鹿磯海岸沿いの地表変位

門前町鹿磯地区の海岸沿いに僅かな右横ずれ変位を示す亀裂が生じています (図1)。この亀裂は、地滑りなど・液状化などの影響によらない可能性があ り、今後、地表地震断層の位置などについて判断する際の情報の一つになると 考えて報告しておきます。  周辺の平面図を示しました(図2)。道路の東方にそれと直交し雁行亀裂全 体としてN65E方向に伸びるが分布しています(写真1)。それぞれの亀裂によ る変位は僅かですが、これらの亀裂の配列パターンは右横ずれの水平運動によ って生じる割れ目です。この割れ目は西に向かって道路とぶつかり、道路のつ なぎ目に沿って、またあらたな割れ目を作って、道路を横切ります(写真 2)。アスファルト道路の亀裂に沿ったずれは最大4cmと僅かです。全体として も10cm程度以下の変位量と推定されます。  この割れ目は東方には、家にぶつかり直接の連続は不明です。ただ、さらに 東北方向の延長では、真覚寺の塀の破断、飛び石(写真3)、地滑りを伴う右 横ずれの亀裂、高い墓石の転倒などが見られます。墓石の中には墓石の中間部 のみがだるま落とし状に転落しているものがあり、この地域には強い加速度が 加わったことが推定されます。開口性の割れ目など、地滑りに起因するものも ありますが、地震時の大きな加速度を反映した現象も見られました。  
金沢大学の石渡教授は地震直後から震源地に入られ、門前町中野屋地区で南 上がりの隆起を伴う右横ずれの地表地震断層と考えられる断裂を報告されてい ます(3月28日付け北国新聞インターネット版)。
鹿磯地区の亀裂も、走向・ ずれのセンスなど大局的には、この断裂と一連の性質を有している可能性があ ります。  
今後、測地学的な検討結果(地震後の水準測量・合成開口レーダー)や反射 法などの地下構造探査・詳細な余震解析などの解析が進めば、これらの亀裂の 意味も明らかになると思います。なおこの亀裂群については、真覚寺周辺の地 滑りとの関連も否定できません。  
尚、これらの亀裂はすでに活断層として報告されているトレース上に出現し たものではありません。今回の能登半島地震は海域については、第四紀後期に 活動した断層の存在は知られており(片川ほか,2005)、これらの断層の深部 延長で発生した地震である可能性が高いと判断されますが、陸域については対 応する活断層が報告されていなかったことは事実です。ただし、仮に今回報告 されている断裂が地表地震断層であっても、こうした僅かな変位では変動地形 学的に認識できる地形表現として保存されるかどうかはかなり疑問です。今回 の地震は一般に地表に地震断層が現れる規模よりも小さいものです。

図1. 震源域の地図。鹿磯地区の亀裂と金沢大学能登地震断層調査グループに よる地震断層の位置。
図2. 鹿磯地区の拡大図。
写真1. 杉型の雁行亀裂。
写真2. 雁行亀裂の延長の道路の亀裂。
写真3. 「ざんげの碑」という石が台座に擦痕を残さずに落下。現地で、鹿嶋 建設小堀研究室の諸井孝文博士に指摘を受けました。

文献 片川秀基・浜田昌明・吉田 進・廉澤 宏・三橋 明・河野芳輝・衣笠善博, 2005, 能登半島西方海域の新第三紀〜第四紀地質構造形成,地学雑誌,114, 791-810.