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地震研究所談話会 第836回 (2006年 2月)

堆積物に残された過去6000年間の三陸海岸大槌地域の津波と地殻変動の履歴

原口 強(大阪市大大学院理学研究科)・島崎邦彦(東京大学地震研究所)

大槌湾の北側に隣接する吉里吉里湿地では泥炭層から6枚の津波砂層(図1)が発見された.表層1m,約1000〜2000年間の地層は失われているが,下位の2000年〜5000年前までの地層は保存され,砂層の年代は約2500年,3000年,3600年,3900年,4500年,5000年前を示しほぼ500年間隔である.泥炭は未分解部と有機質粘土の分解部が繰り返し(図1、2),分解部は隆起に伴う湿地の離水による酸化環境への変化を示す.一般的な現世の泥炭の単位体積重量との比較から,分解部は最大50%圧縮した可能性がある.周囲の験潮記録から年間5mm程度の沈降を仮定すると,3000年間で15mの沈降量が見積られる.しかし実際には厚さ3mの泥炭層が存在するのみである.

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この間の海水準変動は無視できる範囲で,12m分の地層の欠如は,この間の複数回の隆起とこれに伴う無堆積期間と離水に伴う泥炭層の分解・圧縮・単位堆積重量の増加(地層の短縮)とがあったことを示唆する.地層の短縮から復元される隆起量は1回あたり1.0〜1.5m程度で、プレート境界域深部でのずれによる隆起量の推定結果(図3)とも整合的である。

隣接する三陸海岸大槌湾では採取された過去6000年間の地層中から,22枚の津波堆積物が見つかった.コア上部過去2000年間の16枚はデルタの最前面に堆積した広い生息域の貝殻片等を含む粗粒堆積物で,100〜150 年の再来間隔をもち,歴史津波との対比が可能である.コア下部は堆積水深が23m以上と深いため,間隔500〜800年で顕著な津波堆積物のみが保存されたと推察される.

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ニュースレター2006年3月号

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