最近の成果

ここでは、最近の研究成果をイラストとともに紹介しています。 より詳しい研究成果や報告書、過去の計画の成果などはこちらをご覧下さい
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令和3年度の成果

これらの図は下記の報告書に掲載されているものです。


【能登半島北東部の群発地震活動と地殻変動】
能登半島(石川県)の北東部端では、2020年12月頃から地震活動が急激に活発化し(右上)、震源域周辺を中心とする放射状の水平変動(左)と、隆起(右下)が見られた。この活動の変動源の解明は、今後の課題である。

【福徳岡ノ場の火山活動と軽石の生成】
a) 福徳岡ノ場の位置 b) 海上保安庁により2021年8月13日15時に撮影された噴煙柱の様子。c) 気象衛星ひまわりの画像による、漂流軽石の分布。d) 噴火最盛期の模式図。水に富んだ噴煙柱の崩壊により火口近傍で火砕物密度流が発生するとともに、低密度火砕物の集積が急速に進み、漂流軽石が大量に生じた(Maeno et al., under revisionに加筆・修正)。

【2022年トンガ噴火による津波解析】
2022年1月15日のトンガの海底火山フンガトンガ・フンガハアパイでの大規模な爆発的噴火による津波の解析。日本海溝沿いの海底に設置されている圧力計の観測網(S-net)により記録された、海面変動に起因する水圧変動(右黒線)とモデル結果(右赤線および左)を示す。左図は、右図の緑線の時刻の海面変動を示す。右図の観測点は、左図の9つの赤丸の位置に対応する(Tanioka et al., 2022に加筆・修正)。

【東北地方における地震・津波・火山情報に関する歴史資料の所在調査とデータ収集】
文化元年(1804年)象潟地震について、由利郡関村(現在のにかほ市象潟町関地区)に伝来する古文書・古地図を解読し、詳細な被害状況について調査した。象潟地震における関村の家屋被害について記した『当六月四日之夜大地震ニ付潰家死人馬書上帳控』では、当初は「潰家」「大痛」と判定されていたものが、後に「潰家」「大痛」「中痛」と評価が細分化されて判定されており、これらを含めて計算すると関村の家屋被害率は80%を超えることが確認された。また、古絵図から当時の関村の家屋配置、歴史地形を復元し、 関地区では津波が集落に到着した可能性は低い一方で、地震動による家屋倒壊や耕作地の被害が大きいことが確認された。

【衛星赤外画像による西之島火山の観測】
ひまわり8号の赤外画像による熱異常観測とALOS-2画像から判読した2019-2020年の西之島の噴火状況の推移(上)から推定された噴火様式の時間変化のモデル(下)。この期間の高い平均噴出率、ドラスティックな活動変化、激しい溶岩噴泉による火砕丘の急成長は、ステージ2において、ガス成分に富むマグマが火道浅部に達するようになったため、活発な噴泉活動が起き、同時に蓄えられていたマグマが連鎖的に発泡して噴泉として短期間で大量に放出されたとするモデルで説明することができる(Kaneko et al., 2022に加筆・修正)。

【2016年鳥取県中部地震前の断層周辺の応力状態の推定】
2016年鳥取県中部の地震について、地震前の差応力分布を応力逆解析の結果をもとに推定した。その結果、断層走向に沿う断層両端(右上)と、断層南端付近における断層下端(右下)で差応力が小さくなることがわかった。差応力の小さい領域は、左の模式図に示すように、地震時の大滑り域の端に対応する。差応力の計算値である。

【箱根火山下へのマグマ供給過程】
箱根火山下のS波速度構造と地震や深部低周波地震の活動・圧力源の推定(左)とそこから推定された、箱根火山下でのマグマ供給過程を示す模式図(右)。深部からのマグマ供給に伴い深さ20 km付近で深部低周波地震が活発化する。流体は、より浅部の深さ9 km付近のマグマ溜まりに蓄積する。マグマ溜まりから放出された流体が更に浅部に移動し、群発地震や地殻変動などを引き起こす (Yukutake et al., 2021に加筆・修正)。

【地震発生予測のための島弧-海溝システムの観測-モデリング統合研究】
東北地方の内陸の活断層での地震の起こりやすさについて、プレート境界での固着や東北沖地震の余効変動によるクーロン応力変化(ΔCFS)の影響を調べた。図中の矩形は活断層の幾何学的形状で、黒い太線は断層の上端を表す(右上図)。活断層のカラーはΔCFSの値を示しており、ΔCFS > 0(暖色系)は地震の発生を促進ΔCFS < 0(寒色系)は地震の発生を抑制することを意味する。東北沖地震前は、宮城県沖を中心とするプレート境界での強い固着により、東北地方中部からその日本海側について地震発生を促進させる応力変化が起きていたことがわかった(左下)。一方、東北沖地震後は、東北地方の広い範囲で地震を抑制する応力変化があった(中)。この傾向は、東北沖地震から30年後も残るが、千島海溝での固着の影響で青森県周辺の活断層では地震を促進する応力変化に転ずる場所もある。

【日本海溝地域の地震テクトニクスと地震発生予測】
微動やVLF(超低周波地震)などのスロー地震(左)、群発地震(中)およびプレート上面付近のP波速度異常(右)とMaeda(1996)による前震を識別する方法が的中する場所(主に図中の3つの矩形領域)の関係。前震の識別が成功する場所の特徴として、スロー地震発生域の付近、群発地震が活発なところ、プレート上面の低速度異常域の縁付近という特徴があることがわかった(Hirose et al., 2021に加筆・修正)。

【南海トラフ沿い地震における津波の不確実性の評価】
想定南海トラフ巨大地震についての2つの津波モデルによる津波高の特性を比較した。全シナリオ中の平均的な津波高(横棒)は、外洋に面した高知県沿岸などについては確率津波モデルの方が大きい(左上)が、大阪湾湾奥部では中央防災会議モデルの津波高さが相対的に高い(右上)傾向にあった。この傾向の差異は、評価地点に対する支配的な断層領域の平均滑り量で説明できることがわかった。この結果は、断層滑りの深さ方向の多様性が津波高の不確実性の大きな要因となりうることを示している。(上図)箱ひげの範囲は確率津波モデルの200ケースの範囲を表し、箱の下端・丸・上端はそれぞれ第一・第二・第三四分位数を示す。(下図)津波高の計算をした地点が赤丸で示されている(宮下・他, 2021をもとに作成)。

【災害情報が被害の発生抑止・軽減に資する過程の研究】
災害情報が緊急時避難意思決定に結びつく心理過程の仮説と実験デザイン(上)と準備実験web調査の結果(下)。健康教育(喫煙・反薬物)の分野で提唱されている、(問題の)自己関連性と(向健康行動の)自己効力感が向健康行動意思に結びつくという2経路モデルを災害情報活用の文脈に援用可能と考え、実験デザインをおこなった。今回この実験の準備実験として、動画視聴は行わず、主観的な津波発生リスクの程度が異なる架空の地震遭遇シナリオを数多く用意し、避難意思決定課題(避難する/しない)を行わせ、その避難率を評価した。下図左の横軸はシナリオの避難率であり、縦軸は解釈安定性である。この解釈安定性は、あるシナリオの相対的リスク評価が回答者間でより安定している場合に大きくなる。下図右の横軸は回答者の避難率を、縦軸は解釈一貫性を表している。解釈安定性はリスクに応じた意思決定をしている場合に大きくなる。下図右からは、解釈一貫性には男女差がみられないこと、緑線より上の誠実な回答者群とt=0付近に固まる不誠実回答者群の大きく二つに分かれることが明らかになった。以上のことから、実際の実験に用いるシナリオの選定や調査の精度の推定に役立つ結果を得た(下図)。

【民間GNSS観測網を活用した高密度地殻変動分布】
民間GNSS観測網を用いて推定された宮城県周辺の約半年間の地殻変動。民間会社(ソフトバンク株式会社)の独自GNSS観測網を初めて地殻変動場の把握に用い、同観測網データの地殻変動解析への応用可能性を検証した。国土地理院GEONETおよび民間GNSS観測網による変位場は基本的に整合的であり、民間GNSS観測点によってこれまでにない高密度の観測による地殻変動場の議論が可能であることが示された。左図は水平変位、右図は上下変位を示し、丸および細線で推定誤差を示す(Ohta and Ohzono, 2022に加筆・修正)。