10.1 概要

本章では,外部評価で重点的評価を希望する項目を示す.

第2章で紹介した最近5年間における地震研究所の研究活動は,2009年に策定された研究に関する基本方針(SP2009)に沿って実施されてきたものであるが,5年間におけるこれらの成果や科学全般の進展,社会状況の変化,特に2011年の東北地方太平洋沖地震を踏まえると,現段階で,今後の研究の方向性を見直すことが合理的であると判断される.そこで,SP2009をレビューし,SP2009に新たな項目を追加するという形でサイエンスプランの改訂版(SP2009R)を作成した.10.2節では,SP2009Rの内容とそれを実施するための運営方針を示し,外部評価における重点評価項目の第1番目とする.

次に,10.3及び10.4節では,2010年の改組後に新たに設置された2つの研究組織の運営及び今後の方針を重点評価項目として示す.地震研究所では,東京大学本部の支援を受け,2010年には理学系研究科物理学専攻と連携して「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター」を設置し,また,2012年度には,2011年東日本大震災の発生を受け,巨大地震・津波の発生予測からそれが社会に与える影響までを総合的に取り扱う「巨大地震津波災害予測研究センター」を設置した.これらのセンターは,それぞれSP2009の5つの柱の(4)(5)の中に位置づけられる形で設置されたものであるが,同時に,地震研究所が理学全体を横断する,あるいは,理工学を連携させた新たな学術体系を構築してゆく上で,中核的役割を果たしてゆくものと考えている.「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター」の設置は,物理の基本原理に遡って新しい観測手法を開発し観測対象を広げてゆく事が,観測固体地球科学分野の学術体系の再構築に繋がり,地震・火山現象に関する先端的研究を推進する原動力となるという見通しに基づいている.一方,観測事実に基づいて理論モデルを定量的に検証するためには,現在急速に発展している最先端の計算科学と連携して,その成果を最大限に活用することが不可欠である.「巨大地震津波災害予測研究センター」は,地震火山研究における計算科学応用の突破口として,地震発生後の災害をシミュレーションによって予測する研究分野,データ同化によって観測結果とシミュレーションを統合する分野の強化を行うものである.なお,両センターの設置時期の違い(「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター は2010年度,「巨大地震津波災害予測研究センター は2012年度)を勘案し,「高エネルギー素粒子地球物理学研究センター については,これまでの研究実績に基づいてその学術としての将来性を,また「巨大地震津波災害予測研究センター については,東北地方太平洋沖地震を受けて策定したSP2009Rとの整合性を,重点評価項目としたい.