1999年8月17日トルコ北西部の地震(Ms7.4)と 9月21日台湾中部の地震(Ms7.7)の震源過程解析速報地震予知情報センター 菊地正幸 |
今年の夏は大きな被害地震が相次いだ(図1).8 月17日未明(現地時間3時1分)トルコ北西部でマ グニチュード(Ms)7.4(USGS)の大地震が発生 し,1万5千人を越える死者とそれと同程度の行方 不明者を出した.その悲惨さがまださめやらない9 月7日午後3時ごろ(現地時間)に,ギリシャの首 都アテネ郊外を震源とするMs5.8の地震が発生し, 30人を越える死者が出た.そして9月21日未明 (現地時間1時47分),今度は台湾中部の集集を震源 とするMs7.7(USGS)の地震が起こり,死者2千 名を越える大きな被害が発生した.
地震予知情報センターでは,いち早くホームペー ジでトルコ北西部地震と台湾中部地震の特集を組み (http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/),情報の 提供と収集を行っている.ここではこの特集記事に 掲載された地震波解析速報の結果の一部を紹介す る.
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図1 今年の夏発生した主な地震.
トルコ北西部Kocaeliの大地震(Ms7.4)
トルコ北部を東西に1千km余にわたって走る 「北アナトリア断層」では,1939年12月27日のエ ルジンジャン地震(Ms7.8 ,死者3万人以上)以来, 震源地を西に移動しながら,次々にM7規模の地震 が発生してきた(図2).今回の震源地となった断 層の西部域は,67年7月22日のMudurnu Valleyの 地震(Ms 7.1)以降30年余り地震が起こっていな い場所であり,地震発生のポテンシャルが高いとこ ろとして注目されていた.
今回,地震発生後の比較的早い段階(2 週間程度) で,近地の加速度記録が公開された.この加速度記 録と遠地の広帯域地震計記録を使い,Yoshida et al. (1996)のインバージョン法を適用して得られた震 源の破壊過程を図3に示す(Yagi and Kikuchi, 1999 準備中).
メカニズムはほぼ純粋な右横ずれ型である(走向, 傾斜,すべり角=268°,84°,180°).ずれの大き い場所(アスペリティ)は東西2 つの領域に大別さ れる.第1段階の破壊は震源から西側の領域で起こ り,その後6,7秒遅れで東側へ破壊が進行してい った.破壊速度は約3km/sであった.主要な破壊 領域は西へ25km,東へ45kmに及ぶ.最大のくい ちがいは西側のアスペリティで約7m,平均的くい ちがい量は約4mである.全地震モーメントは 1.8×1020Nm,Mwは7.4である.
上の解析結果は観察された地表地震断層と概ね調 和的であるが,断層長や余震域との関係で検討すべ き問題がある.観測された余震域は震源から両側に 拡がり,範囲は約200kmに及んでいる.また,地 震断層の出現範囲は総延長100km余りに及んでい るとの報告がある.上で得られたアスペリティの範 囲(約70km)はこれに比べて有意に小さい.どの 範囲の断層が動いたかは,今後の地震活動の推移を 考える上で極めて重要である.更なる現地調査(余 震,地震断層,GPS観測など)の結果が待たれる ところである.
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図2 北アナトリア断層で発生した地震(USGSのホームページより).
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図3 1999年8月17日トルコ北西部の地震(Ms7.4)の震源過程.
台湾中部集集の大地震(Ms7.7)
台湾内部には南北方向に走向をもつ逆断層が何本 も走っている.台湾はフィリピン海プレートとユー ラシアプレート(東シナ海)の境界に位置し,西北 西_東南東方向の圧縮を受けている.活断層につい ては,ユーラシアプレートの潜り込みに関係した 「付加帯内部の逆断層」という説と,衝突による 「プレート内部の逆断層」という説がある.いずれ にせよ,今回の地震は活断層の1つまたは複数の断 層が動いたと考えられる.
現段階ではまだ近地の強震計記録が手に入らない ため,とりあえず,IRIS-DMCから収集した遠地の 広帯域地震計記録(P波上下動)のみの解析結果を 示す.断層メカニズム解としてハーバード大CMT 解を用いた.2つのP波節面のうち,東へ傾斜した 面を断層面と仮定した(走向,傾斜,すべり角= 26°,27°,82°).トルコ地震の解析と同様に,波形 インバージョンを行った.得られた断層面上のすべ り分布を図4に示す.最大のアスペリテ ィは震源から約30-40kmほど北にあり,そこでの 最大すべり量は約6mである.破壊速度は約 2.5km/s,破壊継続時間は28s,全地震モーメント は2.4×1020Nm(Mw=7.5),断層面(80km× 40km)全体の平均くいちがい量は約2.2mである.
東側が西側に乗り上げる逆断層であること,アス ペリティ(最大ずれ)の分布,北方への破壊伝播等 は概ね現地で観測された現象と整合的である.一方, 地表地震断層ではかなりの範囲で6mを越える段差 が観察されている.上の結果(平均くいちがい量 2.2 m)はこれに比べてかなり小さいように見える. このような違いの1つの理由として,断層が地表へ 突き抜ける場合には,自由表面の影響で地表でのず れが最も大きくなること等が考えられる.
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図4 9月21日台湾中部の地震(Ms7.7)の震源過程.
マグニチュードについて
今回の2 つの大地震,とくに台湾の地震ではいろ いろな機関から出されたマグニチュードが混在して 報道され,少なからぬ混乱をもたらしたように見え る.今日世界的によく用いられるのは,表面波マグ ニチュードMsとモーメントマグニチュードMwで ある.これに加えて,兵庫県南部地震の気象庁マグ ニチュードMjが比較のために引用された.混乱の 原因は兵庫県南部地震のMj=7.2と台湾の地震の表 面波マグニチュードMs=7.6〜7.7がそのまま比較 されることにある.兵庫県南部地震の表面波マグニ チュードMsは6.8(USGS),モーメントマグニチ ュードMwは6.8〜6.9である.今回の台湾の地震で はMjに対応するマグニチュードはない.したがっ て兵庫県南部地震と規模を比較する場合には,Ms またはMwを用いるのが理に適っている.その差は 0.7〜0.8であり,波動エネルギーに換算すると約10 倍になる.
2000/10/18