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| 地表断層の近傍および断層上盤側,下盤側で台湾中央気象局により強震記録が得られている.断層近傍と震源直上のいくつかの記録を下図に入倉(2000)より引用して示す.これらによれば,断層北端部の観測点TCU068においては最大3 m/secの速度を記録し,断層はゆっくり動いたとは言えないと入倉は言う.私もこれらの強震記録を台湾訪問時から見ていたが,断層北部の観測点では異常に長周期パルスが見え,そこに現れていた断層面のすべり時間は8秒くらいとおおまかに推定されたので,”ゆっくり動いた”という推測と調和的だと安易に考えていた.ところが速度や加速度の値そのものは決して小さくはないわけで,断層のすべり速度が本当に小さかったのか疑問がわく.そこで,断層に近い二つの観測点TCU068, 052(それぞれ地表断層の主要トレースから約1.0 km, 1.7 kmに位置,ただし068は分岐断層からは140 mしか離れていない)の記録から断層のすべり速度を推定してみた(下に詳述,TCU129はより断層に近いが,下盤側なので振幅は小さく不適である).その結果,地表断層のすべり速度は,断層北端で1 m/sec程度に達し(断層南部ではこれより数10 %減となる),この値は,現在までに内陸の横ずれ地震に対し推測されている最大断層すべり速度と比べるとやや小さいと言える(下に詳述).しかし小さめとはいえアスペリティからはずれた部分のすべり速度が小さくなることはよくあることだし,1 m/secという値はそこそこのものである.また断層面深部のアスペリティに起因する振動を加えた,地表断層付近での全地震動は,入倉が述べたように相当大きなものであったことは確かである.したがって,”ゆっくりすべった”とする推測は撤回したい.しかし,地表断層付近では,それにもかかわらずなぜ被害が断層直上に限られたのか,が問題となる.また地表付近の8秒程度のすべり時間をもつ破壊は,長周期地震記録の解析で十分検知できるはずであるが,Yagi & Kikuchi (1999)の解析では,断層北部では浅部でのすべり量がほとんど0となっている.解析の解像度の問題があるので今後慎重な検討が必要だが,これは浅部のすべりに応力降下を伴わなかったこと(ぬるぬる地震)を意味しているのかもしれず,地表断層付近の被害の特異性を説明するかもしれない. |
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| 文章中に出てくる強震計のサイト(入倉, 2000を改変) | |
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| 速度記録(東西成分,入倉, 2000より引用,フェーズについては下の文参照) |
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| 変位記録(東西成分,入倉, 2000より引用,フェーズについては下の文参照) |
| すべり速度の推定 |
| ここで問題にするのは,断層面上のある一点での震源断層運動によるすべり速度である.観測点TCU068,TCU052はともに断層の近傍なので,これを考察するのに適している(一方TCU129は断層の下盤側,TCU078は上盤側震源直上にあり,これらの観測点での強震記録はいろいろなphaseの到達時間の推定に役に立つ).これらの観測点の強振動をそのままこの地点における断層運動のすべりを表すとみなすことはできない.これを観測点近傍における断層運動による成分と,離れた断層面上のアスペリティの破壊から伝わった振動成分に分解してみよう.震源断層における破壊の伝搬速度は,一般にS波速度より小さいので,まず震源における初期破壊が波動として伝わってくる.S波がつたわった時間は記録上でt0と推定される(これは震源の深さを12 km,P波速度を6.6km/sec,S波速度を3.8 km/secとしてS-P時間から推定した).TCU068の速度記録をみると,この初動直後永久変位とは逆の方向に振れはじめ,振動が波動として伝わったことと調和的である.t0から数秒後の時刻t1に破壊が伝搬してきてようやく永久変位がはじまる.t1を正確に見積もることはできないが,図では大きな変位の開始点をとった.これは(Yagi & Kikuchi, 1999)の破壊伝搬図にもとづくおおよそのTCU068,TCU052における破壊の開始時間(本震15秒後くらい)と調和的である.t1の直後のt2に短周期成分の振動が始まっているが,これはその到達時間から,断層南半浅部におけるアスペリティの破壊が伝搬したものと考えらえる.記録末尾付近のt3は再び振動性の変位を与えているが,その到達時間から,震源の北方30 km付近の深部アスペリティ(Yagi & Kikuchi, 1999)の破壊が波動として伝わったものに対応するだろう.永久変位の終了時間t4はYagi & Kikuchiによる北部アスペリティの破壊終了時間(本震開始約25秒後)とやはり調和的である.以上から,地表断層北部での断層すべり時間(dislocation rise time)はt4-t1,すなわち9秒と見積もられる.強震記録に残されたTCU068,TCU052での永久変位 8.8, 8.6 mを9秒で割って,すべり速度は1 m/sec程度と推定される.なおこれらの永久変位はGPSによって測定された全変位量約8 m(GPSデータによる地震時地殻変動のパターンの改訂参照)と同程度である.断層南部では,断層近傍での観測点がないが,かりに断層すべり時間が同じであるとすると,GPSによれば全変位量は80 %以下に減少するので,それと同じ程度すべり速度も減少することになる. |
| これまでのすべり速度の推定との比較 |
| 上のすべり速度を,Heaton (1990)に挙げられているすべり速度の推定と比較してみよう.以下地震名,平均すべり速度, 最大すべり速度(単位m/s)である.Michoacan地震(M8.1): 0.48, 1.30, Borah Peack (M7.3): 1.37, 2.45, San Fernando (M6.5): 1.50, 3.12, Imperial Valley (6.5): 0. 48, 1.80, Morgan Hill (M6.2): 1.27, 3.33, North Palm Springs (M6.0): 0. 65, 1.12, Coyote Lake (M5.9): 0.92, 2.40.これらの他Landers 地震(M7.2)では最大速度1.5 m/sec,地表断層で1 m/sec (Wald and Heaton, 1994),1995年神戸地震(M7.2)に対しては野島断層で0.8 m/sec (Ide & Takeo, 1997),1984年長野県西部地震(M6.8)に対しては最大2 m/sec以上(島田他, 1996)という推定がある.これらはいずれもモデル計算によって求められた値であるが,短周期成分をカットしていることから,実際よりも小さめに推定されていることに注意する.これらの値と上の台湾地震の断層のすべり速度を比較すると,沈み込み帯の地震であるMichoacan地震とは同程度だが,内陸の横ずれ断層の最大すべり速度よりは概して小さく,台湾地震の地表断層が,断層面上の運動としてはゆっくりすべったという可能性は残されているというべきである.たとえば断層のごく近傍で飛び石がなかったという事実は,飛び石が見られた長野県西部地震に対する強振動シミュレーションの結果(島田他, 1996)と比較して,加速度,速度とも小さかったことに起因するかもしれない.しかし1 m/secの値自体,小さいとは言えず,ここに”ゆっくりすべった”というこのホームページで提出していた考えを訂正したい.9秒もの断層すべり時間を持ちながらこのような大きな速度を与えたのは,ひとえに断層北半で異様にすべり量が大きかったことによっている.このような大きなすべりが生じた理由は,堆積盆部分は上盤側物質の流体的振る舞いで理解できるかもしれないが,付加体部分ではまだわかっていない.ここで得られた9秒の断層運動は長周期地震計からしてもゆっくりとはいえないにもかかわらず,これがYagi and Kikuchiの解析でアスペリティとして現れていないように見える.これと,被害が断層直上に限られるのはなぜかという疑問については別項で述べる. |
| 文献 |
| Heaton, T. H., Evidence for and
implications of self-healing pulses of slip in earthquake rupture, Phys. Earth Planet. Inter., 64, 1-20, 1990. Ide, S., and M. Takeo, Determination of constitutive relations of fault slip based on seismic wave analysis, J. Geophys. Res., 102, 27379-27391, 1997. 入倉孝次郎, 阪神・淡路大地震をおこしたものは何であったのか, 科学, 70, 42-50, 2000. 島田篤,宮武隆,谷山尚, 動力学モデルによる断層近傍の強震動ー1984年長野県西部地 震, 地震, 49, 179-191, 1996. Wald, D. J., and T. H. Heaton, Spatial and temporal distribution of slip for the 1992 Landers, California, earthquake, Bull. Seism. Soc. Am., 84, 668-691, 1994. |