短い噴火中に相当量のマグマが噴出するためには,噴火直前の火山の下に噴出マグマを溜めておく領域,つまり「マグマ溜まり」が存在していなければならないと考えられています.また,マグマ溜まり中の物理プロセス(例えば結晶化や地殻の溶融)が噴出するマグマの化学的性質に大きな影響を与えると考えられます.
マグマ溜まりでは,周囲に熱が逃げることによって冷却し,同時に結晶化や溶融のためにマグマの化学組成が変化します.熱膨張に伴う密度変化に加えて,化学組成が変わることによっても密度が変化するため,複雑な対流運動をすることが予想されます.最も典型的な場合には,マグマ溜まりの中で,上部に低温でSiO2が多いマグマ,下部で高温でSiO2が少ないマグマという成層構造を保持したまま対流運動をするという構造が形成されると考えられます.このように「化学成分」と「温度」の2つの効果によって生ずる対流の構造を「二重拡散対流層」と呼びます.
マグマ溜まり中の物理プロセスとマグマの化学的性質の関係についてもモデリングを行っています.具体的には,結晶化や溶融のような物理プロセスが,「二重拡散対流層」の性質にどのような影響を与えるのか?その際の熱輸送過程(つまりマグマ溜まりの冷却過程)はどうなっているのか?「二重拡散対流層」を形成しているマグマ溜まりが噴火した場合,噴出したマグマはどのような性質を持つことが予想されるのか?などという問題に1つ1つ答えることを目標としています.
また,噴火休止期間中も含めて常に火山の下にマグマ溜まりが存在しているかどうかについては,確かな証拠がありません.噴火の際にマグマ溜まり中のどの程度の割合のマグマが噴出するのか,マグマ固結するのに要する時間スケールと休止期間の関係はどうなっているのかを検討することによって,火山地下の描像を明らかにする必要があると考えています.