硫黄同位体測定結果(速報2000.10.6更新

今井亮 下司信夫 (東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)

7,8,9月に噴出した三宅島火山灰の付着成分中の硫黄同位体測定を行ったので、その結果を速報する。新しい測定値は赤字で表示しました(2000/10/6).


1) 測定試料

硫黄同位体を測定した試料は、大学合同観測班および気象庁三宅測候所によって採集された、 7月8日、14日、15日、8月10日、13日、14日、18日、および29日噴火に伴い噴出した火山灰試料である。いずれの試料も降灰中あるいは降灰直後に採取されたもので、その後雨水などの影響を受けていない。また、7月14-15日噴火によって投出された変質岩塊中から分離した石膏および黄鉄鉱の硫黄同位体もあわせて測定した。

2) 測定方法

2-1)試料からの硫黄の分離・BaSO4としての回収固定

火山灰に付着した水溶性硫酸イオン

 火山灰試料20gをイオン交換水約200mlに溶き,室温で約2時間保持した後ろ過し,ろ液を回収して水溶性成分として溶出されてきたSO4=イオンをBaCl溶液(10%)を加えることでBaSO4として沈殿させ,これを吸引ろ過して回収した.

変質岩片中の黄鉄鉱

 変質岩片を粉砕し,比重により黄鉄鉱の粒子(約10mg)を回収した後,ホットプレート上のビーカーで濃硝酸(10N),臭素で反応させた後蒸発乾固させ,その後,少量の塩酸(5N)およびイオン交換水で溶解した後,陽イオン交換樹脂を通した溶液を回収し,これにBaCl2溶液(10%)を加えることで含まれているSO4=イオンをBaSO4として沈殿させ,これを吸引ろ過して回収した.

変質岩片中の石膏

 変質岩片を粉砕し,塩酸(1N)に溶き,ホットプレート上で約2時間保持した後ろ過し,ろ液を回収して溶出されてきたSO4=イオンをBaCl2溶液(10%)を加えることでBaSO4として沈殿させ,これを吸引ろ過して回収した.

2-2)BaSO4からSO2ガスの生成

 Yanagisawa and Sakai (1983)に報告された方法に従い,上記1)のそれぞれによって得られたBaSO4約10mgとそれぞれ10倍(重量比)のSiO2粉末とV2O5粉末をシリカガラス管に詰め,真空に保ち,約950℃まで加熱し,SO2ガスを遊離させ,液体窒素で冷却したガラス管を通して固定し,液体窒素をアセトンシャーベットに転換して再び気化させて精製し,液体窒素で冷却したガラス管に再び固定・回収し密封する.

2-3)硫黄同位体比の測定

 上記により得られたSO2ガスを東京大学地球惑星科学専攻にあるFinninganMAT社製のMacKinney型質量分析装置deltaEに導入して34S/32S比を測定した.測定は1試料につき9回繰り返して行ない,結果を標準試料(Canyon Diabro隕石中のtroilite)との比を用いてd34Sとして千分率(‰)で表示した.測定の誤差(1σ)は0.007〜0.027‰であったが,これまでの既知試料の繰り返し測定などから,試料前処理を含めて,誤差は0.2‰を超えることはないと考えられる.

3)結果

火山灰試料

ID.

噴出日

δ34S(‰)

採集地点

No.22

7/8

+7.3

鉢巻林道:山分橋

000714-1

7/14

+9.3

赤場暁

0715A

7/15

+9.0

三宅支庁

TC000810-3

8/10

+9.0

三七沢出口

TC000810-4

8/10

+8.9

サタドー岬入口

TC000813-1

8/13

+9.3

阿古「ほまれ」前

00814-1

8/14

+8.2

坪田:長太郎池入口

00816-3

8/14

+7.1

JMA000818-01

8/18

+8.0

東電営業所前

火山弾内部

8/18

+5.8

レストハウス前

JMA000829-03

8/29

+9.1

三宅空港

9/9

+5.3

三宅支庁駐車場

9/10-12

+7.7

三宅測候所

9/11

+6.9

三宅測候所

変質岩塊試料

ID.

噴出日

δ34S(‰)

採集地点

NG000805-1

7/14-15

+12.2 (gypsum)

八丁平カルデラ東リム

ditto

ditto

-8.2 (pyrite)

同上

その他の試料

ID.

噴出日

δ34S(‰)

採集地点

native sulfur

1983. 10. 3-4

+17.3

1983年噴火火口列南端(新鼻)

 硫黄同位対比の時間変化

4)解釈

 雄山火道に由来すると考えられる変質岩体の石膏-黄鉄鉱同位体分配からは、298℃の平衡温度が得られた。これまでで最大規模の噴火であった8/18の火山灰は、比較的低い同位体比を示し、マグマ由来の硫黄の寄与が高いことをうかがわせる。一方、7/14-15、8/10,13、および8/29噴出の火山灰試料はおおむね+9.0前後の硫黄同位体比を示す。8/14火山灰の同位対比が低いことは、その後の8/18噴火に先駆けて火山ガス中のマグマ由来の硫黄の寄与が高まっていたことを示唆するかもしれない。すなわち,+7〜+8‰,というのはマグマから分離・脱ガスして直接(低温で地下水などと反応の程度が小さい:低温で同位体分別をしていない)もたらされた,+9‰と大きな値となっているのは低温でいくらか同位体分別の過程を経てから噴出していると考えられます.さらにこの分別が進んで,300℃で平衡に達していたとすれば,石膏・黄鉄鉱のペアの値が説明できる.

 今後は,火口付近の温度が上昇している(150℃)ことから,火道の周りが干あがってきて地下水との反応がなくなり,同位体分別を起こしにくい状況になり,+7〜8‰程度の値になることが期待される.


三宅島火山2000年活動情報 

カタの成因について(石膏との関係)