もちろんプレート内の浅い地震といえども日本海の真中で起こる地震のように被害をまったくもたらさない地震もあり,あるいは日本列島内陸部で起こったとしても無人の山地の下で起こることもある.さらに内陸部にプレート境界が乗り上げている場合,内陸浅部で起こってもそれらはプレート間地震であるわけで,この定義は誤っている.また実教出版「地学IB」p.36 には“一般に,内陸部でおこる地震を直下型地震という.都市の直下でおこる地震は,規模が大きくなくても大被害を受けることが多く,注目されている”とあり,これも東京書籍IAと同様に誤った定義である.問題がないと思われる記述は数研出版「地学IB」p.99 であり,ここでは“直下型地震とは,内陸の都市の直下で発生する地震の意味である.直下型地震では,M=6〜7程度でも,震央付近の被害はいちじるしく,多くの犠牲者が出る”とあり,これは私が上に述べた定義と近い.(なお東京書籍IBと啓林館IBには直下型地震の記述がないのでむしろこれらには問題がない).
 これらを見るかぎり直下型地震問題をマスコミ用語であるからなどといって放置してよいものではないだろう.上のような誤った定義によって入試問題やその他の試験問題が作成されかねないからである.なおこの解説は,2002年春に日本地震学会メーリングリストnfmlで直下型地震に関する議論があり,その時私が述べた考えをまとめ補足したものである.

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