地震はどのようにおきているのだろうか山下 輝夫 |
地震の観測には比較的長い歴史があり,多くの事実が蓄積されて来ました.なかでも特徴的なことは,比較的小さな地震の活動にはある種のはっきりとした規則性が見られるということです.近代的地震学が始まって間もない前世紀末には,大森房吉によりすでに余震の数が本震発生後,時間とともにどのように減っていくかということについての規則性が発見されています.これは,普通,余震の「大森公式」と呼ばれており次のような式で表わされます.
n(t)=A/(t + c) (1)
ここで t は本震発生時から計った時間(ふつう日数で数えます),n(t) は,時間 t における余震の数, A は t によらない定数です.c は,普通 0.1 日以下の値をとりますから,本震発生直後を除けば,次の式で良く近似されることになります.
n(t)=A/t (2)
つまり,余震の数は双曲線を描くようにして減っていくことになります.図1は,日本の内陸で起きた地震の中ではその規模が最大級と言われている 1891 年の濃尾地震(マグニチュード 8.0)の余震数の減りかたを表わしますが,式 (2) が大変良く当てはまることがわかります.実に100 年近くにわたっていつも同じように余震がおき続けていることになります.
図1 1891 年濃尾地震の1日あたりの有感余震の減りかた(Utsu,T., J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., VII, 3, 129-195, 1969).
もう一つの重要な規則性は,通常「グーテンベルグ・リヒターの式」と呼ばれているものです.これは,ある地域である期間の間に起きた地震を調べたとき,地震のマグニチュード(規模とも呼ばれます)により起きる地震の数がどのように違うかということを表すものです.数式では,常用対数を使って,
log n(M)=a−bM (3)
と書けます.ここで n(M) は,マグニチュードが M である地震の総数であり,a とb はM によらない定数です(ちなみに b は,ふつう 1 に近い値をとります).図2には,1965 年から1974 年の間に日本付近で起きた浅い地震の n(M) と M の関係を示しますが,この場合,マグニチュードが 7 程度以上の大地震を除いて幅広く,グーテンベルグ・リヒターの式がなりたっていることがわかります.
図2 1965 年から1974 年までに日本付近で起きた浅い地震のマグニチュード Mの分布(宇津「地震学」,共立全書216,1977).
2.線形性と非線形性
前節で述べた規則性が幅広く存在するということは,何を意味するのでしょうか.
余震の数が本震発生からの経過時間により決まるという事実は,余震の起こりかたが本震により何らかの形での強い影響を受けているということになります(先にあげた濃尾地震の場合はその発生後100 年以上たった今でも本震の影響が残っていることになります).また,グーテンベルグ・リヒターの式は,図2の曲線の右端付近にある大規模な地震を除いて,小さな地震と大きな地震の起こりかたの間には,なんらかの決まった関係があるということを意味するでしょう.したがって,大小の地震がなんらかの情報をやりとりしているとしか考えられません.つまり,きわめて大規模な地震を除き,地震は互いに強い影響を及ぼし合っているらしいということが言えます.
地震は互いに強い影響を及ぼし合っているという事実は,地震の起こりかたを研究する上で,いわゆる「非線形性」という性質を考えなければならないことを意味します.「非線形性」と対照的な性質として「線形性」があります.「線形性」とは,簡単に言えば,ある事物の性質を調べるとき,まず,それを形作っているもっとも基本的な要素に分割し,それぞれの要素のふるまいを調べます.そして,その事物全体のふるまいは,それぞれの要素のふるまいの単純な足しあわせとして理解できると考えるのです.例えば,仮に,ある地域に三つの断層があるとしましょう.「線形性」の考え方では,一つ一つの断層を取り出し,それぞれの破壊のしかたが理解できれば,この地域での地震のおきかたは,単純に,それらの足しあわせからわかることになります(図3).このように「線形性」の考え方は,たいへん単純であり,しかも多くの物理現象にあてはまることがわかり,近代物理学発展の基礎となりました.
図3 (a) 三つの断層のある地域. (b) この地域での地震の繰り返しの様子. 断層 A, B および C, それぞれを別々に取り出した時,地震が,時間間隔 Ta, Tb, Tc で発生するならば,線形性の考えに基づくとき,この地域の 地震のおきかたは (b) に示すように,これらを足しあわせたものになる.
しかし,仮に,図3に描いた断層がそれぞれ互いに強い影響を及ぼしあうと考えてみましょう.そうすると,たった三つの断層しかなくてもたいへん複雑なことが起きることになります.図4に示すように,それぞれの断層の間の影響が複雑にからみ合っているからです.影響を互いに及ぼしあうために,例えば,断層A の破壊の仕方を理解するためには,他の全ての断層の破壊の仕方も知らなければなりませんし,影響がどのように伝わるかも知らなければなりません.したがって,線形的な考え方のように,個々の断層の性質がわかれば全て終わりというわけにはいきません.つまり,この地域の断層全体をはじめから分割不可能なものとして考察しなければ,この地域の地震発生の予測はできないということになります.余震の大森公式やグーテンベルグ・リヒターの式は,大規模な地震を除き,このような「非線形性」を地震は持っているということを示しています.しかし,このような複雑さにも関わらず,余震の大森公式やグーテンベルグ・リヒターの式に表されるような規則性が現れるのはたいへん不思議であると言えます.
図4 影響を及ぼしあう三つの断層.矢印は影響の伝わる向きを表わす.断層 A,B および C を ,それぞれを別々に取り出した時(つまり,この地域に は取り出しを行った断層しかないと考えた時),地震が時間間隔 Ta, Tb, Tc で発生するとしても,実際には互いに影響を及ぼしあうため,この地 域の地震のおきかたはこれらを足しあわせたもの(図3b)にならず多少 のずれがある.ずれの大きさは影響の強さに比例する.つまり,「それぞ れを別々に取り出して」考えることは意味がないことになる.
複雑でなかなかその振る舞いが理解できなかった種々の現象について,最近では「非線形性」の立場から理解しようという努力がなされています.地震という現象はその典型的な例と言えるでしょう.また,上で述べたような意味での「非線形性」を持っている系は,「複雑系」とも呼ばれており(1),この言葉を耳にしたかたも多いでしょう.最近では,多くの自然現象は複雑系として理解できるということが示されつつあります(1).
3.大地震のおきかたと非線形性
今までは,主として中小の地震の性質について考えて来ましたが,では,図2の曲線の右端付近にあるような大地震はどのように起きているのでしょうか.中小の地震に見られるように,やはり,互いに影響を及ぼしあっているのでしょうか.図5に,1992 年にロスアンゼルス北方の砂漠で起きたランダース地震(マグニチュード 7.6)の際に,地表に現れた断層を示します.これから,地表に現れた地震断層というものは一本の連続な線状のものではなく,不連続ないくつかの小断層からなっていることがわかります.図5は,断層が地表を切ったところを示したに過ぎませんが,地震波の観測から,地表でのこの断層の不連続は地中かなり深くまで続いているという指摘もあります.1995 年の兵庫県南部地震(マグニチュード 7.2)は,複数の断層(野島断層,須磨断層など)のすべりにより生じたと考えられています.さらに野島断層そのものを見ても,多くの不連続が見えます.このように,どうやら,大地震はいくつかの比較的小さな断層が短い時間の間に急激にすべることにより起きるようです.そうすると,どのようなことが考えられるでしょうか.それぞれの小断層がたまたま,ほとんど同じ時間に破壊したとは考えられれません.もし,このように,たまたま起きたのだとしたら「線形」的な考え方で良いということになります.しかし,多分,ある小断層がすべり,それが近くにある別の断層のすべりを引き起こし・・・というふうに互いに影響を与えあい,連鎖反応的に破壊を引き起こしていったと考えるのが妥当ではないでしょうか.実際,観測された地震波の解析からも,そのようなことが確かめられつつあります.この連鎖反応は,断層が急激にすべることにより放射される地震波により引き起こされると考えられています.そうすると,大地震自体も,「非線形性」の結果として生じたことになります.やはり,大地震を考える際にも「非線形性」を考慮に入れる必要がありそうです.
図5 1992年ランダース地震の際地表に現れた断層.星印は破壊が 開始したと考えられている場所.
4.計算機の上で地震を起こす
現在,日本各地で積極的に活断層のトレンチ調査が行われており,多くの活断層で大地震がどのように繰り返し起こってきたかがわかってきました.しかし,日本の内陸での大地震の起きる時間間隔はふつう千年以上とたいへん長く,トレンチ調査が行われても,せいぜい数回の繰り返しの記録がわかる程度でしょう.おおよそ地震がどのように起きるかはわかりますが,このように数少ない記録から将来の地震の発生を予測することは,場合により危険でしょう.図6は米国カリフォルニア州のパークフィールドという所で現在までに知られているマグニチュード 6 程度の地震の繰り返しの様子を示したものです.この図から,1996 年まで地震がほぼ 20 年ごとに起きていることがわかります.米国地質調査所では主としてこの繰り返しの様子から,1993 年の末ころまでには次の地震が発生すると予測したのですが,残念ながら(幸いなことにと言うべきでしょうか)未だにおきてはいません.このように数少ないデータからは,なかなか精度の良い予測はできません.そのような場合,計算機の上で地震を発生させて理解を助けるということが有用です.高速で大容量のメモリーを持つ計算機であれば何千年〜何万年分の計算だって可能です.そうすれば,現実の少ないデータを補うということもできます.ただし,まだ地下深部の様子がそれほどはっきりわかっているわけではないので,計算の前提になる条件で不明なものも多くあります.
図6 米国カリフォルニア州パークフィールドでのマグニチュードが6程度の 地震の繰り返しの様子.
a.まずもっとも簡単なモデルを考えてみよう
計算機などを用いて数理的に地震の発生の仕組みを考えるときには,地震の「モデル」というものを考えなければなりません.ここでは,理解を助けるために,できるだけ簡単なモデルを考えてみましょう.したがって,ここで考えるモデルが地下で起きる地震にそのままあてはまるとは考えないで下さい.ただ,地震という現象の重要な特徴のいくつかを表すものとしてモデルを組み立てるのです.さて,もっとも簡単な地震のモデルとして図7に示すものを考えてみましょう.重さ m の物体が板バネで上側の板につながっていますが,下側の板の上では,すべることができるとしましょう.また,上側の板はたいへんゆっくりといつも同じ早さで右の方向へ動いていくと考えます.このとき,上側の板が動くにつれて重さ m の物体に加わる力が徐々に増えていくことになります.そして,物体に加わる力が静止摩擦力に等しくなると,この物体は下側の板上を急速にすべることになります.つまり,図7では,重さ mの物体を一つの断層と考え,急激なすべりが起こることにより地震が発生すると考えるのです.上側の板のゆっくりとした動きはプレートの動きなどによって断層へ加わる力が徐々に増えていくことを意味します.しかし,このモデルでは問題もあります.上側の板がいつも同じ早さで動き,静止摩擦力がいつも同じなら,発生する地震はいつも同じ大きさとなり(この場合,地震の大きさは,物体のすべる距離で表せます),発生する時間間隔もいつも同じになります.そういうわけで,グーテンベルグ・リヒターの式で表されるような性質はまったくみられません.大地震もいつも同じ時間間隔で起きるわけではありません.どうも地震を表すには簡単すぎるようです.
図7 重さm の物体は上側の板に板バネでつながっている.上側の板が矢印の 方向にゆっくり動くにつれて,物体に加わる力は増大する.この力が 静止摩擦力に等しくなると,物体は下側の板の上で急激にすべる. 点線はすべりが生じた直後の物体の位置を示す.
b.グーテンベルグ・リヒターの式を再現する
図7のモデルのどこが悪いのか考えてみましょう.前節でも述べましたように,大地震というものはいくつかの比較的小さな断層がほぼ同時にすべることにより起きるようです.図7では,断層を簡単にただ一つの物体で表しており,このような複雑さというものをまったく考えにいれていません.そこで,これを反省して,こんどは図8に示すようなモデルを考えてみましょう.この図では,重さm の物体が多数コイルバネで横方向につながっています.一つ一つの物体がそれぞれ小断層を表すと考えることができるでしょう.これら小断層はコイルバネで影響を及ぼしあっています.小断層が互いに影響を及ぼしあっているらしいということは前節でも述べましたが,ここでは,その影響の及ぼしかたをコイルバネで表現しました.このモデルで物体Aがすべり始めたとしましょう.すると,物体Bとの間のコイルバネは縮みますが,物体Cとの間のコイルバネは伸びることになります.それにより,物体BとCには以前より大きな力が加わることになります.バネの伸び縮みが十分大きければ物体BとCでもすべりが引き起こされることになります.つまり,すべりが連鎖反応のように広がっていくこともあります.たいへん広い範囲で連鎖反応が起きれば,大地震の発生ということになります.図7のモデルよりも,もう少し厳密に考えても小さな断層がこのように横方向に並んでいれば,連鎖反応的な破壊がおきることがわかっています(2).
図8 重さm の物体が多数コイルバネでつながったモデル.各物体は板バネで 上側の板につながっている.上側の板が矢印の方向にゆっくり動くにつれて, 各物体に加わる力は増大する.この力が静止摩擦力に等しくなった物体は すべりを始める.(a) および(b) は,それぞれ物体Aのすべり開始直前と 直後の状態を表している.
では,図8のモデルを使って地震を起こしてみましょう.まず初めに各物体はほんのわずかですが,すでにすべりを起こしているとします.そして他の条件(例えば,摩擦の大きさやバネ定数など)はすべての物体で同じとします.つまり,初めの状態では,各物体の間の距離が,場所によりほんのわずかづつ違うとするのです.そうしないと,各物体に加わる力は全く同じになり,上の板がある程度動いたとき,全部の物体が同時にすべってしまいます.つまり,見かけ上,図7のモデルと全く同じことが起きてしまいます.実際,たいへん複雑な条件にある地中で,すべての小断層に加わっている力がまったく等しいと考えるにはたいへん無理があります.人工的に,各物体の間の距離が,場所によりほんのわずかづつ違うとすることにより,各小断層に加わる力を少しだけ違えることができます.図9に図8のモデルによる地震のおきかたを示します.たいへん複雑なおきかたをしていることがわかります.図9からは,また,小さな地震ほど数が多いことがわかります.ここで,マグニチュード M は各物体がすべった距離の和の常用対数で表すことにします.実際の地震のマグニチュードもそのような量です.式で書けば
となります. なお,Un は n 番目の物体がすべった距離,N はすべりを起こした物体の個数です.では,計算結果はグーテンベルグ・リヒターの式をみたすのでしょうか.結果が図 10 です.中小の地震は,グーテンベルグ・リヒターの式をたいへん良くみたすことがわかります.図9や図 10 からはっきりわかるように,図7のモデルからは想像もできないほど複雑な現象が起きていることがわかります.つまり,物体が互いに影響を及ぼしあうということ,始めに少しだけ物体の間の距離を違えたということが,このように複雑な現象を引き起こしたのです.したがって,グーテンベルグ・リヒターの式は,どうやら多くの性質の異なる小断層が複雑に影響を及ぼしあうことに原因があると考えるのが妥当なようです.
図9 図8のモデルを用いた場合の地震のおきかた.時間の尺度は,ここでは ある基準に基づき適当にとってある.実際の地下の条件に当てはめると, 例えば,T =100が,1日になることもあるし1時間になることもある. 大地震が起きる前には,前震のような小さな地震がたくさん起きている ことがわかる.
c.大地震の繰り返しの様子
ところで地震災害軽減のためには,大地震がどのように起こるのかということについての知識が必要です.図8のモデルで,大地震がどのような間隔で起きるのかを調べたのが図 11 です(図9よりもはるかに長い時間の計算をした結果です).図9から,このモデルの場合,マグニチュードが1から2程度のものが大地震と呼べます.これらの地震は,グーテンベルグ・リヒターの式をみたしません(図 10).なお,ふつう私たちが大地震とよぶものはマグニチュードが 7 とか 8 とか言うものですが,ここでは少し違った尺度を使っているため,大地震のマグニチュードが 1 から2 程度になっているのです.図 11 からは,大地震は,時間間隔が 500 から700 程度で起きる場合が圧倒的に多いことがわかります.つまり,大地震は,いくつかの例外を除けば,ほぼ周期的に起きることになります.これは,1966 年までのパークフィールドでの地震の発生のしかたとたいへん似かよっています.図8の地震のモデルはたいへん簡単なものですが,このように地震の多くの特徴をたいへん良く表わしているように思えます.本当にこれで良いのでしょうか.
図 10 地震のマグニチュード分布.図9にもとづいて計算をした.
図11 図8のモデルから計算される大地震の発生時間間隔の統計分布.時間の 尺度は図9で仮定したものと同じである.
d.影響を及ぼしあう2枚の断層
図8のモデルは,1枚の大きな面の上に乗った小断層の集まりとして,地震断層を考えました.そして,このモデルでは,世界にはこの1枚の断層面しかないと考えていることになります.しかし,実際の活断層の図を見てみましょう.例として,図12 には阪神地方の活断層の図を示します.本当は世界にはたいへん多くの活断層があります.図8では,1枚の大きな面の上に乗った小断層の間のそれぞれの影響しか考えませんでしたが,離れた面にある断層の影響もどうやら考える必要がありそうです.
図12 阪神地域の活断層の分布.活断層研究会編「新編日本の活断層」 東京大学出版会(1995)による.
こんどは,そのような影響を考えるため図8のモデルをもう少し複雑にしてみましょう(図13).このモデルでは,上下両面で物体のすべりが起きることになります.つまり,少し離れた2枚の断層面を考えることになります.それぞれの断層面では,図8と同様に,多くの小断層が影響を及ぼしあっていることになります.板バネでつながっている上下の二つの物体の間での影響の及ぼしかたは,一つの面の上にある物体の間の影響のしかたと少し違います.図8で見てきたように,一つの面の場合だと,ある物体がすべれば両隣の物体に対して新たな力を加えることになります.しかし,図13 からもわかるように物体Aがすべれば,これに板バネでつながっている上側の物体Dに加わっていた力は減ることになります.もう少し厳密な断層のモデルを考えても同様なことが起きます(2)
図13 影響を及ぼしあう2枚の断層のモデル.物体 A に急激なすべりが生じた と仮定している.上下の板は矢印の方向にゆっくりと動いているとする.
大地震の繰り返しの様子を示したのが図14 です(さきほどと同様,マグニチュードが1から2程度のものを大地震と呼ぶことにします).図9と似ているところもありますが,そうでないところもあります.上下両面を一つのものと考えると,図14は,図9とたいへん似ています.図 11 のような図を描くと,やはり,大地震は時間間隔が 500 から700 程度で起きる場合が圧倒的に多いことがわかります.しかし,上下両面をまったく別のものと考えたらどうでしょう.たいへん複雑なおきかたをしていますが,ある種の規則性があることもわかります.時間10,000 から30,000くらいまでは,大地震は上面の断層のみで起きています.しかし,時間30,000 から450,000 くらいまでは,今度は一転して,ほとんど下面のみで地震が起きています.このようにどちらかの断層だけで大地震が起きて,他方の断層上では,静かなままということが良く見られます.例えば,上面のみで大地震が起き続けている時間帯は,時間60,000 から70,000 まで,時間82,000 から96,000 まで,時間130,000 から136,000 などです.一方,ほとんど下面のみで大地震が起き続けている時間帯は,時間71,000 から75,000,時間100,000 から110,000,時間120,000 から123,000 などです.わずかですが,両面ともほとんど交互に活発な活動がある時期もありますが(例えば,時間110,000 から120,000),やはりどちらかの断層のみで大地震が起き続けている場合が多いようです.このときの,大地震の発生時間間隔はほぼ一定で,時間500 から700 程度です.
図14 図13 のモデルから計算される大地震の繰り返しの様子.時間 Tの尺度は 図9で仮定したものと同じ.M はマグニチュードである.
e.大地震発生の長期予測について
図14 の計算結果はどのようなことを意味するでしょうか.ある断層上で,大地震が何回かほぼ同じ間隔で起き続けているとしましょう.例えば,図6のパークフィールド地震が良い例です.このような時,私たちは,将来もこのまま同じように地震は起き続けると考えがちですが,図14 の結果は,このような考えは場合により誤りだと言うことを示しています.お互いに影響を及ぼしあう断層群があったとき,ある断層上で何回かほぼ同じ時間間隔で大地震が起き続けてきても,そこでの発生は突然終わりをつげ,大地震の発生が別の断層の上へ移る可能性があるからです.したがって,私たちは,大地震の発生の長期的な予測を考える時には,ただ一つの断層だけではなく,その回りの互いに影響を及ぼしあっている断層全体を一緒に考えなければならない,すなわち,「非線形系」としてものごとを考えなければならないというわけです.
5.終わりに
図14 に示したような現象が実際に起きているのかどうかはまだよくわかりませが,大地震の繰り返しについて現実のデータが限られている以上,計算機に基づいた研究が重要な役割を果たすでしょう.ただし,その場合は,地下の状況をできるだけ正確に再現するようなモデルを考える必要がありますが,まだまだ地下の様子については,わからないことが多く,計算機に基づいた研究により精度の良い地震の発生予測が可能な段階にはなっていません.
また,本稿でも示しましたように,地震現象のいくつかは典型的な「非線形系」のようです.従来私たちは,個々の断層を詳細に調査し研究する努力を行ってきましたが,これからは,影響を及ぼしあっている断層全体を分割不可能なものとして考えていく必要がありそうです.
Last modified: Fri Feb 20 20:27:41 JST 1998