プレート境界断層面にはアスペリティとバリア−が分布している.ここでバリア−とは普段からずるずるとすべっている安定すべり領域のことである.隣のアスペリティ領域が破壊したとしてもバリア−はすぐにはすべれないので破壊はすぐには伝搬していかない.ところがバリア−部分の間隙流体圧が静岩石圧近くまで上昇していると,実質的な摩擦は0となるので,アスペリティの破壊は隣のあるいは離れたアスペリティに高速で伝搬しうる.このようなバリア−の摩擦状態の変化をバリア−侵食と呼んでいる(ただし,この用語は私が論文で使っているもので,一般に認知されたものではない)

 津波地震の解説で述べたようにこのメカニズムは,津波地震に際して海溝軸近くまで破壊が及ぶことを説明するために考えたものである.津波地震はそれが起こったところでも歴史上一回しか知られていない.すなわち千年に一回起こるかどうかという希な現象である.しかし通常のプレート境界地震の場合には,このバリア−侵食がしょっちゅう起きているだろう.なぜならば,震源が10-30 km程度の深さになると,静岩石圧が300 MPa - 1GPaくらいに達し,これに摩擦係数(0.6-0.8)を掛けたものが静摩擦であるから,プレートに働く力は100 MPa程度が上限であること(続プレートテクトニクスの基礎参照)を考えると,地震はそのままでは起こらない.しかし実際に地震が起こっているということは,封圧が,断層物質の粒子間を埋める流体(ほとんどの場合水と考えられる)でささえられ(アルキメデスの原理,ただし水の圧力は静水圧より大),実質的な封圧が大変小さくなっていなければならない.

 図1 プレート境界断層面の鉛直断面図 バリア−侵食が起こるとすべりは浅い方へ伝播しうる

 これがバリア−部分で起こっていると考えるのがバリア−侵食であるが,浅い地殻内の地震に対して水がこのような摩擦を減ずる役割を果たしていることがこれまで特にサンアンドレアス断層などで論じられてきた.これらの従来のモデルでは,アスペリティ部分で間隙流体圧があがる,そして強度を減ずると考えてきた.アスペリティ部分でそのようなことが起こると,アスペリティそのものがずるずるとすべってしまい,まずいのではないだろうか.
 
 このバリア−侵食が起きているかどうかは,断層面での地震波の反射係数などの変化である程度わかる.地震発生の前にはバリア−侵食が起こらなければならないとすれば,このような変化をとらえることが,地震の長期予知に有効であるだろう.

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