地震研究所ロゴマーク 東京大学地震研究所ニュースレター

2005年8月号

pdf版はこちらpdf


地震研究所 公開講義・一般公開 開催される(8月4日)

目次

今月の話題
2005年地震研究所公開講義・一般公開 —見つめよう 震える地球の姿
共同利用研究の紹介
特定共同研究B(2005-B-01)
カルデラの構造と活動そして現在−Out of rangeへの挑戦
(研究代表者 京都大学理学研究科地球熱学研究施設 鍵山恒臣)
第830回地震研究所談話会
・話題一覧

今月の話題
地震研究所 公開講義・一般公開  — 見つめよう 震える地球の姿

 毎年夏の恒例行事となっている地震研究所の公開講義・一般公開が、今年も8月4日に開催されました.

 【一般公開(研究展示および実験講義】

一般公開は今回第12回を数え,新潟県中越地震やスマトラ沖地震津波に関する話題や各部門・センターごとにこれまでの研究活動で得られた成果をポスターや映像にまとめて解説・紹介しました.火砕流の発生や流れの特徴について目の前で実験を実演しながら解説する“実験講義”も実施され,2回行われた講義の延べ定員200人を上回る217人が受講しました.また,学生企画として地震や火山活動に伴い発生する様々な現象のしくみを再現する実験展示も行われました.
 午前10時から午後5時までの開場期間中,約600人の方々に来場いただき,例年の来場者数の動向を考えて500部用意したパンフレットでは足らなくなってしまいました.ことしは例年にも増して中学生・高校生の来場者が多く,地震や火山活動に関する関心の高さをうかがわせます.
 一般公開の模様は順次地震研究所のホームページに掲載する予定です.

実験講義参加者

【公開講義】

 公開講義は1992年に第1回目を実施して以来,これまで地震や火山に関するその時々の話題を取上げてきました.今回は第14回目にあたり,昨年末に未曾有の被害をもたらしたインドネシア・スマトラ島沖の津波に関する話題と関東平野を襲う地震による強い揺れの成因やその影響に関する話題について,詳しくかつわかり易くそれぞれ1時間ずつ解説しました.今回は日中の勤務が終わってからでも参加できるよう開催時間を午後6時から8時と例年より遅く設定し,584人もの参加者がありました.
 公開講義の内容はあらかじめ冊子として用意し,地震研究所のホームページにも掲載していますが,実際に講演した内容を抄録したものを2005年9月中にホームページに掲載する予定です.

公開講義参加者

公開講義・一般公開のページへ

共同利用研究の紹介

特定共同研究B(2005-B-01)

「カルデラの構造と活動そして現在−Out of rangeへの挑戦」

研究代表者 京都大学理学研究科地球熱学研究施設 鍵山恒臣
所内担当教員            森田裕一

なぜカルデラ研究か?−死都日本が研究者に提示した究極の課題

石黒耀氏の「死都日本」は,火山に関わりを持つ者に数多くの話題を提供しました.この小説を火山と人との関わりを多面的に考えるきっかけにしようというシンポジウムも,静岡大学の小山真人教授らによって開催されました.本研究を主宰する鍵山も,小説の舞台である霧島火山の研究に関わっている者として話題を提供し,カルデラや大規模火砕流の研究紹介,危機管理,報道,教育など幅広い議論に加わり,実りの多いシンポジウムであったと考えています.しかし,一方で,私は無力感を感じました.現在私たちが行っている噴火予知研究が,多くの成果を挙げているにもかかわらず,カルデラ噴火に対してはほとんど無力であることを痛切に感じたからです.

噴火予知研究は,本来の志は別として,しばしば活動する火山を対象として研究が進展してきました,数日をおかずして噴火する桜島では,マグマの供給経路や噴火に至る過程が克明に捉えられて,かなりの確率で噴火の予測が行われています.また,20〜30年の間隔で噴火する三宅島や伊豆大島でも,深さ7〜10km程度においてマグマの蓄積が定常的に進み,浅部にマグマが移動することによって噴火に至ることが明らかにされています.しかし,噴火間隔がこれより1桁長い数100年となると,事情は一変してきます.雲仙・普賢岳や岩手山などで発生した噴火や異常活動を研究することで,私たちの知識は断片的には増えましたが,依然として火山の噴火がどのように進んでいくのか,その全体像は捉えきれていません.たとえば,数100年の間隔をおいて噴火する火山のマグマ蓄積は,数10年の間隔をおいて噴火する火山のマグマ蓄積の10分の1のレートで進んでいると考えてよいか?よければ,これまでに解明されてきた火山学的知見を適用することが可能でしょう.それでは,数万年の間隔をおいて噴火する火山でも同じであろうか?多くの人は,同じと考える事には躊躇するでしょう.数100年,数千年,数万年の休止期を持つ火山の活動を予測する難しさは,数10年のスケールで構築された火山学的知見を,そのまま数桁外挿してもよいかというハードルと同義なのです.このハードルを越えるには,そうした火山のマグマ蓄積過程を理解する必要があります.最近緒についた富士山研究は,従来の噴火予知研究の枠をほんのわずか1桁越えた研究なのです(1桁あげるために大変な苦労をする,それが研究ですが...).

カルデラ形成を伴う噴火は,数万年に一度という従来の噴火予知研究が関わってきた時間スケールに比べて2桁以上長い現象である上に,噴火の規模も数千倍から数万倍と桁違いに大きいものです.私たち日本人が数世代生きていても遭遇することはない,しかし一旦発生すれば民族の存亡に関わるほどの規模となるでしょう.火山活動の監視など行っても無意味かもしれません.その意味で,カルデラ形成噴火は,私たちの思考できる範囲をはるかに超えた世界−out of rangeなのです.しかし,噴火予知研究の直接のターゲットには成り得なくとも,火山学研究の上から重要であることに変わりはありません.桁を越えた究極の姿を知ることは,既存の枠を1桁越えた噴火予知研究にとって,向かうべき対極を知ることになるからです.本研究は,カルデラ形成噴火を地質時代の過去のイベントとして考えるのではなく,現在の問題として,カルデラに挑戦します.どこからどう手をつければよいか皆目検討もつかない問題ですから,まず,カルデラを我々自身の身の丈で知ることを始めます.日本の主要なカルデラの活動履歴,構造,周辺のテクトニクスに関する既存の知見を数回のセミナーと補完的な観測によって集積し,活動の現況をどのように研究していくべきか,その方策を検討します.特に,カルデラ噴火を起こすマグマの供給・蓄積過程は通常の噴火の準備過程と同じか違っているか?両者の関係はどうなっているか?カルデラ噴火の準備過程は現在も進行中であるか?に焦点を絞ります.

第830回地震研究所談話会
話題一覧

**通常講演**

マリアナ沈み込み・島弧・背弧系上部マントルの電気伝導度

馬場聖至(地震研),島伸和(神戸大),後藤忠徳(JAMSTEC),市來雅啓(JAMSTEC),Katrin Schwalenberg(トロント大),歌田久司(地震研),末廣潔(JAMSTEC)

IT強震計を用いた草の根型地震防災情報システム−建物用IT強震計システムの設計と試作−

鷹野澄、伊藤貴盛(応用地震計測)

**特集(スマトラ地震でわかったこと、わかりたいこと)**

2004年スマトラ島沖地震は津波地震か?

瀬野徹三

神岡レーザー伸縮計で観測された2004年スマトラ島沖地震にともなうひずみステップ

新谷昌人・孫文科・山中佳子・大久保修平,小久保一哉(気象庁精密地震観測室)

日本列島傾斜計アレイでみた2004年スマトラ地震破壊伝搬過程

綿田辰吾、功刀卓(防災科研)

大地震の続発性について − 2004年スマトラ島沖地震を契機に考える

山科健一郎

スマトラ地震の研究成果については,一般公開の場で展示紹介しました.

→このページのトップへ        →ニュースレター一覧のページへ        →地震研究所トップページ