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2007年6月号

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 2004年に噴火した浅間山で地下構造の探査が行われました。
(写真:2004年11月24日撮影)

   目次

今月の話題 平成19年度共同利用テーマ
第850回地震研究所談話会 話題一覧
今月のピックアップ 「浅間山周辺の浅部地震波速度構造」

2006年10月、全国の大学と気象庁が協力し、浅間山で人工地震を用いた大規模な地下構造の探査を行いました。この結果、マグマの貫入した場所は地震波の速度が速いことなどがわかってきました。

お知らせ 地震研究所彙報掲載論文の著作権委譲のお願い

今月の話題

■ 平成19年度共同利用テーマ

 地震研究所は、東京大学附置の全国共同利用研究所として、地震・火山関連分野における共同研究や研究集会の実施を推進しています。平成19年度は、34件の共同研究と7件の研究集会が採択されています。具体的なプロジェクト名は、地震研究所ホームページの共同利用のコーナーをご覧ください(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/KYODO_RIYO/)。

特定共同研究(A)

地震予知、火山噴火予知計画等のプロジェクトへの、全国の研究者の参加支援

21件

特定共同研究(B)

全国的な規模のグループが実施する、 地震予知・噴火予知計画等の事業費に基づかないプロジェクトで、将来事業化を目指す計画

12件

特定共同研究(C)

地震研究所が特別に認めた、共同利用経費以外の資金によって運営される共同研究プロジェクト

 1件

研究集会

全国の研究者が地震・火山関連分野のテーマについて集中的に討議する研究会。開催場所は原則として地震研究所

7件

第850回地震研究所談話会(2007年5月25日)
話題一覧           ★は以下に詳しい内容を掲載

<通常講演>

 1.2006年浅間山構造探査 −概要および走時と振幅分布−

     浅間山構造探査グループ、宮町宏樹(鹿児島大)

★2.浅間山周辺の浅部地震波速度構造

     浅間山構造探査グループ、青木陽介

 3.浅間火山における高密度人工地震観測

     筒井智樹(秋田大学工学資源学部)、森田裕一・中田節也・小山悦郎・長田昇、
     佐藤正良(秋田大学資源工学部)、青木陽介

 4.浅間山で観測された長周期微動の非線形ダイナミクス
   − データから何が言えるか.−

     武尾 実

<H18年度所長裁量経費成果報告>

 5.ボアホール型折りたたみ振り子傾斜計の開発

     高森昭光・金沢敏彦・篠原雅尚・森田裕一

 6.「NECESSArray計画-中国大陸からみる地球内部ダイナミクス-」の推進

     川勝 均・飯高隆・本多了・竹内希・西田究・折橋裕二

 7.江ノ島津波観測点での津波の継続観測工作について

     都司嘉宣

浅間山周辺の浅部地震波速度構造

浅間山構造探査グループ、青木陽介

 2006年10月に実施した構造探査によって明らかになった、浅間山周辺の浅い部分の地震波速度構造についてお話しします。


2004年噴火、ダイク貫入域を推定

 浅間山は2004年9月、22年ぶりに噴火しました。そのときの地殻変動観測と地震の精密な震源決定から、マグマの供給系がある程度明らかになってきました(図1)。まず、山頂の西側、海面下約1km付近まで薄いシート状のマグマであるダイクが貫入。そして、火口直下まで水平移動。そこから真っすぐに上昇し、噴火に至った。マグマの通り道は、このように推定されています。 

 では、マグマの通り道と地下構造はどういう関係になっているのか。当然、そういう疑問が生じてきます。

図1.2004年の噴火活動前後の震源
   赤枠は、地殻変動観測から推定されたダイクの貫入域


2006年構造探査

 2006年、浅間山構造探査を行いました。構造探査では、発破により人工地震を発生させ、その地震波形を多数の地震計で観測します。地震波形を解析して速度構造を求めることによって、地下構造を推定することができます。今回は、S1〜S5の5ヶ所に深さ50〜60mの掘削孔を掘り、発破で人工地震を発生させました(図2)。2004年の噴火で推定されたダイクの貫入域を通って直交する東西測線と南北測線に沿って、地震計を設置。また、複雑な地下構造によって生じた散乱波をとらえ、より詳細な地下構造を明らかにするため、アレイもいくつか設置しました。

 この講演では、アレイのデータは使っている時間がありませんでしたので、南北測線と東西測線について初動走時(観測点に最も早く到達した地震波の到達時間)だけを使って求めた速度構造を示します。

図2.2006年浅間山構造探査

 図3は観測波形の例です。上段が南北測線、下段が東西測線です。南北測線ではS3付近、東西測線では山頂付近で地震波の減衰が顕著です。一方、S4とS5では、わりあい効きが良くなっています。このようにして、全測線にわたって初動走時を解析できるような波形が観測されました。

図3.観測波形の例


高速度領域はマグマ貫入域か

 このような観測で得た初動走時を使ってP波速度構造を求めた結果が図4です。初動走時から速度構造を求める方法としては、観測波形データと理論波形を直接比較するインバージョンにかけるのではなく、フォワードでトライアンドエラーによって速度構造を合わせていきました。左側が南北測線、右側が東西測線の結果です。上段は、初動走時の観測値(黒)と速度構造から計算して得られた値(赤)の比較です。0.2秒くらいずれているところもありますが、比較的合っていると思います。

図4.P波速度構造

 図4下段は波線密度です。白いところは波線がまったく通っていない、黒いところは波線が密であることを表しています。赤点は、地震波が通っていて速度が求まっているところです。南北測線では、海面下4kmくらいまで地震波が通っています。一方、東西測線は、南北測線と比べて距離も短いので地震波があまり深くまで潜らず、海面下2kmくらいまでしか通っていません。

 図4中段が速度構造です。赤が最も遅く秒速1.7km、青が最も速く秒速6kmです。南北測線では、S3辺りの速度が周りに比べて速いことが一番の特徴になっています。2004年の噴火のときにダイクが貫入した位置がS3の辺りです。つまり、ダイク貫入域は高速度領域であることを強く示唆しています。では、高速度を示すものは何か。地震波の速度は、熱く柔らかい場所は遅く、冷たく硬い場所は速くなります。ダイクが貫入してきて、固まって硬くなったあとが、高速度領域として表されていると考えられます。

 もう一つ分かるのは、速度構造は左右対称ではないということです。南側は比較的緩やかな構造をしていますが、北側は傾きが急です。今回はフォワードで解析しているので、どれくらい確からしいか数値で答えることはできません。しかし、解析している感触からすると、北側は急峻な速度の勾配をもっていると考えられます。

 東西測線では、推定ダイク貫入域はS3からS2です。その辺りは、東側と比べると相対的に速度が速くなっています。南北測線と同じように貫入したダイクが固まって硬くなったあとではないかと考えられます。

 このような火山の下の高速度領域は浅間山に特有なものではなく、ほかの火山でも見られます。例えば、イタリアのベスビオス火山では、山頂直下の地震が発生しているところに、周囲よりも高速度の領域が見られます(図5左上)。ハワイのキラウエア火山では、等高線で示されたP波速度の中で灰色の部分が、高速度領域です(図5左下)。日本でも、磐梯山の山頂の直下は、周りより高速度になっています(図5右上中段)。富士山でも、山頂の下が周りより明らかに高速度です(図5右下)。いずれの場合も、貫入したマグマが噴火しないで、そのまま冷えて固まったものではないかと考えられています。しかし、浅間山の場合、山頂直下が高速度領域になっているのではない、という違いがあります。

 もう一度繰り返しますが、浅間山の場合、山頂の直下は速度構造としては速いわけでもなく、特に特徴がありません。けれども観測波形を見ると、山頂を通った波は明らかに散乱したり減衰したりしています。山頂直下の構造が非常に不均質であることは確かです。おそらく、この辺りの不均質だと思われる構造は、比較的小さな構造ではないかと考えられます。一方、貫入しているダイクは、こういった解析でもひっかかるくらい、比較的大きな構造だと考えられます。

図5.ほかの火山の速度構造


重力異常と速度構造の比較

 図6は、ブーゲー重力異常を示しています。地下に不均質な物質が存在すると、地表で観測される重力がわずかに変化します。そのわずかな重力の変化を計測することで、地下の密度構造を推定できます。重力の実測値と参照値との差を「ブーゲー重力異常」といい、図6では、青が負の重力異常、赤が正の重力異常です。

 南北測線では、S3付近で重力異常が極大になっています。これは、S3直下の高速度層と調和的です。そのことから、S3付近の重力異常は、浅い構造によってコントロールされているのではないかと考えられます。

 東西測線では、山頂西側は速度構造と調和的です。しかし山頂東側は東へ向けて正の重力異常が見られ、速度構造とはまったく対応していません。浅間山の地下ではプレートが沈み込んでいるなど、いろいろありますから、この重力異常はもっと深部の構造が効いているのではないかと思われます。

図6.ブーゲー重力異常


抵抗構造との比較

 図7上は、南北測線の比抵抗構造です。比抵抗とは電気の通しやすさのことで、地下水や熱水があると、比抵抗は低くなります。図7では、赤が低比抵抗、青が高比抵抗です。速度構造に見られた急峻な速度勾配は、おそらく低比抵抗の層の端に当たります。低速度であり、低比抵抗である領域が何に対応するのかは、よく分かりません。浅間山の近くには温泉地もありますから、含水量が多いために低抵抗領域が現れているのではないかと考えています。低比抵抗でありながら高速度の領域もあります。これが何であるか、今のところアイデアはありませんが、これから考えていきたいと思っています。 

 図7下は、東西測線の比抵抗構造です。一番の特徴は、山頂直下のマグマの通り道と思われる領域は低比抵抗になっていることです。それに対して、速度構造は、あまり特徴がありません。先ほども言ったように、この辺りが構造的に不均質であることは間違いないが、あまり大きな構造ではなく、今回の解析での分解能以下のスケールの構造不均質である考えられます。

図7.比抵抗構造


まとめ

 マグマ供給系と地下構造との関係を明らかにするために、2006年10月に人工地震による構造探査を行いました。構造探査を行う前に地震・測地観測から推定されていたダイク貫入域は、高速度領域であると推定されました。そういう高速度領域は、一度の貫入・噴火では、できるわけがありません。マグマの供給路は、2004年の噴火だけでなく、過去の噴火でも繰り返し使われてきたことを示唆します。

 今後の展望としては、より洗練された初動走時解析を目指します。また、走時だけでなく、波形も使って、より高度で細かい分解能を追求したいと考えています。


質疑応答

Q1.南北測線と東西測線の速度構造が調和的でないように見えたのですが?

青木:交わるところが同じ速度でないといけないのですが、東西測線の方が速くなっています。南北測線、東西測線、それぞれ独立に解析しています。私の感覚では、東西の方が信頼性は高いと思います。南北測線と東西測線を合わせると、南北測線の北側にある崖のような速度ギャップが、もう少し急な形になるではないかと思っています。

Q2.高速度領域は、ほかの火山でも速度の絶対値のバリエーションがあり、同じではないのですか。

青木:浅間山の場合は、地震も地殻変動もすべてが浅く、周りの岩石の速度が遅いのです。だから,浅間山の場合、高速度領域の絶対値はほかの火山より遅くなっています。

Q3.効きが悪いという話がありましたが、地震源の周りの状態によるものか、それとも伝播による減衰なのでしょうか。

青木:大きな要素は、まわりの地質です。例えば、効きが悪かったのはS1です。 S1は、ローカルな原因がある。S2、S3は、広い意味での浅間山が広がっている部分で、地表面付近は柔らかいため、どこで打っても効きが悪かったのだと思います。

Q4.基本的には地震源からの影響が大きいのでしょうか。

青木:そうです。

Q5.ダイクが見えた、と結論していいのですか。

青木:そう思っています。



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平成19年6月1日
東京大学地震研究所所長
大久保 修平

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  ・地震研究所彙報    1926年〜2002年
  ・地震研究所彙報別冊 1934年〜1997年
  ・地震研究所彙報速報 1934年〜1974年

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