研究集会の概要

  重力の変化を捉えるには、これまでは地球上に置かれた重力計による測定がほとんど唯一の手段であった。例えば、地震研究所による長年にわたる重力計のシステム開発や最近の三宅島での連続観測などが代表的な例である。従来、人工衛星による重力の変化の検出は、極めて低次の重力場係数に限られていた。地球重力場の扁平を表す係数 J2 の時間変化が LAGEOS 衛星への数十年にわたるレーザ測距観測によって検出された程度であった。
  この状況は、ここ数年で一変しつつある。ドイツやアメリカによってすでに打ち上げられた CHAMP 衛星、GRACE 衛星に加えて、2006年には ESA により GOCE 衛星の打ち上げが予定されている。いずれにおいても、重力計技術を応用した加速度計や重力傾斜計、さらに衛星間測距装置が搭載されている。これらのミッションにより、従来よりもはるかに高精度に静的重力場が求まるうえに、高次の地球重力場係数の動的な変化まで検出されると期待されている。すなわち、汎地球規模の質量の移動はもちろん、局所的な質量の移動まで人工衛星から計測できることになる。このブレークスルーは、重力研究者あるいは測地学者の枠をはるかに超えて、固体地球、水、大気といった幅広い地球科学に携わる研究者の注目を集めている。陸水-海洋-雪氷の大循環、大気と海洋・固体地球の間の相互作用など、地球の「流れ」を見る研究テーマが次々と発展あるいは萌芽している。
  わが国においても、さらなる精密計測を目指して、光技術衛星間測距システムを中心とした技術開発を進めており、独自の衛星ミッションの可能性を検討している。地震研究所は、重要要素のひとつである加速度計開発を担当し、実験モデルの製作・評価を担当している。
  本研究集会は、平成15年度開催の「精密衛星測位:衛星重力観測による地球のダイナミクス研究へのブレーク・スルー」研究集会を発展させ、測地学研究連絡委員会重力ジオイド小委員会の勧告を受け提案したもので、支持を受ける測地学コミュニティはもとより、技術開発に携わる研究者や広く地球科学に携わる研究者を集めた。25件の研究発表及び66名の参加者を得て、学際的な意見交換や活発な議論が繰り広げられた。
  本研究集会は、東京大学地震研究所共同研究プログラムの援助をうけた。本研究集会の運営にあたっては、大久保修平教授をはじめとする東京大学地震研究所の方々および情報通信研究機構のスタッフより、多大なるご支援をいただいた。また特に、研究集会の事前事後情報収集や本集録CDの作成の作業は、その大部分を情報通信研究機構の高須あきさんにお願いした。ここに感謝の意を表したい。

2005年2月
研究代表者
情報通信研究機構 鹿島宇宙通信研究センター 大坪俊通