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地震研究所談話会 第833回 (2005年11月)

平成17年度浅間山電磁気構造探査序報

橋本武志(地震研客員・北大)・鈴木敦生・茂木透・山谷祐介(北大)・三品正明(東北大)・中塚正(産総研)
小山崇夫・小山悦郎(東大)・小川康雄・相沢広記・氏原直人・松尾元広・平林順一・野上健治(東工大)
田中良和・鍵山恒臣・宇津木充・神田径・宇都智史・大久保綾子(京大)

 

浅間山が2004の9月に噴火したことはご存じの方も多いと思います.我々は,その浅間山の地下構造と火山活動の関係を探るため,2005の9月から10月にかけて,電磁場を用いた調査を実施しました.この調査は,政府の第7次火山噴火予知計画の一環として全国の大学が共同して行っているもので,1994年から各地の主要な火山を対象に順次実施しています.電磁場を用いた構造探査は今回が初めてです.

 今回は,2つの測定手法を用いて調査を行いました.ひとつは空中磁気測量と呼ばれるものです.これは,浅間山上空の磁気異常をマッピングすることで,山体内の高温域や基板岩の分布などを磁気的性質から調べようとするものです.ヘリコプターは磁気を帯びていますので,図1のように磁場センサはヘリコプターから離して吊り下げる必要があります.また,GPSによってセンサの位置を数cmの精度で計測しながら飛行します.今回得られた磁場データ(図2)は,地下構造の推定に用いられるだけでなく,地磁気の時間変化から今後の浅間山のマグマ活動を理解するための基準データともなります.

図1:空中磁気測量システムの概略

図2:浅間山周辺域の磁気異常.色付き線はヘリコプターによる測定飛行ルート.暖色系は地磁気が強いことを,寒色系は地磁気が弱いことを示す.▲は浅間山火口.(データ処理は宇津木による)

二つめの手法は,マグネトテルリック法(MT法)と呼ばれるもので,大地の電気伝導度を測定するものです.MT法では,電離層起源の自然磁場変動による大地の電磁誘導応答から電気伝導度を推定します(図3).いろいろな波長の電磁波を用いると深さ方向の情報を得ることができ,測定点を適切な方向に直線的に並べると,その測線に沿った電気伝導度の断面図を得ることができます.図4は予察的な2次元断面インバージョン解析の結果です.この南北断面をみると,浅間山火口の西方にあたる車坂峠付近の地下2 kmあたりから,縦に伸びる低比抵抗体が認められます.これは,GPSによる地殻変動観測から推定されている貫入ダイクの位置とほぼ一致しています.熔融マグマは一般に低比抵抗を示すとされますが,今回検出された低比抵抗体は,昨年の噴火で貫入した1枚のダイク状マグマそのものと考えるのは無理があります.この低比抵抗体は,過去に繰り返し起こったマグマ貫入の結果として形成された高温域あるいは変質域ではないかと思われます.ただし,この低比抵抗体がどの深さまで続いているのかについては,今後モデルを詳しく検討して吟味する必要があります.この図はあくまで概略を示したものと考えてください.

図3: MT法の測定原理.上空から伝播してくる磁場変動による大地の電磁誘導を,磁場センサ(3本のコイル)と電場センサ(2本の電線)で測定する.

図4: 今年度のMT調査で得られた浅間山の南北2次元比抵抗断面(比抵抗は電気伝導度の逆数.図中のカラーバーは対数表示で暖色系が低比抵抗,寒色系が高比抵抗を表す).図の右側が北(群馬県側),左側が南(長野県側),中央部は車坂峠に対応する.インバージョン解析は小川による.中央部低比抵抗体の深度方向への広がりについては現時点では不確定.


 今回の調査では,関係者の協力により高品質なデータが得られました.今後,より詳細な解析と迅速な成果発表に取り組みます.来年度は同じく浅間山で人工地震による構造探査が計画されておりますので,速度構造との比較によって,浅間山の地下構造について理解がより深まることが期待されます.

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