
山下輝夫(教授) email: tyama@eri.u-tokyo.ac.jp
私たちのグループでは、地震学のいくつかの側面についての数理的研究(理論的な手法とコンピュータを用いたシミュレーションの両方を用いるということ)を進めてきました。「震源破壊の単純さと複雑さの理解」が、現在の主要研究課題です。
地震の起こり方は、みなさんご存じのようにたいへん複雑です。複雑さの大きな要因として、強い非線形性を持っていること、地震が起こる地殻は強い力学的
不均質性を持っていることなどがあげられるでしょう。そのため、大地震の発生予測手法を確立するためにはまだまだ難関があるでしょう。さらに一つ一つ地震
を定量的に精度良く予測することはたいへん困難だと思われます。しかし、強い非線形性を持つことにより、集団として何らかの統計的特徴を持つはずであり、
もしかしたら、数少ないパラメタにより一見多様に見える地震現象を統一的に説明することが可能かもしれません。さらに,従来の震源破壊の研究は,ほとんど
力学的側面からの研究に限られていましたが、私たちは物理・化学的側面からの研究への道も開きつつあります。上に述べた目的のため数学的手法の開発も同時
に手がけています。
この10年ほどの間で、私たちのグループで行われた主要な仕事は下記のとおりです。
(1) 任意の複雑な形状をした破壊の動的成長の数学的定式化(多田卓君の博士論文)
この研究によりどのような形状の破壊も計算機で取り扱えるようになり、この分野の研究を大きく進展させました。
(2) 地震破壊はどのようにして停止するか(亀伸樹君の博士論文)
地震がどのようにして停止するかということは、地震学上の大問題でしたが、この論文により解決の道筋がつけられました。なぜ、これが大問題かというと、地
震破壊がどこで停止するかが予測できれば、地震の規模の予測ができるということになるからです。詳しくは、科学、68, 702-709,
1998を見てください。
(3) 地下流体と震源破壊の力学的相互作用
前震、余震や群発地震の規則性や複雑性は、地下流体の存在を考えることにより統一的に説明できるということがわかってきました。
(4) 断層帯の形成と地震破壊のダイナミクスに関する理論的研究(安藤亮輔君の博士論文)
断層帯の複雑な幾何学構造を考慮に入れて、地震破壊のスケール依存性について詳細な考察を行い、きわめて実際的な断層モデルの構築に成功しました.スケー
ル依存性を断層モデルに取り入れた最初の研究と言えるでしょう。これから、大きな地震は、小さな地震とは基本的に異なるということもわかってきました。ま
た、モデル計算のため、きわめて高速かつ効率的な計算手法を新たに開発しました。
(5) 熱多孔性媒質中の動的地震破壊(鈴木岳人君の博士論文)
断層すべり、温度変化、流体圧変化の間に強い非線形相互作用がある場合の支配方程式系を導き、動的断層すべりの多様性は、単一の無次元パラメタに支配されていることを示しました。
(6) ゆっくりとした地震の発生機構
摩擦発熱、断層周辺での空隙生成、流体の移動とそれらの間の非線形相互作用を考慮に入れて、近年注目の世界的に関心を集めているているゆっくりとした地震
(スロースリップなど)の発生機構を数理的に考察しました。この結果、(a) 空隙の生成率が大きく、(b) 透水率が大きく、さらに(c) 断層に作用している剪断応力が小さい場合に、低周波地震やスロースリップのようなゆっくりとした地震が発生することがわかりました。
これらの研究から、流体や摩擦熱が関与すること、地震破壊の非平面的な成長、破壊要素間の強い相互作用などにより震源破壊の複雑が生じてくることがわかっ
てきました(震源破壊は、皆さんが日常目にする破壊、例えばガラスの破壊などとは大きく違います)。同時にある関係については単純な規則性も現れます(こ
れは、大規模相互作用系(複雑系)に典型的なことです)。また、いくつかの現象を統一的に説明できることもわかってきました。
参考
・山下輝夫(分担)、震源の数理モデル、「地震と断層」、105-124, 島崎、松田編、東京大学出版会、1994.
・山下輝夫(分担)、地震発生の複雑さの理解、「地殻ダイナミクスと地震発生」、菊地編、朝倉書店、2002
・山下輝夫(分担)、地震の動きを考える、「大地の躍動を見る―新しい地震像・火山像」、41-62、山下編、岩波ジュニア新書359、岩波書店、2000.
・山下輝夫(分担)、地震とは何か、「地震・津波と火山の事典」、藤井・纐纈編、丸善、2008
Copyright (C) 2007 Teruo Yamashita. All Rights Reserved.