GeO−TOC計画
- 地球内部の地震波速度、密度などの構造や地震の予知は我々の重要な研究課題である。これらの研究には地震計を用いた地震波の観測や電磁気学的研究が大変重要である。地球の約2/3は海洋であり、特に日本列島は周囲を太平洋、フィリピン海、東シナ海などの海で取り囲まれているが、地震計を初めとする地球物理観測はそのほとんどが陸に限られてる。海洋中の孤島で観測を行っている場所があるが、島がない場所では移動型海底観測機器を用い1か月程度の臨時観測を行ってきた。地震予知ではリアルタイムの観測データが大変重要であるが、移動型の観測機器ではデータを見るのに早くても数週間から1か月かかる。
リアルタイムデータは地震観測の即時性やデータ容量などの問題を解決できるなど利点が多い。海底からの地震リアルタイムデータを得る手段はいくつか考えられるが、海底ケーブルを用いた方式が最も確実性が高い。しかし、新たに海底ケーブルを敷設することは費用の点で大変難しい。近年データ量の極めて大きな光ファイバーによる国際通信が行われる時代になってきた。技術革新、通信量などの理由で以前から用いていた同軸式海底ケーブルは次第に海底光ファイバー方式に置き変えられつつある。最初の日米国際通信ケーブルであった旧TPC−1は新しいケーブルに置き換えられた。この旧TPC−1二宮〜グアム間を利用し、安価に海底リアルタイム観測を実現しようとするのが本GeO−TOC(Geophysical and Oceanographical Trans-Ocean Cable)計画である。
GeO−TOC海底ケーブルは神奈川県二宮からグアム島に至る長さ2,700kmの同軸式海底ケーブルである。1990年この海底ケーブルを当時の所有者であったKDD、AT&Tから地震研究所と米国地震学連合会(IRIS)とが共同で譲り受けた。
本研究では、1)地球内部構造の研究、2)地震予知などプレートテクトニクスの研究、3)津波や流速などの海底学的研究、4)海底火山の研究、を行う。
海底ケーブルの両端に生じる電位差は海流の運動、地球磁場変動と地球内部の電気伝導度構造などによって生じる。大規模な磁気嵐などの際に2V/kmという電位差が生じたことが大西洋の海底ケーブルで観測されている。変動周期の違いによる磁場−電位差応答を解析することにより伊豆小笠原・マリアナ海嶺の下の地球深部の電気伝導度構造を調べることができる。地球内部の外核の運動によって生じる電位差変動は10年以上の周期に現れるという推定がある。このためグアムにおいて電位差の連続測定を実施し、データはグアムから日本へテレメータしつつある。
地震波データを得るためプロトタイプ観測機器の開発をし、それを通じ実際の海底地震計を製作した。この装置の特徴として、極めて広いダイナミックレンジ(〜140dB)で観測を行うことである。地震計としては加速度計3成分を用いている。海底火山の活動や地震波を観測するためのハイドロフォンも設けた。加速度計のデータはデジタル化し、海底ケーブルを通じて二宮・東京にテレメータする。ハイドロフォンのデータはアナログのまま二宮に伝送する。この装置に対する電源は米国側の協力によってグアム側から供給する。本装置は早ければ1996年小笠原の海底に設置する予定である。