共同利用研究集会

「干渉SAR 技術の応用とその課題」報告

地球計測部門 大久保修平

高知女子大学 大村 誠

宇宙開発事業団 桜井貴子


平成11 年度共同利用による研究集会「干渉SAR 技術の応用とその課題」(代表者 大村 誠)が, 1999年9月8日(水)-9日(木)に地震研究所で開 催されました.約60名の参加で24件の発表・討論 が行われ,大変有意義な研究集会となりました.こ こでお話しする干渉SAR(Interferometric Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダInSAR)の技術は, 本稿を書いている現在(2000年2月),毛利衛さん が乗り込んだスペース・シャトル・エンデバーによ って実施されている地球立体地図プロジェクト (SRTM)に使われているものです.また,1995年 の兵庫県南部地震の際にも,日本の衛星「ふよう1 号」(JERS-1)のデータの干渉SAR処理の結果が, 国土地理院・宇宙開発事業団・JPLのグループによ って発表され,地殻変動がみごとにとらえられたこ とを記憶されている方も多いでしょう.

さて,この研究集会のテーマである干渉SARで は,図1のように衛星や航空機からレーダー電波を 地上に照射し,もどってくる散乱波(エコー)を受 信します.2つ以上の異なる時期に得られた受信デ ータ(画像)を比較する(干渉させる)ことにより, 地表面のさまざまな情報を得ることができます.干 渉SARの応用としては,

1) 地表面被覆の空間的・時間的変化を抽出する コヒーレンス解析

2) 地表の形状・その変化を計測する位相解析

という2つの大きな流れがあります.これら2つの 流れのどちらに重点を置くかは研究分野によって異 なりますが,干渉SAR技術は,地球科学的な各種 観測,地震・火山災害・水害など自然災害の観測, そして,さらに広い意味での環境計測・監視に役立 つ強力なリモートセンシング手法として世界的に開 発が進められているものです.日本における干渉 SAR技術の応用は,一部の研究機関・大学などで世 界的レベルの研究が進んでいる一方で,解析システ ムの普及が不十分なため,まだ光学センサ利用によ るリモートセンシングほど一般化しているとは言え ません.また,新しい技術であるため,干渉SAR に携わる方々の数もあまり多くありません.

このような状況のもとで,このたびの研究集会で, 干渉SAR技術の初歩から,コヒーレンス解析と位 相解析の最先端の研究発表,近い将来の展望まで, 広い領域を系統的にカバーすることができたこと は,幸いでした.干渉SAR技術に関心を持つ理 学・工学・農学など幅広い分野の研究者が学会等の 枠を越えて一堂に会し,解析結果の相互比較・検討, 日頃の研究成果の交流と議論を行い,干渉SARに 関連する課題の解決を目指すことができた今回の研 究集会は,将来に向けて大変有意義であったと思い ます.以下に概要を紹介いたします.詳しくは本稿 末尾のwwwを参照して下さい.

【セッション1】では,「干渉SARをめぐる最近の 状況」,「位相とコヒーレンス画像解析の基礎」「初 歩的干渉SAR処理の実際」など,初歩からの解説 が行われました.

【セッション2】では「コヒーレンス解析とその 応用」と題して,農業への応用,熱帯林変動モニタ リング,土地被覆判別などのいわゆる環境・バイオ 系の話題が提供されました.また,コヒーレンス解 析を兵庫県南部地震の建造物被害地域の検出に用い る研究も注目を集めました(図2).

【セッション3】では,衛星SARとならぶもう一 つの柱である航空機搭載SARの紹介が行われまし た.SRTM (Shuttle Radar Topography Mission), 航空機搭載3次元SAR(PI-SAR)などがそれです.

【セッション5,6】では「位相解析とその応用」 について,解析にあたっての問題点があげられ,そ の克服にむけた努力が報告されました.具体的には 地表面のテンポラルな位相変動,軌道誤差と大気位 相遅延の問題が議論されました.同時に,応用事例 として,伊豆半島(図3)・岩手火山(図4) の地殻変動や,南極における氷床変動,関東 の地盤沈下,海洋潮汐荷重変形など多数が報告され ました.

【セッション7】では宇宙開発事業団やリモート センシング技術センターなどの担当者から,現在 SARデータの取得・処理態勢および将来計画の情報 が提供されました.

【セッション4・8】では中間まとめ・まとめ・総 合討論がおこなわれ,いくつかの共通認識に達しま した.その要約のなかからさらにかいつまんで,と くに重要と考えられる3 点を以下に述べます.



図1 干渉SARの原理.2つ以上の異なる時期にえられた受信データ(画像)を比較する(干渉させる)
ことにより,地表面の変動(地殻変動,被覆状態変化など)をとりだす.



図2 神戸周辺の画像.(a)ERS-1 によるSAR強度画像1996年2月27日.(b)災害現況図から抽出した被害地域.
(c)1993年9月12日の画像と1996年2月27日の画像を比較し,後方散乱特性に変化があった地域を抽出し
た結果.コヒーレンスのNormalized Differenceが一定値以上のものを抽出.米澤・竹内の発表.



図3 差分干渉SAR(合成開口レーダ)解析でみる,伊豆半島の地殻変動.1997年3月上
旬の群発地震による変動が,西側上空570km上空にある衛星(JERS-1 ふよう1号)から,伏角55
度で地表面を見おろしたときの,地表までの視線距離変化として現れている.網代付近では南東変位
(視線距離減少),八幡野付近での南西変位(視線距離増加)はGPS観測と一致する.データ提供は宇
宙開発事業団・通産省.小林・大久保・藤井の発表.



図4 衛星(JERS-1 ふよう1号)と地表面の視線距離変化として現れた,岩手山近
傍の地殻変動.▲は岩手山.西側上空570 kmからみたときの変化(左)と,東側上空570kmか
らみたときの変化(右).小林・大久保・藤井の発表.データ提供は宇宙開発事業団・通産省.

1.干渉SAR処理の再現性

同一のSARシグナルデータ(レベル0データ)を もとにした位相解析については,解析機関(解析ソ フト・手法)によらず,それぞれほぼ同一の解析結 果が得られたことが確認できました.このことは, 干渉SAR処理が,地表変形を計測するためのツー ルとして有望であることを明瞭に印象づけるもので す.

2.LバンドSARの重要性と次期SAR衛星への要望

日本のような温帯/湿潤帯では,植生や地表面状 態の季節変化が著しいので,干渉性の高いLバンド SAR(レーダー電波の波長で数十cm)は,特に干 渉処理を行う上で重要であることが再確認されまし た.ちなみに,ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の衛星 SARで用いられるCバンドSAR(レーダー電波の波 長で数cm)では,干渉性をもったペアの画像を日 本付近で得ることが困難です.したがって,2002 年に宇宙開発事業団が打ち上げ予定のALOS (PALSAR)については,とくに日本列島陸上部で の干渉処理用SAR データの取得をも念頭において 運用を望むユーザーの要望をとりまとめ,宇宙開発 事業団に伝える必要が認識されました.

3.SAR 干渉処理の普及

JERS-1 SARレベル0データは安価で入手できる けれども,干渉処理に使用する位相保存シングルル ック複素数データ(SLC)を再生するためのSARプ ロセッサは高価であり,入手が難しいことは事実で す.今後は安価なSARプロセッサの開発もしくは 企業による再生処理サービス等が望まれています. 以上の成果は講演論文集に集録され,地震研究所 のホームページからアクセス出来るようになってお ります.(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KOHO/ HIGHLIGHT/KYODO/1999-W-04/).美しい画像を 多数含むこの報告書が,干渉SAR技術の発展に役 立つことを期待しております.


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2000/10/18