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2007年2月号

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目次

   第846回地震研究所談話会

・話題一覧
今月のピックアップ 「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の
             実施状況レビュー」について
わが国の地震予知研究5年間の成果が、このたびまとまりました。

   今月の話題

・坂上実職員 第14回(2006年度)震災予防協会賞を受賞

第846回地震研究所談話会(2007年1月26日)
話題一覧           ★は以下に詳しい内容を掲載しています。

1.茨城県沖M7級地震発生域アスペリティにおける地殻構造

    望月公廣・山田知朗・篠原雅尚・金澤敏彦

2.前駆的電磁気異常は真に地震前兆なのか?

    長尾年恭(東京大学地震研究所、東海大学地震予知研究センター)

3.2006年11月,2007年1月に起きた千島地震の震源過程<<速報>>

    山中佳子
 

4.単一の無次元パラメータに支配される動的地震破壊の多様性

    鈴木岳人・山下輝夫

5.1月13日千島列島東方地震(M8.2)による地震研建物の揺れについて

    鷹野澄・伊藤貴盛(応用地震計測)

★6.「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の実施状況レビュー」について

    山岡 耕春・平田 直

7.第7次火山噴火予知計画の実施状況のレビューについて

    藤井敏嗣・中田節也

8.粒子−粘性流体複合体の流れが引き起こす振動現象について

    高嶋晋一郎・栗田敬

「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の実施状況レビュー」について

山岡耕春・平田 直(東京大学地震研究所)

 平成19年1月15日に科学技術・学術審議会の測地学分科会から、「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の実施状況等のレビュー」が出ましたので、今日はそれについて簡単にご紹介をしたいと思います。昨年の中ごろからずっと、このレビューのための作業を続けてきました。結構大変でしたが、一応終わりました。

第2次新計画とは

 まず、「第2次新計画」とは何か、少し復習をしてみます(図1)。日本における「地震予知計画」は昭和40年に始まり、第1次から第7次まで続きました。それは、「基本観測網の整備により地震の長期予知を行い、地震の差し迫っている地域で直前現象をとらえる」という方針で実施しました。しかし、研究の行き詰まりがあり、基本から見直そうということで、平成11年度から「地震予知のための新たな観測研究計画」が始まりました。「地震発生に至る全過程の理解によって、その最終段階で発現する現象を理解し、信頼性の高い地震発生予測を目指す」というものです。

図1:地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)とは

 「地震予知のための新たな観測研究計画」の第2次は、平成16年度からスタートしました。平成20年度までです。基本的には第1次と同じ方針を踏襲しましたが、その中でも特に、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築によって地震発生を予測することを目指してやってきました。それにプラスして、従来通りきちんと地震のプロセスを研究しようということです。

 地震調査研究推進本部との関係が、時々問いただされます。地震調査研究推進本部の総合的かつ基本的な施策中、当面推進すべき地震調査項目の第4番目に「地震予知のための観測研究の推進」があります。その観測研究計画を、科学技術・学術審議会測地学分科会で立案・策定する、という関係になっています。

 実施体制は、第1次からずいぶん変わりました。最も変わったのは、実施している機関です。もともとは国立の研究機関ばかりでしたが、現在は国の機関と独立行政法人、大学が実施しています。関係機関の連携を強化するために、測地学分科会地震部会の下に観測研究計画推進委員会をつくり、計画の推進と取りまとめをしています。また、大学の法人化に伴って連携と協力に関する協定を結びました。さらに平成18年度から地震予知と火山噴火予知の協議会が一つになりました。このように、いくつかの連携が進んだことが、第2次新計画のこれまでの重要なポイントです。

 起草委員も第1次とはだいぶ変わりました。第1次では8人のうちほとんどが大学の研究者でしたが、第2次では12人中、大学の研究者は5人で、産業総合技術研究所、海洋研究開発機構、国土地理院など、いろいろな機関の研究者が入っています。大学だけでなく、基礎研究や観測をつかさどる機関が全部一緒になってやろう、という体制ができてきたことが第2次新計画のもう一つの大きな特徴です。

第2次新計画の主要な成果

 第2次新計画において、どういう成果が得られてきたかについては、ご存知の方も多いと思うのですが、もう1回復習をします。

■アスペリティモデルの検証と

 地震発生の長期評価への貢献

 最大の成果は、アスペリティモデルの検証が進み、地震発生の長期評価への貢献がなされたことだと思います。プレート境界では、普段は固着しているアスペリティという部分と、普段からゆっくりすべっている部分があるというモデルが、ここ10年くらいでつくられてきました。このアスペリティモデルは、十勝沖地震や宮城県沖の地震の破壊過程を詳しく調べることによって、かなり明らかになってきました。十勝沖地震に関しては、2003年の地震と1952年の地震は、ほぼ誤差の範囲内で破壊した領域が一致しています。それに対して宮城県沖の場合、1978年の地震と2005年の地震では、破壊した領域は一致していません。宮城県沖の地震の震源域には三つのアスペリティがあり、1978年の地震では三つが連動して破壊したのに対して、2005年の地震ではそのうちの一つが壊れたという解釈がされています。

 2003年の十勝沖地震は、長期評価で想定された地震が起きたものでしたが、2005年の宮城県沖の地震は実は想定されていた地震ではなかったということになります。破壊過程についてのこの解釈が正しいどうかは、今後の地震の発生によって検証されるわけですが、長期評価への貢献という点で非常に大きな進歩でした。

■ゆっくりすべりの検出

 「ゆっくりすべり」あるいは「スロースリップ」と呼ばれる、地震を起こさないですべる現象がいろいろな方法で検出されてきました。一つは、十勝沖地震において、アフタースリップ(余効すべり)を起こす領域とアスペリティがすみ分けていることが、分かってきました。さらに、2003年十勝沖地震から2004年釧路沖地震にかけて、ゆっくりすべりが拡散していく様子が分かってきました。相似地震と呼ばれる地震によって、プレート境界でのゆっくりとしたすべりがモニターできるようになったことは、大きな成果でした。

 ゆっくりすべりが地震に向けてどうなっていくかについては、きちんと観測する必要があります。例えば、宮城県沖や東海、東南海、南海のように地震発生確率の高い地域においては観測を強化する必要があるという結論になっています。

■巨大地震発生サイクルの数値シミュレーション

 巨大地震発生サイクルのシミュレーションが可能になりました。シミュレーションといっても、完全に過去の地震発生パターンを再現したわけではなく、まだ地震発生パターンの“特徴”を再現したというレベルですが、これは重要な成果です。

 例えば、南海トラフ沿いでは、宝永、安政、昭和といろいろなパターンで地震が起きています。数値シミュレーションによって、宝永、安政、昭和それぞれのパターンの特徴を再現できるようになりました。

■低周波微動・地震とゆっくりすべり

 第2次新計画を始める時点では、プレート境界で起きる低周波微動が発見されていたものの、それが何か分からない状況でした。そして、きちんと調べてみるべきであるという提唱がなされました。これまでに、防災科学技術研究所を中心としたグループによって、長期的に起きるものと短期的に起きるものがあり、おそらくプレート境界の固着域の深部で発生している、というところまで分かってきました。同時に、低周波微動と地殻変動とが同期をすることも見えてきました。この5年ほどで、低周波微動がプレート間のすべり特性の分布とどう関係するか、プレート境界の出来事と関連付けて議論ができるようになってきたことは、大きな成果です。

 最近、カナダの西海岸やアラスカでも類似の現象が見つかってきました。プレート境界の固着とすべりに関して、日本が世界の研究をリードしているという意味でも、非常に重要な成果だと考えています。

■内陸における地震発生モデル

 ここまではずっとプレート境界の地震についてでしたが、内陸の地震に関しては、まだよく分からない状態です。それでも例えば、東北地方の脊梁山脈では、マントルの下部から上部へ非常に低速度の領域が伸びている様子がトモグラフィーによって見えています。それは、低比抵抗領域と一致します。地球深部から高温の物体が上昇してきて、深部流体を供給する。その結果として、地殻上部の固い部分が薄くなり、ここにひずみが集中し、その境界で地震が発生する。このような定性的なモデルができるようになってきています。

 それ以外にも、集中的な観測によって、地下構造と地震との関係がいろいろな場所で明らかになってきました。しかし、それが地震予知にどうつながっていくかは、まだ分からない状態です。今後は、応力がどのように集中していくかを実証的に詰め、物理モデルの構築につなげていくことが重要だと考えています。

現段階における地震予知研究の到達点

 次に、現段階における地震予知研究の到達点についてです(図2)。現段階では、地震発生直前に警報を出す直前予知は、想定東海地震を除き、一般には困難であろうと考えています。プレート境界型地震に関しては、シミュレーションがだいぶできるようになり、近い将来には物理モデルに基づいた予測ができる可能性が見えつつあるという印象を持っています。一方、内陸地震に関しては、まだ概念的なモデルができたに過ぎません。将来的にはプレート境界型地震、内陸地震ともに、物理モデルに基づく地震発生予測につなげていきたいと考えています。

図2:現段階における地震予知研究の到達点


第2次新計画、今後の展望

 最後に今後の展望です(図3)。基本方針は現在のものを踏襲し、「地震発生に至る地殻活動の理解、モデル化、モニタリングにより、“地震がいつ、どこで、どのように起きるか”を定量的に予測すること」を目指します。プレート境界地震に関してはアスペリティの実態解明と相互作用などが重要になってきます。内陸地震に関しては内陸ひずみ集中帯の解明と定量的なモデル化、地殻内流体の実態解明と変形機構のモデル化が重要です。さらに、地震発生確率の高い地域での観測を進めるべきです。また、今まで十分できていませんでしたが、前駆的すべりの検知についても考えなければなりません。そのほかには、大学の老朽設備の更新も重要です。

図3:地震予知のための新たな観測研究計画(第2次) 今後の展望


 地震予知に関しては、このような報告書を毎年書いています。それをずっと見ていて、この5年間で重要なものを、基本的には取り上げています。このレビューを読んでいただき、地震予知研究は今後どのような方向に進んでいくべきかの指標にしていただければと思います。

今月の話題

坂上実職員 第14回(2006年度)震災予防協会賞を受賞

地震火山災害部門の坂上実技術専門員が、第14回(2006年度)震災予防協会賞を受賞しました。受賞理由は、「強震観測を通した地震学・地震工学の研究支援に対する功績」です。

坂上氏は、35年間にわたり第一線の技術者として、強震観測器材の開発、観測点の設置、観測網の管理、技術者教育など、地震研究所の強震観測の推進に重要な役割を担ってきました。2007年2月2日、パシフィコ横浜で授賞式が行われ、(財)震災予防協会の伯野元彦理事長より協会賞(楯)が贈呈されました。

震災予防協会賞の贈呈を受ける坂上実氏(右)   鯰をモチーフにした震災予防協会賞の楯 

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