談話会・セミナー

金曜セミナー(11月27日)矢部優氏

深部低周波微動の潮汐応答性


矢部優(東京大学地球惑星科学専攻 井出研究室D2)


沈み込み帯で発生する深部低周波微動は潮汐による応力擾乱に応答することが知られている.本研究 (Yabe et al., 2015, JGR) では,西南日本とCascadia沈み込み帯における微動の潮汐応答性から,プレート境界面の摩擦則を推定することを試みる.微動の発生レートと潮汐応力の間には,先行研究で示されているように,指数関数的な関係が広く確認された.微動発生レートが周囲のプレートの滑り速度に比例していると考え,この関係が速度状態依存摩擦則を反映していると仮定すると,aσもしくは(a-b)σに対応する値を推定することができる.その値はおよそ3kPa程度であるが,空間的な不均質性がある.


潮汐応答性の空間分布を微動のパルス幅や振幅などの空間分布や微動活動の時系列と比較した.まず,潮汐応答性と微動のパルス幅の空間分布を比較すると,短いパルス幅の微動が発生する領域では高い潮汐応答性が見られた.次に,微動活動の時系列と潮汐応答性を比較した.微動活動の最初期には振幅の小さい微動が発生する.この時点では,全体的に微動パルス幅の短い西南日本では高めの潮汐応答性が見られるが,微動パルス幅の長いCascadiaでは潮汐応答性は低い.その後,微動活動は微動域浅部で振幅の大きい微動を発生し走向方向に伝播していく.大振幅の微動の初期は潮汐応答性が低いが,1日以上経過した後の微動活動は最も高い潮汐応答性を示した.これは西南日本とCascadiaで共通してみられる特徴である.


潮汐応答性と微動のパルス幅や振幅,活動時系列との関係は,Ando et al. (2012)のモデルを用いて定性的に説明可能だと考えている.速度強化の背景領域中に分布する速度弱化パッチの分布の仕方が,これらの関係を説明する鍵になると考える.このことを定量的に確認するため,現在数値計算モデルの構築を進めている.