１．事前準備
まずアップリンク・アクセス・テスト（以後UATと表す）の予定がついた時点で予約をしてください．方法はSNET群馬通信センター（以後SNETと表す）指定の各項目（すでにSNETからその旨のメールが届いているはずです）に内容を記入しSNETへメール（snet@senju.eri.u-tokyo.ac.jp）を送ります．項目は以下の4項目です．
��UATの予定日時：（例：2002/7/31 午後）
�▲▲奪廛螢鵐�ID：（例：TOUDAI-V01）
��設置場雎�F（例：長野県小諸市大字加増630-1）
�は⇒軅茵А蔑磧Щ疚勝�携帯等の現地での連絡電話番号）
するとSNETからその内容に応じた方位角（azimuth angle 以後az.と表す）・仰角（elevation angle：以後ele.と表す）・偏波角（polarization angle：以後pol.と表す）の各予測値とUAT時や運用時に設定する各送受信周波数値が返信されてきます．
２．VSATの組み立て
a.設置場所は静止衛星やGPSに支障がないような，できるだけ開空率の高い場所を選んでください．
b.使用工具
工具はレンチ（ラチェットやモンキーでも可）を多用します．サイズは10mm，11mm，13mm，14mm，19mm，24mmなどを使いますが，中でも19mmは反射板（レフレクター：以後レフと表す）の角度調整時に使いますので，図1の様なスパナとレンチが一体となったコンビネーションレンチがあると作業がしやすいと思います．また6角レンチも3mmと8mmを使用します．
c.基台
基台はできるだけフラットな場所に設置し，マストが垂直になるようにします．またカウンターウェイト式などを使用する場合は，重石や土嚢などでしっかりと固定してください．
d.組み立て
ァ．組み立ては取説通りに行ってください．取説の中のディテイルには使用するボルトやナット，ワッシャーの位置なども記載されています．
ィ．レフとのボルト等の締め付けは，レフが割れないように力加減に注意してください．またレフと金属板（マウント アッセンブリ）を固定する4本のボルトはレフ側のネジ山を潰さぬよう細心の注意を払って締めてください．
ゥ．当然ですが，反射面が南向きになるようにセットしていきます．
ェ．Lynx（またはCygnus）* をマストに取り付けるUボルトはマストの径によって末端が広がることがあります．留意してください．
*：LynxとはモデムとADCとコントローラーが一体となったVSATの本体名をさす．CygnusはLynxのニューモデル名で，ADCは独立してTridentと名乗る．
３．電源投入
Lynx（またはCygnus）の取説には「DC 11-16V，< 30watts」とあります．
小諸では出力電圧12-18V，出力電流4Aの直流定電圧モジュールを使用しています．
４．衛星捕捉
衛星補足はaz.とele.と pol.を調整して行います．
az.：その地点から見た衛星の方位を，真北を基準に時計回りの角度で表したもの．
ele.：その地点から見た衛星の高さを，水平を基準に上向きの角度で表したもの．
pol.：その地点から見た衛星のV偏波の傾きを，垂直を基準に時計回りをプラス，反時計回りをマイナスの角度で表したもの．
注）：UAT時にはaz. ele. pol.の値を聞かれますので，衛星捕捉後はそれぞれの角度をメモしておきます．
a.スペクトラムアナライザ（以後スペアナと表す）の接続
まず受信装置（LNB）とLynx（またはCygnus）間のケーブルに分配器を介して，分配器の入力を受信装置（LNB）へ，出力をそれぞれLynx（またはCygnus）とスペアナに接続します．
注）：順序が前後しますが，この作業は基本的にはLynxの電源を落として行ってください．そうでない場合はコネクタの接続には十分注意してください．
b. az.とele.の粗調
粗調段階ではまずN-STARb全体の中継器（トランスポンダ 以後トラポンと表す）を捉えます．スペアナは，中心周波数（CENTER）1.2GHz，スパン（SPAN）600〜800MHz，振幅スケール5db/divに設定します．掃引時間（SWP），分解能帯域幅（RBW），ビデオ帯域幅（VBW）はスペアナの性能差に応じて各々適当な設定値で行ってください．粗調はァ，ィの2通りを紹介します．
ァ．単純な方法として，お配りした日本各地（あるいはその場所に一番近い地名）のaz. ele. pol.表を参考にして，クリノメータやコンパスを使ってその角度にレフを固定する方法です．この時Nanometrics社製 VSATアンテナはオフセット方式のためele.は表の値よりマイナス18°程度に固定してください．調整後スペアナにN-STARbのトラポンが出ていれば成功です．ただしこの方法だとaz.は磁場の影響を受けることもあるので留意してください．
ィ．もう１つはレフを左右に振りながら探す方法です．まずele.はあらかじめ角度表を参考にして仮固定しておきます．次にaz.調整用ロッドにある2個の調整用ナットをレフが左右に十分振れるよう，できるだけロッドの両端に移動しておきます（写真1）．
それからレフを真西に向け，そこから東方にゆっくりとレフを戻しながらN-STARbのトラポンを探します．目標のN-STARbは西から4番目にある静止衛星ですので，4番目に現れたトラポンがN-STARbということになります．図2のN-STARbのトラポン波型を参照しながら同じ波型が確認できるまでこれを繰り返します．西から2番目にはJCSAT-3のトラポン（図3）があるので，それを利用して探すのもよいと思います．
トラポンの波型が不明瞭な場合は，スペアナのレファレンス・レベル（REF），振幅スケール，SPAN等を調整して見やすくしてください．
いずれもN-STARbのトラポンを捕らえたら，なるべくそのレベルが高くなった位置でレフの各可動部を仮固定します．
c. az.とele.の微調
微調時はN-STARbのビーコン信号を利用します．したがってスペアナの設定は中心周波数（CENTER）955MHz（実際はこれに11.3GHzプラスした12.255GHz），スパン（SPAN）8MHz付近にとりビーコン信号のみをモニターします．その他のパラメータは各々が見やすくなるよう適当に設定してください．
またピーク・サーチ（PK SRCH）機能を使って常にビーコン信号の最大値にマーカ（Marker）を置いておくと便利です（図4）．
次に写真1に示すaz.調整用の2個のナットを交互に締めたり緩めたりしてマーカ（Marker）の最高値を探します．一旦az.の最高値と思われる位置に固定したら次はele.を同様に調整します．
この一連の動作を2〜3回繰り返し，最終的にマーカ（Marker）の最高値を見出したらレフのすべての各可動部をしっかりと締め付けて終了です．
d．pol.の調整
pol.はアウト・ドア・ユニット（以後ODUと表す：写真2）を電波の軸を中心に回転させて調整します（ N-STARbには今のところ交差偏波は存在しないので，JCSAT-3のようにUAT時にクロス（XPD）を要求されることはありません）．
最初に写真2に示すODUの回転止め用ボルトと6角ネジを僅かに緩めておきます．調整方法は2通りあります．
ァ.1つは角度表に載っているpol.値やSNETから返信されたpol.予測値を参考にしてクリノメータなどで角度を決める方法．
ィ.もう１つは，スペアナで表示されている例えばビーコン信号を使い，まずビーコン信号が完全に消える位置（ヌル点）までODUを回転させ，そこから再び90°戻した位置でODUを固定する方法です．これは片偏波の衛星の場合のみに使います．
いずれの場合もpol.の調整が終わった時点で，緩めたボルトや6角ネジはしっかりと締め付けてください．
スペアナや分配器はこの時点で外し通常の接続状態に戻してもよいと思いますが，UATの状況次第では衛星の再補足を要求されたりトラポンの最大値を聞かれたりすることもあるので，この作業は最後にした方が賢明かもしれません．
５．UAT事前準備
UATを行う前にラップトップとLynx（またはCygnus）をイーサーネットでつなぎ LibraGUI を起動します．
Login: tech
Pass: nmx
Add: 10.100.0.139（Lynx139の場合）
次に少なくとも以下のどちらかのパネルでGPSを正常に受信しているか確認してからUATに移ってください．
ァ.Operation → Environment で Tx. Freq. Calibration がグリーンになっているか（図5）．基本的に Environment の Instrument SOH はすべての項目がグリーン表示になっていなければそのVSATは正常ではないということです．
ィ.Operation → GPS で System Internal Clock の Phase lock が FINE_LOCK になっているか（図6）．これを確認しないでUATを行うと送出周波数にずれが生じる場合があるようです．
６．UAT
UATは必ず海洋電子（KDK）が作成した「LYNX UAT手順」に従って行ってください．そでないと他の衛星に悪影響を与える電波が発射される可能性があります．
UATの管理はSNETが行っていますので，現地での連絡は各々SNETへ電話（0279-54-8871）してその指示に従ってください．その際SNETからはアップリンクID，設置場所，天候，携帯番号，衛星捕捉方法，az. ele. pol.の各角度等を確認してきます．
衛星捕捉方法の返答例としては，「スペアナを使用してN-STARbのトラポンを確認し，そのビーコン信号の最大値でレフを固定した．ODUはヌル点から90°戻して固定した．」などがあります．
UATの開始時刻，その時の天候， SNETの担当者等は各自メモ書きしておき，SNETから指定された運用レベル値（dBW）は必ず書き残しておいてください．
７．通常運用状態
「Lynx UAT 手順」が終了したら，小諸HUB局（tel:0267-22-0867 携帯:090-3239-8937 htsuji@eri.u-tokyo.ac.jp）へ指定された運用レベル値（dBW）を報告してください．
最後に送信装置（SSPB）と受信装置（LNB）のコネクタ部を融着テープ等でしっかりと防水処置してください．特にSSPBのコネクタから水が浸入すると送出ゲインの低下を招きます．更にフィード・ホーンのテフロンシートを鳥から守るために回りに竹串を数本挿しておいてください（写真2）．散らばって弛んでいるケーブル類もロックタイなどでアンテナのロッドに束ねておくとよいと思います．ただし，ケーブルには高周波が流れているので折り曲げには注意してください．
以上で完了です．
設置やUATで不明な点や質問，意見等がございましたら遠慮なく連絡してください．
2002 7/17（改訂版2002 9/25）
東京大学地震研究所 辻 浩