地震研究所公開講義『大地震の起こり方とその予測可能性』地震予知情報センター 菊地正幸 |
1. はじめに
「地震」という言葉は2つの意味で用いられています。1つは文字通り”地面の揺
れ”、もう1つは揺れの原因となる”地下の破壊過程(震源)”の意味です。地震学
者の目はどちらかといえば震源に注がれることが多いのですが、地震災害の観点から
は地面の揺れがより直接的です。また、地面の揺れと震源は密接な関係を持っており
、震源の研究も基本的に地面の揺れのデータに基づいていることを考えると、どちら
が主で、どちらが従といったことはありません。
地震計は地面の揺れを記録する装置です(*)。近年、この装置に大きな進歩があり
ました。これによって震源で起こっている現象がより具体的・詳細な形で見えるよう
になりました。「いつ」、「どこで」、「どれくらいの大きさ」という震源情報の3
要素に加えて、「どのように」という内容が付け加わりました。しかも地震発生後、
非常に早い段階でその情報が得られるようになりました。
ここではこのような地震学の最近の進展についてお話しするとともに、これによっ
て今後どのような地震の予測が可能になりそうかを考えてみたいと思います。
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(*)揺れの記録
地震計がなくても地面の揺れの程度を知ることは可能です。実際、つい最近まで公
的に用いられていた震度は体感によるものでした。古文書などの記載も震度の推定に
役立ちます。最近では、コンビニの映像なども利用可能です。ある意味で映像は地震
計以上に豊富な情報を含んでいるとも言えます(写真;図1参照)
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☆高性能地震計・高速通信・高速計算機の活用
1980年代後半から90年代にかけて、地震計、通信システム、計算機などの進歩には
目を見張るものがありました。この間、アメリカやフランスなどが中心になって広帯
域地震計のグローバル観測網が整備されてきました。広帯域地震計とは、ゆっくりし
た動きから短い周期まで、地面の動きを忠実に記録することのできる装置のことです
。代表的な広帯域地震計は、地球潮汐という半日ぐらいの周期のゆっくりとした変動
から、音として感じるような数10Hzの振動までを記録することができます。
ディジタルデータ通信の進歩は地震の研究スタイルを変えたと言っても過言ではあ
りません。70年代までのアナログ地震記録の時代には,まずデータの収集に1ヵ月以
上を要しました。それから解析を始め,結果が出るまでにさらに1ヵ月以上を必要と
しました。今日,全世界の地震波のデータは地震発生後ほぼ1時間で,米国の地震学
連合(通称IRIS: Incorporated Research Institutions for Seismology)のデータセ
ンターに収集され,研究者はインターネットを通して,いつでもどこでも使えるよう
になっています。現在IRISの観測点は130点を超えています(図2)。国内でも同様
の観測網・データ流通システムの整備が計られようとしています。基盤的地震観測網
と呼ばれるものがそれです。
2.大地震の起こり方
地震は地下の岩盤に蓄えられた歪みエネルギーの一部が断層という「ずれ破壊」に よって急激に波動エネルギーに変わる現象です。地震波の発生に関わった断層のこと をとくに震源断層と呼びます。地震の規模が大きく、かつ震源が浅いときには、この 断層の一部が地表に達することがあります。これが地表地震断層です。単に地震断層 と呼ぶこともあります。兵庫県南部地震(M7.2)では、淡路島で地表地震断層(野島 断層)が観察されました。しかし、たとえ地表に現れなくても、地震が地下の断層に よって引き起こされていることが地震波の特徴からわかります。
2.1 観測波形から震源断層を推定する
震源断層は、断層の型や大きさ、破壊プロセス(断層の滑り運動過程)によって特 徴付けられます。
●断層の型と放射パターン
正断層、逆断層、横ずれ断層といった断層の型は、P波(縦波)初動の押し引き分
布(放射パターン)から決めることができます。断層面上で岩盤のずれが起こると、
「断層面」と「ずれに垂直な面」を境にして、初動が押しになる領域と引きになる領
域ができます(図3)。逆に、このようなP波の押し引き分布がわかれば、断層面と
ずれの向きを知ることができます。また、地表に断層が現れなくても、地下で岩盤が
ずれたことを認識することもできます。
最近は、P波初動の向きだけではなく、揺れの振幅や波形の情報を使って、断層の
型を調べる研究が進められています。図3を水平に輪切りにすると、横ずれ断層を水
平面上で観測した場合の振幅分布がえられます。それが図4です。この図で内側にあ
るのは最初に到達するP波であり、外側がその後に到達するS波です。P波とS波の振幅
と向きを使うと、1観測点のデータだけでも断層の型を決めることができます。
●震源断層の動きと波形
次に、波形(揺れの時間変化)について見てみましょう。震源から遠方で観測され
る地震波形は、「ずれ領域の拡大速度」と「ずれ速度」のかけ算(正確には、たたみ
こみ(convo1ution)という演算)により与えられることが理論的にわかっています
。「ずれ領域の拡大」というのはイメージしにくいかもしれませんが、長いじゅうた
んをずらす様子を思い浮かべて下さい。図5のように、一端を上下させると同時に床
に沿って少しずらすと、すき間の部分が前方に移動していき、最終的に床とのずれが
全体に行き渡ります。震源断層の運動もちょうどこのようなものです。この一連の断
層運動から放出される地震波形は1つのパルスとなります。
実際には、途中でずれが増幅したり、消滅して別の断層面に乗り移ったりします。
このような不規則破壊伝播のことを多重震源(マルチプルショック)と言います。こ
の場合、地震波形はパルスの重ね合わせとして与えられます。いろいろな方位の観測
点の地震記録を用いてこのパルスの時系列を調べれば、破壊がどの方向に、どのよう
に伝播していったかを知ることができます。
まとめますと、地震波の解析から得られる震源断層の情報には以下のようなものが
あります。
(1) 震源断層の型、大きさ(マグニチュード)
(2) 震源時間(破壊継続時間)
(3) 破壊伝播方向、拡がり(断層面積)
(4) 破壊様式(ゆっくり地震か通常地震か、単発か多重震源か)
(5) 不均一断層すべり
2.2 どのようなことがわかったか
●破壊過程の複雑さと多様性
地震の規模は、第一義的には断層の長さによって決まります。断層が長いほど広い
範囲の歪エネルギーが解放されるからです。おおよその目安として、
M8の地震は断層長100km、
M7は30km、M6は10km
といった具合です。
では、断層の長さはどのようにしてきまるのでしょうか。ガラスのように均一で脆
い材料では、応力がある限界値を超えると、小さいひび割れから、いっきに材料全体
を横切る破壊が生じます。しかし、傷だらけで不均一な岩盤の場合には、破壊はけっ
してスムーズには進まず、マルチプルショック(多重震源)となります。
破壊が進展していく途上にいろいろな障害物(バリアと呼ばれる)や応力の高い領
域(アスペリティと呼ばれる)があり、それらの相互作用によって複雑多様な破壊パ
ターンが生まれます。大きい地震もあれば小さい地震もあるのも、このような不均一
性と相互作用の現れといえます。
このことは地震予知の難しさにも通じるのですが、しかし他方で、この不均質性・
相互作用こそが、大破壊がいっぺんに起こらず、なにがしかの前兆をともなったり、
破壊間近なところと未熟なところが共存していることの原因であり、したがって、地
震予知の拠り所でもあると言えます。
●最近の日本周辺の地震
日本では今世紀に入ってから約30回大きな被害地震に見舞われてきました。平均し
て10年間に3回程度です。このうち2回は海域の地震、1回は内陸の地震といった具合
です。図6にそれぞれの震源域(ずれ破壊の起こった領域)を示します。陰影をつけ
たものは最近数年間の地震です。枠の中の波形は「震源時間関数」と呼ばれるもので
、破壊の時間経過を示します。いわば地震波エネルギー放出の時間経過を表している
ものと考えてください。この波形から、たとえば、93年1月15日の釧路沖地
震はエネルギー放出時間が約20秒間の単発破壊であること、93年7月12日の北海道南
西沖地震は約10秒間のエネルギー放出時間をもった小破壊が5、6回連発した多重震
源であること、さらに、94年12月28日の三陸はるか沖地震は約20秒間の初期破壊のあ
と約40秒間の比較的なめらかな主破壊へ移行したこと、などが示されています。95年
1月17日兵庫県南部地震ではわずか11秒間に2,3の断層がそれぞれ5秒間ぐらいず
つ動きました。
このような破壊パターンは地震の発生場所と密接に関係しています(図6の右下の
挿絵参照)。プレートの内部で起こる地震(○1、○2、○4)は、概して、“速く短
時間の破壊”であるのに対し、プレート間境界で起こる地震(○3)は、概して、“
遅く長時間の破壊”という特徴を持ちます。
●津波地震、ゆっくり地震
極端な例が津波地震です。地震の揺れは大したことがないのに大きな津波を伴う地
震のことです。3つほど原因が考えられます。「ゆっくり地震」、「海底地滑り」、
「ごく浅い高角縦ずれ断層」です。
このうち最も可能性が高いのが「ゆっくり地震」です。これは破壊伝播速度がゆっ
くりであるが最終的なずれが大きい地震です。ただ、”ゆっくり”とは言っても、地
震波速度(〜3km/s)に比べれば遅いという意味であり、津波の伝播速度(〜200m/s
)に比べれば十分速いので、震源域の海水を一気に上下に変動させます。1992年9月
2日のニカラグア地震によってその存在が確かめられました。1896年の三陸地震津波
もそのような”ゆっくり地震”であったらしいとの研究結果もあります。
図7に、ニカラグア地震、北海道南西沖地震、92年12月12日のインドネシア地震の
3つの破壊過程が比較してあります。ニカラグア地震が他の2つに比べて、ゆっくり
、かつ、なめらかな破壊過程を伴っていることがわかります。これに対して、北海道
南西沖地震は地震動そのものが激しい大地震でした。
先日7月17日、パプアニューギニアで起こった地震では数千人が津波の犠牲になり
ました。この地震のマグニチュードは7.0でしたが、津波の大きさから推定したマグ
ニチュードは7.5かそれ以上であり、津波地震の特徴を持っています。しかし地震波
の解析からわかったことは、主要な破壊継続時間は20秒間ほどであり、ゆっくり地震
ではなかったこと、震源がかなり浅く「高角縦ずれ断層」の可能性があることでした。
津波地震を地震波の解析によっていち早く捉えることは津波防災にとって大変重要
です。広帯域地震計の登場によってそのことが可能になりつつあります。今年5月4日
の石垣島沖合の地震では、逆に、地震の規模の割に大きな津波は発生しませんでした
。この理由は地震断層が海底の上下変動をあまり伴わない横ずれ型であったことと関
係しています。将来的にはこのような震源情報を取り入れた津波予報とその更新情報
の提供が可能になることでしょう。
●地震の再現性・非再現性
日本で最大クラスの地震が1968年5月16日岩手-青森沖合で発生しました。1968年十
勝沖地震(M7.9)と名付けられている地震です。図8は断層の食い違いを山の高さに
見立てたイラストです。まず、初期破壊が断層面の中央部Aで起り、その後30秒ぐら
いして南西部Bで2番目の破壊が誘発されました。これ以降、主要な断層運動は北に
向かって進行し、北端付近で最大の破壊CとDが起こりました。
この地震の初期破壊とほぼ同じ場所で、94年12月28日に三陸はるか沖地震が起こり
ました。まだ26年しか経っていないのに大地震が再来したということで、いろいろと
論議を呼びました。とくに地震空白域による地震切迫域の割り出しに疑問が投げかけ
られました。一方で、68年と94年の地震は初期破壊の発生パターンが大変良く似てい
ること、しかし94年には北に向かった主破壊の展開はありませんでした。このような
再現性、非再現性が何を意味するか、今後GPS観測などによって得られる地殻変動な
どとの関連が明らかになれば、事前にどのようなことが予測できるかについて、重要
な知見が得られるでしょう。
●地震はどのような場所で発生するか
地震はずり歪みのエネルギーが蓄積する場所でしか発生しません。このことはあた
りまえのようなことですが重要な意味を含んでいます。つまり、地震が発生するとい
うことは、そこにある岩石がずり応力に対する抵抗力(剛性率と呼ばれる)を長時間
保持していること、かつ、その場にずり応力が加わっていることを意味します。
これまで、マグニチュード8クラスの巨大地震はほとんどプレート間地震であると
考えられてきましたが、近年のグローバル地震観測網のデータを分析する中で、その
ような定説を覆す地震がいくつも現れてきました。海洋プレートを断ち切る断層(94
年10月4日北海道東方沖地震、95年10月18、19日の喜界島近海の地震M6.9)や、安定
大陸内部の巨大地震(98年3月25日の南極プレート内の地震M8.2)などは、頻度の差
は別として、潜在的には地殻の浅いところはどこでも大地震が発生し得るということ
を物語っているように見えます。
3.大地震の予測可能性
大地震について、発震後の運動についてはかなりよくわかってきました。地下構造
によって揺れがどのように増幅されるのかについてもかなり理解が進んできました。
それに比べて、大地震の発生前のプロセスについては、まだまだわからないことが多
くあります。地震予知が可能かどうかは、ひとえに、この地震前のプロセスの理解に
かかっています。これについては研究者の間でも意見がわかれていますが、現状は「
予知が可能かどうか」という議論に決着を付けるほどの観測事実も理論もまだないと
いうところです。
このような段階にあっては、現時点でどのような予測が可能か、どうすればその予
測精度を上げることができるか、それは災害軽減策にどのように還元できるか、とい
った問題設定が建設的かつ研究者・国民のコンセンサスを得やすいと思われます。最
近、このようなことに関して研究者の間でかなり突っ込んだ議論がなされました。以
下、これについて紹介します。
3.1 研究者有志の計画案作り
昨年(1997年)6月、文部省の測地学審議会によって、『地震予知計画の実施状況
等のレビューについて』が報告されました。それから1ヶ月たった頃、地震予知に関
心を持つ研究者が東京大学地震研究所に集まり、レビューの内容やそれをめぐるマス
コミ・世論の動向について、率直な意見交換を行いました。9月には、「地震予知研
究を推進する有志の会」(世話役代表:浜野洋三氏)による「地震予知研究課題ワー
クショップ」が開かれ、今後の計画の骨子となるべき研究課題を持ち寄り、まる2日
間にわたって議論しました。ワークショップの議論は、その後メーリングリスト(ML)
の中で活発に続けられました。
こうして今年(1998年)5月、有志の多くが概ね合意できる計画案がまとまり、『新
地震予知研究計画-21世紀に向けたサイエンスプラン』と題するA4版40ページ余り
の小冊子ができあがりました。また、ホームページURL:
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/yoti-kenkyu/
にも掲載してあります。
3.2 新研究計画の内容
新研究計画の特徴は、一言でいえば、地震発生の全過程の理解に徹底してこだわっ
たものであるということです。“地震予知にそのような知識は要らない”、“直前に
起こる現象(前兆現象)さえきちんと把握できれば予知できる”という主張もありま
す。しかし、これまでのところ、そのような方法で多くの研究者が納得するような予
知がなされたことはありません。多くの研究者が納得する方法でない限り、結局は地
震防災に向けた具体的な施策を引き出す力とはなり得ません。もっとも、このことは
前兆現象の研究を排除することを意味するものではなく、むしろ、その発現機構と発
生条件の解明を重視し、地震発生の直前段階の把握に役立てようとしています。
新計画では、まず、広域・長期の地殻活動(地殻変動や地震活動など)の常時監視
と予測シミュレーションによって、地震発生の準備過程の進んでいる場所をあぶり出
すこと(図9)、次いで、応力の蓄積が周りより速く時間的にも加速していると判断
される領域に対しては、さらに集中的な観測網を敷いて、時空間スケールのより小さ
い地殻活動の揺らぎを検出すること(図10)を基本方針としています。この段階で
、断層上のアスペリティ(結合の強い場所)が何らかの構造的な特徴として捉えられ
る可能性があります。活断層の末端の形状から、そこが破壊の開始点なのか終点なの
かの判別が可能であるとの説もあります。
これらのことがわかると、たとえいつ地震が起こるかはわからなくても、起こった
場合の破壊過程やそれに伴う強震動がかなり良い精度で予測できます。これは都市の
防災計画にも反映させることができます。また、この集中観測網を使えば、地震の始
まりを正確に捉え、リアルタイム地震防災(地震発生後速やかに被害の程度を把握し
初動体制を確立するなど)に直結することも可能となります。
●これまでの予知計画と新計画の比較
☆従来の基本方針:
特定の震源域について、活動履歴・空白・前兆に基づき、長期・短期・直前の予測
を行う
☆新しい考え:
日本列島全域では、地震サイクルのいろいろな段階の震源域(活断層)が共存して
いるとの認識のもと、さまざまなスケールの変動(揺らぎ)を検出する。
長期予測=日本列島規模の変動を抑える
短期予測=震源域規模での応力蓄積の進んだ場所のあぶり出し、強震動の予測も
直前予測=断層面近傍の状態・動的破壊開始の把握
4.おわりに
私は現状において地震予知に頼りすぎる地震防災対策には否定的な意見を持ってい
ます。地震予知の研究を進めること自体に反対ではありませんが、いつ実現するかの
見通しもないままに予知計画事業を継続することには賛成できないと考えてきました
。その後、阪神淡路大震災を契機に、予知に頼らない地震災害軽減策が公共企業体、
自治体、国を中心に進められてきました。このこと自体は大いに評価される前進であ
り、今後ともさらに進める必要があります。
しかし、一方で、”これまでの地震予知計画事業は無駄な投資であった”とか、”
地震予知は今後とも不可能であり、これ以上予知研究に投資すべきではない”といっ
た極めて近視眼的なものの見方には賛成できません。年間数10億円の予知関連予算
をカットして「当面の無駄」を切りつめようとする余り、21世紀に向けた科学・技
術の発展の芽を摘んでしまうことがあってはならないと考えます。
もちろん、このような計画が国家的事業として進められるためには、その前提とし
て、”どのような地震予知をめざそうとしているのか、どのような方法でそれを達成
しようとしているか”について、明確に計画内容が示されなければいけません。今回
の有志の会の提言がその1つの土台になることを願う次第です。
<Q&A>
Q:テレビの速報で震源として表示されるのは、破壊の始まりの点か、大きな揺れの あったところか。
A:破壊の始まりの点です。そこから破壊がどちらへ進んだかによって揺れの分布が 変わってきます。
Q:ゆっくり地震では津波も引き起こせないのではないか。また、パプアの地震で、 20秒間で2m動いたということは毎秒10cmのずれ速度ということか。
A:例えば92年のニカラグア地震では破壊速度は1km/sでした。この速度は地震波の 伝播速度(〜3km/s)に比べれば”ゆっくり”ですが、津波の伝播速度(〜0.2km/s) に比べれば十分速いので、海底変動に合わせて一気に海水が上下します。パプアニュ ーギニア地震で、破壊継続時間20秒というのは40kmの断層全体が動くに要する時間で す。各場所ごとのずれの時間はずっと短く、ずれの速度は通常の地震と同じ0.5〜1m/ s程度と考えられます。
Q:神奈川県西部地震の予知のために、横浜市の強震計ネットのような、密な観測網 が必要だと思うが、どうか。
A:神奈川県西部では、過去におよそ70年間隔で大きな地震に見舞われており、その 最後の地震からすでに70数年経っているというのが、神奈川県西部地震切迫説の内容 です。この地域では神奈川県温泉地学研究所が様々な観測・監視を行っています。横 浜の強震計ネットは、地震予知ではなく、日常的な備えと地震が発生したときの緊急 対応への活用を目的として整備されたものですが、災害の予想される他の都市でもぜ ひ整備してもらいたいと願っています。
Q:関東地震はどんなタイプの地震か。
A:南関東地方では、南からフィリピン海プレートが、東から太平洋プレートが陸( 北米プレート)の下に潜り込んでいます。大正と元禄の関東大地震はフィリピン海プ レートが潜り込む”プレート間地震”です。
Q:ゆっくり地震の起こる場所はあらかじめ決まっているのか。
A:ばりばり壊れるかずるずる壊れるかは断層面のすべり特性によって決まると考え られます。まだ仮説段階ですが、海底の堆積物が海のプレートと一緒に引きずりこま れ全体的な固結が未熟なところでずるずる滑る、逆に、堆積物がはぎ取られ付加帯が 発達しているところでは、海底地滑りタイプの津波地震が発生するのではないかと考 えています。
このほか、日本列島規模の地殻活動シミュレーションに関する質問、予測情報の公
開に関する意見、”摩擦熱を考慮した独自の予知技術の開発”の話なども出されました。
講義に参加された皆さまにこの場をお借りして心からお礼申し上げます。
写真: コンビニの映像(平成7年1月17日神戸)
図1:横浜市高密度強震計による地震時の地動の軌跡
図2:IRISの広帯域地震計観測網
図3:P波(左)、S波(右)の放射パターン
図4:横ずれ断層による放射パターン
図5:ずれ領域の拡大の仕方
図6:今世紀の日本周辺の主な地震
図7:破壊過程の比較
図8:1968年5月16日の十勝沖地震の破壊過程
図9:日本列島規模の地殻活動の予測
図10:震源域規模の地殻活動予測
Last modified: 1998/10/9