2003年十勝沖地震に伴う微気圧変動記録
 東京大学地震研究所
綿田辰吾
初版 2003.10.03
更新 2003.10.04
更新 2007.06.05
更新 2009.11.30
更新 2010.05.17


詳しい観測内容と解析結果は下記論文を参照してください。

Geophysical  Research Letters Vol.33, L24306, doi:10.1029/2006GL027967, 2006,
Shingo Watada, Takashi Kunugi, Kenji Hirata, Hiroko Sugioka, Kiwamu Nishida, Shoji Sekiguchi, Jun Oikawa, Yoshinobu Tsuji, and Hiroo Kanamori,
Atmospheric pressure change associated with the 2003 Tokachi-Oki earthquake.

Journal of Fluid Mechanics, Vol. 627, 361-377, 2009,
Shingo Watada, Radiation of acoustic and gravity waves and propagation of boundary waves in the stratified fluid
from a time-varying bottom boundary,
doi:10.1017/S0022112009005953

UT-repository version http://hdl.handle.net/2261/22055

下記の速報初期解析と内容が変わっています。2007.06.05
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【要旨】

日本列島に沿って展開されている3微気圧観測点で、地震動と同時に気圧変動が観測された。微気圧観測点に近接する広帯域地震波形記録と比較すると、上下動の最大震幅であるレイリー波の到達時に圧力変動が最大となること、さらに波形解析から地面上がると大気圧が増加し、下降時に減少していることが判明した。上下に動く地面がスピーカーの役割を果たし、大気が圧縮・膨張する様子、すなわち大気中に長周期の音波が発生している現場を世界で初めて捕らえた。

【データ】

図1に2003年十勝沖地震の本震と、使用した微気圧観測点と広帯域観測点を示す。

連続測定されている絶対圧型の微気圧計1Hzサンプリングデータと、防災科学技術研究所が運営する近接の広帯域地震観測網(F-net)観測点の上下動波形を、最大振幅のレイリー波が到達する前後400秒で比較した(図2)。レイリー波の到達と同時刻に、ほぼ同じ周期で振幅が大気圧の約10万分の1の大気圧変動があった。ゆっくりと大きく変動しているバックグラウンドの気圧を含めた微気圧記録を示す。
 


図2−あ 上:微気圧 宮城県江ノ島 単位 ヘクトパスカル
     下:震波形上下動 岩手県気仙沼 メートル/秒
 
 


図2−い 上:微気圧 高知県室戸 単位 ヘクトパスカル
     下:地震波形上下動 高知県馬路 単位 メートル/秒
 
 


図2ーう 上:微気圧 宮崎県霧島 単位 ヘクトパスカル
     下:地震波形上下動 宮崎県高岡 単位 メートル/秒

【解析】

静止している大気中では高度の増加と共に大気圧は減少する。例えば10センチの高度が増すと大気圧は1パスカル(=0.01ヘクトパスカル)減る。図3に室戸で観測された地動変位量と微気圧変動を比較している。

図3 上:高知県室戸の微気圧記録 単位、ヘクトパスカル
   中:高知県馬路の地表上下変位記録 単位 メートル 上向き正
   下:同地点の上下動速度記録 単位 メートル/秒 上向き正

変位記録と圧力は同位相で、速度記録とは位相が約90度ずれていること、さらに静止状態とは逆に、地表が上昇すると気圧が増加していることがわかる。振幅約20センチで上下する地表面により、大気下層が動的に圧縮・膨張をしていること、すなわち人間の耳には聞こえない長周期の音波が地震動にともない発生していることを示している。

レイリー波に後続する微気圧も大きく変動しているが、地表の上下動との相関は良くない。

【研究の意義】

同一地点の微気圧データと地動変位データをつきあわせることで、地震動により長周期音波が発生する「現場」を目の当たりにすることができた。すなわち長周期音波は振動する地面がスピーカーとなって放出されている。これまで、地震動により発生する音波の観測例はあったが、地震動と大気圧変動データを同一地点で計測した例はなかった。このように放出された音波は大気中を伝播し高層にある電離層まで、エネルギー保存のため、振幅を増大させながら到達する。過去いくつかの研究で報告されている地震にともなう電離層擾乱もこのように地表で発生した圧力変動に起因していると推定される。

大気と固体地球の音響結合度が定量的に観測できた。今後、大気と固体地球を一つの弾性体として扱った理論的な微気圧変動予測と比較することで、大気と固体地球の音響結合理論の妥当性が検証される。

【謝辞】

江ノ島、室戸、霧島微気圧観測点の設置・運営には多くの方のご協力がありました。また、広帯域波形記録は防災科学技術研究所のF-netの記録を使わせていただきました。
ここに感謝いたします。