氏名藤井 敏嗣
職名教授
所属火山噴火予知研究推進センター
専門マグマ学,岩石学
URLhttp://www.eri.u-tokyo.ac.jp/fujii/index.html

最終更新日 08/29 2003

研究内容

これまで,洪水玄武岩マグマの成因および超高圧下における水の組成と物理的性質,特に移動度に着目してきた.デカン洪水玄武岩の岩石学的・地球化学的研究から地殻物質の混染を受けていないマグマの組成を推定したところ,このような組成のマグマはマントル物質の溶融でできる本源マグマから導くことが困難であることが分かった.さらに,海洋地殻物質とマントルペリドタイトの高圧下での溶融実験から,デカン洪水玄武岩の非混染マグマは3-5GPaの圧力下で玄武岩の大規模溶融によるマグマとペリドタイトの小規模溶 融によるマグマの混合によって生じうることが示された.このようなマグマ混合は沈み込んだ海洋地殻の破片を取り込んでマントル中を上昇する玄武岩-ペリドタイト複合プルームの融解により生じるというモデルを提唱し,洪水玄武岩の特徴をうまく説明することに成功した.超高圧実験により,マントル鉱物と共存する水は多量のシリケイト成分を溶解し,8GPaの圧力では70%以上も溶解することが明らかになった.したがって,地球内部の水は多量のシリケイトを溶け込ませた,いわば低温のマグマということになる.このような水が浅所に移動すれば,シリケイト成分の溶解度が減少するためマントル物質の分化が生じることになる.このような水の 移動度を調べるために,マントル物質に対する水の濡れ角を測定する高圧実験も行っている.その結果,低温・低圧では濡れ角が大きいため,水は結晶粒界にとどまってしまい,移動できないが,3GPa以上の圧力になると,濡れ角が小さくなって,結晶粒界の水は連結して移動しやすくなることが分かった.我々はこのようにマントル中での水の移動度が圧力によって変化するために,沈み込み帯における火山前線の位置と沈み込むスラブの深さの関係が決定されるというモデルを提唱している. 最近で,富士火山の研究に重点を置いている.富士火山が他の伊豆弧の火山のように安山岩質マグマを噴出することなく,玄武岩質マグマのみを10万年間噴出し続けている理由,1707年の宝永噴火がなぜあれほど爆発的であったかなどについて,新しい考えを提唱している.

主要論文・著書

Yasuda, A., T. Fujii and K. Kurita, Melting phase relations of an anhydrous mid-ocean ridge basalt from 3 to 20 Gpa: Impliations for the behavior of subducted ocean crust in the mantle, J. Geophys. Res., 99, 9401--9414, 1994.

Fujii, T. and S. Nakada, The 15-September 1991pyroclastic flows at Unzen Volcano (Japan): a flowing model., Journal of Volcanology and Geothermal Research, 89, 1/4, 159--172, 1999.

Sano, T., Fujii, T., Deshmukh, S.S., Fukuoka, T., & Aramaki, S., Differentiation processes of Deccan Trap basalts: Contribution from geochemistry and experimental petrology, Jour. Petrology, 42, 12, 2175--2195, 2001.

Mibe, K., Fujii, T., and Yasuda, A., Composition of aqueous fluid coexisting with mantle minerals at high pressure and its bearing on the differentiation of the Earth's mantle, Geochim. Cosmoshim. Acta, 66, 12, 2273--2285, 2002.

藤井敏嗣, 火山のもとーマグマのできかたー(山下輝夫編,大地の躍動をみる), 岩波書店, 2000.

藤井敏嗣, 地殻のつくり方(川勝 均編,地球のダイナミクスとトモグラフィー), 朝倉書店, 2002.