全地球史解読

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 我が国の固体地球科学界は、60年代の上部マントル計画、70年代の地球ダイナミクス計画、80年代のリソスフェア探査開発計画(DELP、Development and Evolution of the Lithosphere Program)を実施してきた。DELPの後にも継続している国際プロジェクト・国際リソスフェア探査開発計画に対応して、日本学術会議にDELP専門委員会が設けられている。90年代に入ってからは、地球システム科学がフロンティアをなすという思想から、DELP専門委員会はMULTIER(=Multisphere Interaction, Evolution and Rhythm)計画の研究推進をはかってきた。この計画は、多圏からなる地球システムの進化=非線形システムの相互作用を、地球の始まりと終わりという時間的側面からみようとするものである。MULTIER計画の一環として、「全地球史解読」が95年から3年間文部省科研費重点領域研究として実施されている。
 「全地球史解読」の大局的な目標は、ほとんど唯一の地球史連続記録媒体である海底堆積物から、過去40億年間における地球とそれをとりまく宇宙の歴史を「解読」することである。全地球史解読計画の検討の過程で、作業仮説として新しい地球史像が浮かび上がってきた。それは、地球史七大事件と呼ばれる大事件は、地球内部のマントルあるいは中心核のダイナミクスの非定常性を反映しているだろう、ということである。これらの大事件の中で特に、E3:世界中で激しい火成活動が起こり、地球磁場強度が急増したらしいこと(27億年前)、E4:初めて巨大な大陸が形成された(19億年前)、及びE6:約1,000万年の間海洋が酸素欠乏状態になり、生物の絶滅が起こった(2.5億年前)、を重点研究項目としてそれらの解明をめざしている。研究組織は、とる班、とけい班、よむ班、もでる班の4つからなり、全国各大学から百数十名の研究者が参加する。とる班は、世界各地の2−40億年前の海底堆積物の発見と組織的収集及びその基礎的記載を行なって、一次試料を確保する。主として地質学者で構成される。とけい班は、それらに見られる縞模様を画像データとして記録して、地球宇宙史連続記録テープの刻時マークとして読むための時計を確立する。主として天文学、測地学、年代測定研究者から構成される。よむ班は、この連続テープに記録されている情報を元素組成、鉱物組成、格子欠陥の分析、磁気的特性などの測定、異常含有物と生命の痕跡の探索によって抽出し、これを使って内容と意味を「よむ」。地史学、固体物理学、地球惑星物理学、地球宇宙化学、古生物学など多分野の研究者から構成される。もでる班は、これらの情報を整理解釈するために、物理的にできるだけ忠実な数値モデルを創り、その数値シミュレーションを行なって多圏地球の相互作用を明らかにする。主としてマントルダイナミクスの専門モデラー、初期地球のテクトニクス、大気海洋の物理・化学研究者がこれを担当する。
 地震研究所では、もでる班を中心として、初期地球のテクトニクスと地球環境、地球表層圏とマントル内部との相互作用、地震波トモグラフィを用いて現在と過去のマントルのダイナミクスを明らかにすること、などを研究している。もでる班の研究目的をもう少し具体的に述べると、前に述べた大事件の原因の解明をおこなうために、マントル/中心核の対流(内部フォーシング)がどのように変化するか、また地球システムが、このような内部フォーシングと日射量変化などの外部フォーシングに対してどのように応答し、自律的な変動をするか、を地球史の時間軸上で理解すること、である。内部フォーシングの地球史を通じた進化の解明は、高速計算機を用いたマントル対流の数値シミュレーションによって行われる。当研究所では、その結果と大陸形成・ウイルソンサイクルの実態との対応関係の解明、内部フォーシングの環境(例えば大気中二酸化炭素濃度)変動に及ぼす効果、マントル対流シミュレーションとトモグラフィとの対応、および外・内部フォーシングに対する地球表層−内部システムの応答、などの考察を行なう。

(瀬野 徹三 地球ダイナミクス部門)

                                  
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Mar. 1996, Earthquake Research Institute, Univ. Tokyo.