4-1.地震予知

 

最近の研究により,地震が発生する場所の特徴が次第に解明されてきている.特にプレート境界型地震に関する研究の進展はめざましく,大地震はアスペリティと呼ばれる固着度の強い領域が破壊することによって生じることが自然地震のデータ解析や実験,数値シミュレーションによって明らかになってきた.さらに,非常にゆっくりとした大規模なすべりがしばしば発生していることも判明してきた.ゆっくりとしたすべりはアスペリティに応力集中・蓄積をもたらすと考えられるため,このようなゆっくりすべりをモニターすることにより,アスペリティの破壊,すなわち地震の発生の予測がある程度できるようになると期待される.そのためにはまずアスペリティとゆっくりすべりの特性を明らかにする必要があり,そのための研究が精力的に続けられている.

 

4-1-1.三陸沖におけるプレート境界の形状・物性と震源過程の比較研究

 

 1996年の海域観測によって三陸沖の地震空白域(図1緑で囲ったの場所)を縦断する南北測線の下では海底下10kmにあるプレート境界からのP波反射強度が大きいことを見つけた. これが東西100kmにわたる沈み込むプレート境界に沿っての地震空白域全体にわたり成り立つことかどうかを明らかにするために,2001年三陸沖において海域観測を行った.その結果,図1の地震空白域全体にわたり強いPP反射波を観測した. 図2上図は反射走時補正記録断面であり,下図はその西20kmの測線上のものである.どちらの図にもプレート境界(0秒)付近に反射波が見られ,場所によって強度が変化している.反射強度は地震活動の低い場所で強く,北緯39度北側の地震活動の活発な領域で弱いことがわかった.この様な性質を作るもととして,プレート境界の物質とその物性が地震発生を支配している重要な要因であると考えられる.

1.1985年〜1998年のM>3,深さ<100kmの地震の震源と観測測線.緑の部分は地震空白域.

 

図2.測線3(図1の南北)とその西20kmの測線に沿った反射走時補正記録断面.縦軸は観測走時からプレート境界での反射波の走時を差し引いた走時.横軸は反射点の位置.

 

4-1-2.東海地域におけるプレート境界の解明

 

東海地域から南海トラフにかけては,フィリピン海プレートが年間数センチの速度でマントルに沈み込んでおり,歴史的に見てマグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生してきた地域である.そのため,この地域の地下構造をしらべることは,プレート境界の巨大地震発生のメカニズムを調べる上でひじょうに重要である.また,地殻構造や沈み込むフィリピン海プレートの形状を知ることは,地震発生モデルの数値シミュレーションを行う際にもひじょうに重要なデータとなる.これらのことから,全国の大学や官庁機関,海洋科学技術センターと共同で東海地震の想定震源域を含む東海地方から中部地域にかけて人工地震探査をおこなった(図3).

静岡県磐田市から富山県羽咋市に抜ける長さ261.6kmの測線で実験をおこなった.測線の中で6発の発破をおこない,391台の地震計をならべて観測をおこなった.この観測の目的は,島弧地殻の不均質構造の検出と沈み込むフィリピン海プレートの形状の解明である.

 測線上のいちばん南に位置する発破点の波形記録にひじょうに顕著な後続波が観測された.その後続波は,波線追跡法の解析により沈み込むフィリピン海プレート上面での反射波であることがわかった.その結果,東海地方下に沈み込むフィリピン海プレートの形状が明らかになった.また,初動に比べて反射波の振幅が大きく,地域によって違いがあることから,プレート境界の反射係数が大きく,場所によって違った値であることがわかる.今後,この反射係数の不均質構造について調べることにより,沈み込むフィリピン海プレートと擦れ合うマントルとの境界部の性質が明らかになっていくものと思われる.

3. 東海地震想定震源域(黒で囲まれた地域)と測線.

 

4-1-3.中部日本におけるプレートの収束と長期的な地殻変動

 

日本列島におけるGPS連続観測によって、中部日本でアムールプレートと北米プレートが年間約2cmの速度で衝突していることが明らかになった。短期的な弾性変形は海洋プレートの沈み込みによって支配されているが、長期的な変動は主としてこの島弧間の衝突によって担われているようである。我々は海洋プレートの沈み込みに伴う変動を、プレート間相対速度と熱データによって推定されたカップリング率とを使って先験的にモデル化し、それを差し引くことで、長期的な変動を抽出することができた。得られた変動場から、変動速度の変化が東経135度から137度にかけてみられ、比較的かたいブロックと歪を蓄積している地域とに分かれることがわかった(図4)。伊豆半島北西で見られる特徴的な圧縮変形は、おそらくは伊豆‐ボニン弧と本州との衝突によるものと考えられる。南海‐駿河トラフにおけるプレートの収束速度は、東部において有意に小さくなっていく(5)。これは、一部は島弧側のプレートがアムールプレートから北米プレートに遷移するためであろうし、また一部には伊豆マイクロプレートがフィリピン海プレートに対して動いているためでもあろう。このトラフ沿いの収束速度の差によって、東海地震の発生が懸念されている駿河とラフでプレート境界型地震の再来周期が長くなっているものと考えられる。

4GPS観測点における剛体プレート運動からのずれ.赤・緑・青の点はそれぞれGPS観測点の位置に対応しており、その観測点の長期的な変動に最もよく合うプレートを示している。鮮明な色ほど観測点速度のプレートの剛体運動からのずれが小さいことを表す(スケールに示した数字は、各プレートに対する速度を示す)。新潟‐神戸構造帯[Sagiya et al., 2000]を黄色い太い線で示した。

 

5.南海‐駿河トラフに沿う断層セグメントの中心におけるプレート収束速度。

 

4-1-4.アスペリティ分布と地震カップリング率の地域性

 

震源域の重なる三陸沖の再来地震(1968年十勝沖地震と1994年三陸はるか沖地震)について、地震波解析によってアスペリティ分布を調べたところ、恒常的なアスペリティの存在が確認されるとともに、そこでのサイスミックカップリング率がほぼ100%であること、複数のアスペリティが同時に動く場合と単独の場合があることなどがわかった(図6)。さらに、GPSデータの解析から、三陸はるか沖地震の余効すべりはアスペリティの中間で起こっていることがわかった。これに対し、三陸沖南部では、カップリングがほとんどないこと、宮城沖では約50%程度であるといった、カップリング率の地域性が認められた。アスペリティと非地震性すべり域の棲み分けについては、日向灘・豊後水道や東京湾・房総沖でも観測されている。

図6. 過去の地震記録を解析して得られた,三陸沖のアスペリティ分布.

 

4-1-5.プレート境界面での多様なすべり過程に関する数値シミュレーション

 

 大地震の震源過程の研究やGPSデータの解析などから,プレート境界面では,大地震を繰り返しおこすアスペリティ,大地震発生後に余効すべりをおこす領域,エピソディックな非地震性すべりをおこす領域などが棲み分けていることがわかってきた.このようなプレート境界面の複雑なすべり過程を理解するには,摩擦特性が不均一なプレート境界面における異なる摩擦特性をもつ領域間での相互作用を明らかにする必要がある.ここでは,岩石実験の結果から導かれた状態・速度依存摩擦構成則を利用した,地震発生サイクルの数値シミュレーションのふたつの例を紹介する.

 ふたつのブロックとドライバー,及びそのふたつのブロック間をバネで連結し,ドライバーをゆっくり動かしていく単純なモデルを考える.ひとつのブロックはアスペリティ的に振る舞うような摩擦パラメータ,もう一方のブロックは安定・不安定の境界付近の摩擦パラメータをもつとき,後者のブロックはエピソディックな非地震性すべりを起こす.動的すべりが起こって応力が低下した後,しばらくは固着しているが,応力が蓄積するとゆっくりすべり始め,そのすべり速度と応力は,ある平衡値の周りで周期的に変動する(図7).すべり速度が速いときがエピソディックな非地震性すべりに対応する.

 次に,より現実的な連続体モデルにおける,速度弱化の領域を2カ所断層面上に埋め込み一定のプレート相対運動速度で荷重した場合のシミュレーション結果を示す.図8にはプレート速度で規格化したすべり速度の空間分布を4つの異なる時刻について示している.たとえば,黄色はすべり速度1cm/day程度の非常にゆっくりしたすべり,赤はすべり速度1m/s程度の地震性の高速すべりを示す.2つの速度弱化パッチのうち1つで継続時間10日以上のゆっくりした非地震性すべりがおこり,これがもう1つのパッチに達したところで高速すべり(地震)が始まる.このようなモデルで,プレスリップ,余効すべり,エピソディックな非地震性すべり(スローイベント),遅れ破壊等,現実に観測されている多くの複雑なすべり過程を再現できる.シミュレーション結果と観測を比較することから,プレート境界面上の摩擦パラメターの空間分布を推定し,これに基づいて将来のすべりを予測することを目指している.

7.ふたつのブロックモデル(上図)によるシミュレーション結果.ブロック2の摩擦パラメータが安定・不安定境界近くのとき,間欠的非地震性すべりが生ずる.

 

8. プレート境界面のすべり過程のシミュレーション結果.プレート速度で規格化したすべり速度の空間分布を4つの異なる時刻について示す.

 

 

トップページへ戻る

次のページへ