平成19 年(2007 年)新潟県中越沖地震の地質学的背景

 

東京大学地震研究所 地震予知研究推進センター 

佐藤 比呂志・加藤 直子

 

 日本海形成に伴って、新潟地域では2千万年から15百万年前に正断層運動を伴う大規模な堆積盆地が形成された鮮新世以降に短縮変形を被り逆断層や褶曲が形成されている。新潟堆積盆地は厚い新第三系が分布し、日本有数の油ガス田として多数のボーリング調査が行われ、厚さ6kmを越える新第三紀の堆積層が分布することが明らかにされている[1, 2]。地質学的には褶曲-逆断層帯を形成し、第四紀後期においても活発に地殻変動が進行してきた[3]。

 震源域では北東北-南西南方向の褶曲や逆断層が卓越し、越後平野西縁には活断層である長岡西縁断層帯[4]が分布する(1)。この断層帯は基本的には西傾斜の逆断層から形成されていると考えられている。

 震源域の地質断面図は、地表地質の他にボーリング調査や反射法地震探査のデータをもとに、5kmを越える深さまでの地下断面が描かれている(2; 1, 2])。大局的には、ほぼ海岸に平行する出雲崎から椎谷に至る丘陵の東部は、長岡平野西縁断層帯を含む、西傾斜の逆断層を基本として、西側が隆起した地質構造を示す。日本海側へは佐渡海盆にいたる陸棚斜面に、東傾斜の逆断層が記載されている[1, 2]。したがって、全体として海岸と平行に伸びる丘陵は、これらの西傾斜のやや高角度の断層と、海底下の東傾斜の逆断層によって隆起したポップ・アップ構造をなしている。

 
地震研究所の酒井慎一准教授が、既存の観測点のデータをもとに震源の再決定を行った[5]。図3には、震源域を北部と南部の二つの領域にわけてそれぞれの震源分布を表示した。さらに、それぞれの領域の地質断面図を重ねて示した。震源分布は全体として、東に傾斜した分布パターンを示しており、長岡平野西縁断層帯に直接連続する可能性は小さい。震源域南部の地質断面(3の中)では断面IIIの海域で数条の東傾斜の断層が表記されている[1]。余震分布から判断して、今回の地震の際に主として活動した断層は、これらの東傾斜の断層の下部延長になっている可能性が高い。北部のA-B余震分布断面では、深さ1220kmに高角西傾斜の余震配列も見られることから、西傾斜の断層がほぼ同時活動した可能性がある。これらは長岡平野西縁に分布する西傾斜の断層の深部延長に相当する可能性がある。

 今回の暫定的な余震分布に基づけば、本震は東傾斜の断層運動によって引き起こされた可能性が高く、この場合は活断層としてはマークされていない断層の深部延長が活動したことになる。現在、大学合同観測による余震観測が進行中であり、今後より詳細な震源断層の位置・形状が明らかにされると期待される。

 東傾斜、低角度の断層系の場合は、とくに日本海形成時に活動した痕跡が見いだされておらず、鮮新世以降の現在に近い圧縮応力状態で形成された可能性が大きい。かつての正断層の逆断層としての再活動によって発生した2004年中越地震に対して、中越沖地震は現在と異なる応力場で形成された断層の再活動はともなっていない可能性が高い。

 

文献

1]改訂版「日本の石油・天然ガス資源」編集委員会,1992,改訂版「日本の石油・天然ガス資源」,天然ガス鉱業界・大陸棚石油開発協会,520p.

2]新潟県,2000,新潟県地質図および同説明書(2000年版),新潟県,200p.

3]活断層研究会,1991,新編日本の活断層—分布図と資料,東京大学出版会,437p

4]地震調査推進本部・地震調査委員会,2004,長岡平野西縁断層帯の長期評価について,地震調査推進本部,24p.

5]東京大学地震研究所,2007平成19年新潟県中越沖地震の震源分布,地震調査委員会(070717)資料.