火山地下数十kmの深さのマントルが部分的に溶けることによってマグマが発生します.マントルがどの程度溶けるのかは,マントル物質の融点と地下の温度圧力の関係で決まります.一般にマントル物質の融点は圧力の減少とともに下がります.例えば,もしある温度を持ったマントルが上昇運動をしていると(もう少し専門的な言い方をすると「あるエントロピーをもったマントルが断熱的に上昇していると」),上昇に伴って圧力が下がり,マントルの温度が融点以上になり融解が始まる場合があります.また,マグマ発生の場の温度圧力条件は,生成されるマグマの化学組成と密接な関連があることがわかっています.以上のことからマグマの化学組成からマントルの運動を知る手掛かりを得ることができることがわかります.
マグマ発生の場におけるマントル,つまり部分的に溶けているマントルにおけるマグマの量は高々数%か多くても数十%です.地表で見られるような液体の多いマグマ生成するためには,なんらかの形で液体のマグマの部分が集まらなければなりません.ちょうど,湿ったスポンジから水が絞り出るような様式(浸透流)でマグマは移動し,液体の多い部分が集まるものと考えられます.また,周りのマントルに比べて温度が高い部分や液体マグマが比較的多い部分は,相対的に密度が小さくなります.そのため密度が小さい領域が一体となって長い時間をかけてゆっくり上昇するような運動(ダイアピル)もおこることが予想されます.
マグマの組成からマグマ発生の条件やマントルの運動様式を推定するためには,上に挙げたような様々な様式によるマグマの移動に伴って,マントルとマグマの間でどのような化学反応が進行するか理解しなければなりません.マントルやマグマの運動様式が,観測される火山の分布,噴出マグマの化学組成にどのような影響を与えるかをモデル化することが一つの課題であると考えています.