地震・火山噴火現象に関係する過去の事象を分析・理解し,現在の状況の把握,ならびに将来の活動推移の予測に資するために,史料,考古資料,地形・地質の調査等から得られた情報を活用する。現存する膨大な史料の中から地震・火山活動関連史料を収集し,文献としての信頼性を評価しつつ整理し,信頼性の情報が付与された史料データベースを構築する。考古情報については,これまでに公開されている10万冊以上に及ぶ遺跡発掘の調査報告書から,地震・火山現象に関連する遺物や液状化等の災害痕跡などの資料を収集し,データベース化を継続する。地形・地質情報については,活断層の位置,形状,変位速度及び構造発達過程などの基本属性に関する情報を取得し,過去の活動履歴,地震規模及び断層の連続性を解明する。また,地震・津波に伴う地形・地質学的痕跡を調査し,データの収集・整理・解析手法の高度化を行う。火山噴火に関しては,地形・地質調査により活動的火山の噴火堆積物等の基礎データを蓄積するとともに,海底火山や海洋底の調査も行い,地質・岩石学的データを収集・整理する。さらに,これらの地形・地質情報を史料や考古資料のデータベースからも参照可能にすることで,分野融合的な分析を促進する。
○大学は,地震・火山関連史料集のデータベースを拡充する。史料に現れる地名に位置情報を与えて視認性や利便性を向上させ,考古学,地質学,地形学など関連分野のデータ及びデータベースとの統合や連携を図る。また,既刊の地震史料集に収録されていない地震・火山関連史料を収集・追加する。データベース化にあたっては校訂作業や再評価を行い,史料の信頼性に関する情報を付与する。これらに基づき歴史地震・火山噴火カタログを改善する。
○大学は,これまで主に用いられてきた文書や日記のほか,年代記など多様な史料に注目し,災害史料学の視点で分析する。分析にあたっては,地震・火山噴火の直接記録だけでなく,地形・天候などの環境情報も収集し,複合災害の発生メカニズムの解明につなげる。
○大学は,現代とは異なる社会状況の下で発生した災害のなかでの人々の行動や復興などに関する検討を進める。
○大学は,過去に同じ地域で繰り返し発生した巨大地震の相違点を明確にし,その地震像解明を目指す。また,史料表現の定量化・数値化の手法を改善し,大地震や中小地震も含めた歴史地震カタログの作成に取り組み,歴史上の地震活動の時空間分布を明らかにする。
○奈良文化財研究所は,「歴史災害痕跡データベース」を拡充するため,考古資料及び歴史資料,地質資料に記録される災害痕跡や地形・地質構造について分類・整理し,データの入力方法の改善によって資料登録件数を大幅に増やす。これらにより,過去の地形と災害を対比検討し,災害発生機構を分析することのできるデータベースを構築する。
○大学は,日本列島を高精度でカバーする活断層の統合トレースデータを作成・公開し,順次更新する。活断層の変位様式・活動性などのメタデータの付加など将来のデータベース拡充に向けた検討を行う。未知の活断層の抽出を含むトレースデータの更新及び活動性の解明に向けた手法開発にも取り組む。また,南海トラフ周辺海域などを対象に,主に海底地形に基づいて海底活断層の分布と変位様式を解明する。
○大学及び海洋研究開発機構,産業技術総合研究所は,津波堆積物の調査を通じて津波堆積物の認定・対比手法の確立や,年代決定手法の改良を進め,過去の地殻変動の調査,及び関連する史料の調査と合わせ,津波をもたらしたプレート境界巨大地震及び日本海の大地震の発生履歴とその規模の解明を進める。同時に,既存の津波堆積物データの再検討に加え,国内外での堆積物調査を実施する。
○産業技術総合研究所は,津波による浸水履歴情報や活断層データベースを整備・更新する。また,国内外での活断層調査から,地震時変位量等に基づき過去の連動型地震を復元する手法を改良し,さらに発展させる。
○産業技術総合研究所は,火山活動の評価と予測のための基礎データとして,日本列島の活動的火山の噴火履歴を調査し火山地質図の整備を進める。高分解能の噴火履歴情報を得るために,新しい火山噴出物に対する効率的かつ高精度な年代測定手法を開発する。
○大学は,前近代の古絵図や古地図を整理し,これらに基づいて過去の地形の復元を進め,災害の発生状況をより詳細に解明する。現在の災害において過去の地形がどのように影響を及ぼすかを解明するとともに,将来の災害の可能性や,その危険性を周知するための手法も検討する。
歴史地震研究や史料に基づく火山噴火研究の成果と,考古学・地形学・地質学や地震学・火山学の最新の知見とを総合的に分析することによって,歴史上の地震・火山噴火現象の規模・発生場所や発生履歴を高精度で推定する。国内外の地震について機器による観測データを解析し,その特徴を手がかりに地震像や発生機構の理解を進める。特に,千島海溝や日本海溝,伊豆・小笠原海溝,南海トラフ,琉球海溝沿いの巨大地震に関する研究を優先的に実施する。カルデラ噴火も対象とし,地質学・岩石鉱物学及び年代学的手法を駆使して,活動的火山の噴火履歴・推移及びマグマ供給系の進化過程を高い時空間解像度で明らかにする。
○大学は,史料から得られる地震・火山噴火やそれらに伴う地形変化などの情報を軸に,関連分野の情報や最新の知見を取り入れて総合的に分析し,歴史上の巨大地震・大地震や火山活動の詳細かつ高精度での把握を目指すとともに,地域の災害史など長期的な視点での分析を行う。また,南海トラフ沿いや西南日本の内陸部など,過去に繰り返し大規模な地震や津波が発生した地域について,海外の史料を含めた新資料の発掘にも努める。
○大学及び産業技術総合研究所は,日本列島周辺の海溝沿いで発生する低頻度かつ大規模な地震について,津波堆積物や海岸地形などの地質学的調査により,発生履歴や過去の地殻変動,津波波源,メカニズムを解明する。
○大学及び防災科学技術研究所は,巨大地震の発生メカニズムの解明や発生予測に資するために,千島海溝,日本海溝,伊豆・小笠原海溝,南海トラフ,琉球海溝等における地震活動や震源過程,海底地殻変動等を調査する。
○大学及び産業技術総合研究所は,十和田,阿蘇,姶良等のカルデラ火山を対象として,中長期的なマグマ供給系の進化過程を明らかにするための物質科学的研究を行う。特に,十和田等においては放射非平衡分析を軸とした解析を進め,VEI6から7クラスの巨大噴火をもたらした珪長質マグマ供給系が再活性化する要因や,次の巨大噴火に向けた現在の準備状況を明らかにする。
先進的な地球物理学的観測,データ解析,モデリングによって,プレート境界における詳細なひずみと応力の蓄積・解放過程を把握し,プレート境界地震とその発生場に関する理解をさらに深める。また,地震発生サイクルにおける種々の現象を定量的に説明できる物理モデルを構築する。さらに,内陸地震断層及びプレート境界について,野外観察,室内実験,理論,シミュレーション等による研究を通じて,脆性—塑性遷移領域における変形の不均質性の解明や摩擦構成則の構築と地震発生過程の物理的理解を進める。
○大学は,日本海溝沿いなどにおいてGNSS-A観測などによる海底地殻変動観測を行う。さらに,繰り返し地震と海陸測地観測データも加えた断層すべりのモデリングによって,プレート境界の詳細なすべりの時空間発展を把握するとともに,
東北地方太平洋沖地震後の回復過程を明らかにする。
○大学は,変形・摩擦実験,脆性—塑性遷移実験等に基づいて,地殻及びマントルのレオロジーやプレート境界深部の摩擦構成則の解明,脆性—塑性をつなぐ構成則の構築に取り組み,断層の様々な深度における素過程の基礎的理解を進める。
○産業技術総合研究所は,地質調査に基づいて内陸活断層深部の脆性—塑性遷移領域付近における変形の不均質性を明らかにするとともに,岩石変形実験に基づいて断層帯内部における構造の形成・発展や力学的挙動を明らかにし,断層帯深部における変形の不均質性が断層の挙動に及ぼす影響を解明する。
○大学は,熱・流体・空隙・すべりが相互作用する断層運動について,化学分析,変形実験,理論解析に基づいたモデル化を行う。また,粘弾性や熱弾性を考慮した断層すべりのシミュレーション手法を高度化する。これにより,地震発生過程の理解を進め,地震発生サイクルの中での様々な地震活動の推移を統一的に説明するモデルの構築を目指す。
○大学は,断層すべりのモデル計算に必要な空間解像度を明らかにするために,観測の解像度よりも細かな不均質構造がすべり挙動に及ぼす影響を系統的な数値実験で調べ,断層すべりをマクロな摩擦法則を用いて粗視化できる条件を解明する。
火山活動・噴火を定量的に把握しモデル化を進めるために,地球物理学・地球化学・物質科学を総合した多項目の観測・調査・分析を行う。これらの多項目データの統合的解析を通じて火山活動と噴火のメカニズムの解明を目指す。また, マグマの流動・破砕・脱ガス・結晶化などの素過程の実験研究や数理モデルによる理論解析を行い,火道内のマグマの振る舞いから噴火様式の分岐条件を推定する。観測データを統合して火山活動度を定量的に評価する手法の高度化を進める一方,既存データの再整理にも取り組む。
○大学は,霧島山,阿蘇山,浅間山,伊豆大島,弥陀ヶ原,十勝岳,吾妻山等,海域を含む国内外の活動的火山を対象に,無人航空機や人工衛星の利用も含む多項目観測を行い,噴火前から噴火終息後まで一連の火山活動の推移把握に努める。
○防災科学技術研究所は,基盤的観測網やリモートセンシング技術等による多項目の火山観測データを活用し,火山現象の発生機構の解明や火山災害を把握するための研究開発を進める。また,既存の観測網を補完する機動的な調査観測を行うほか,火山ガスや火山灰等の遠隔分析技術の開発を通じて火山現象の定量化を図る。さらに,室内実験や数値計算に基づいた物理モデルによる火山活動及び火山災害の予測支援技術の開発にも取り組む。
○大学は,噴火発生の即時検知や機械学習を用いた地震タイプのリアルタイム分類の手法開発に取り組む。また,観測データに基づく火山活動の定量評価指標を試作し,多項目のモニタリングデータに適用する。
○大学は,将来の火山モニタリングの高度化に資する研究として,海域火山活動の変色海水の観測や土壌ラドン濃度連続観測システムの開発に取り組む。
○大学及び産業技術総合研究所は,桜島,阿蘇山,霧島山,有珠山等から,様々な噴火様式の火山噴出物を採取し,種々の岩石学的解析を行う。揮発性成分の分析,減圧実験や高温高圧実験なども行い,爆発的噴火の強度や様式の変化を支配する要因を明らかにする。新たな揮発性成分分析手法の開発や既存手法の高度化にも取り組む。
○海洋研究開発機構は,無人自動観測システムと海底観測機器を組み合わせた海域火山観測システムの開発を行う。また,主に伊豆・小笠原海域を対象とした構造探査,火山体の海底調査,岩石試料の採取を行い,海底火山活動の現状把握とマグマや流体の生成から噴火に至る過程と様式の理解を深める。
○産業技術総合研究所は,活動的な火山において火山ガスの放出率と組成の観測・分析を行い,観測の高頻度化にも取り組む。大量の火山ガス放出を継続している火山については,噴火様式の支配要因の一つである火山ガス放出過程のモデル化を行う。また,地下浅部に熱水系が卓越する火山については,熱水系とマグマ性ガスの相互作用を明らかにする。
○北海道立総合研究機構は,北海道内の火山において,火山活動の現況把握を行うために,温泉水や噴気の温度や化学成分,同位体比等の観測を継続的に行う。また,観測結果に加えて,火山体の熱水変質状況などを踏まえて熱水系のモデルを検討し,各火山における適切な観測体制を構築する。
地質学的環境の特性に応じて,プレート境界域と海洋プレート内部,大陸プレート内の地震発生域,火山地域に対象を分けて,震源分布・構造・応力場・ひずみ場・物質分布等を,観測,調査,データ解析,室内・数値実験などから明らかにする。プレートの沈み込み帯については,プレート境界すべりの時空間分布を詳細に解明することで,多様なすべり現象の条件・要因について理解を深める。また,内陸域では,地殻内応力や地震活動と地下構造との関係や,応力と断層強度の時間変化に着目した研究を行う。火山周辺地域については,多様な観測データの解析と物質科学的研究,水文学的シミュレーションなどを総合し,熱水系及び火山性流体・マグマの供給系の概念モデルの精緻化や定量化を目指す。
その一方で,地震発生の数値シミュレーション,強震動の事前評価・即時予測手法の高度化などへの活用を念頭に,海域から陸域までを包括した標準的な構造共通モデルや,コミュニティ断層モデルの整備にも取り組む。
○海洋研究開発機構は,海底下の地震活動の現状把握と実態解明のために,広域観測データをリアルタイムで取得する海底地殻変動・地震活動観測技術システムを開発し,3次元地殻構造や地殻活動,断層物性,地震活動履歴等に係る調査を行う。
○大学及び海洋研究開発機構は,日本及び海外の沈み込み帯における海域の地震・地殻変動観測を行い,プレート境界すべりの時空間分布を解明するとともに,地震活動や地震学的構造変化との関係を考察する。加えて,海底掘削試料に基づく摩擦実験から,多様なすべり現象の要因を明らかにする。
○大学は,海底地質学,地球物理学,地球化学などの分野横断的アプローチにより,巨大地震を引き起こす海底活断層の構造や物性を解明するとともに断層の地震性すべりに影響する流体のモニタリングを行う。
○大学は,スラブ内地震の発生機構を解明するため,陸域下の二重深発地震面での地震活動を精査しエネルギー収支を見積もるとともに,沈み込んだ後にスラブ内地震の発生場となるアウターライズ断層の活動様式と含水化の関わりを明らかにする。また,岩石変形実験により,スラブ内部で起こる断層形成機構を明らかにする。
○大学は,日本海溝沈み込み帯周辺において海域及び陸域観測網のデータを活用した広域かつ高分解能の構造解析を行い,浅部から深部までの構造不均質の全体像を明らかにし,日本海溝沈み込み帯の地震発生場及び内部変形過程を解明する。
○大学は,広域的な外力応答も含めた全球的な変形及び重力場の変化を計算可能にする,新たな球体地球モデルを開発し,海底地殻変動観測や,先進的手法による重力変化の観測などで得られるデータに適用することで,地震発生サイクルモデルの高度化に貢献することを目指す。さらに,GNSS観測結果から海洋変動等による荷重変形を除去する手法を開発し,ゆっくりすべりの検出手法を高度化する。
○防災科学技術研究所は,国内外の観測データから,通常の地震ならびにスロー地震の検出,震源決定,発震機構解・断層モデル等の推定を自動的かつ高精度に実施するための手法の開発・高度化を行う。モニタリングデータに基づいて地震カタログを作成するとともに,得られたカタログについて,地震発生モデル構築及び数値シミュレーションを行う。
○大学は,断層帯強度不均質の実態を把握し,大地震の空間的な発生ポテンシャル評価を目指すために,稠密な地震・電磁気・GNSS観測を行う。また,比抵抗や地震波速度等の地下構造と,すべり分布や震源分布等との比較により,過去に発生した大規模な内陸地震について,地下構造と破壊との関係を明らかにする。
○大学は,東北地方北部から北海道南部を主対象に,海陸の地震観測網のデータを統合する信号処理技術に基づき,浅部地下構造の推定と波形特徴抽出技術の構築を行い,地震発生場の解明を進める。
○大学及び産業技術総合研究所は,地震データを用いた応力逆解析により,日本列島全域のテクトニックな応力場及びその時間変化を明らかにする。数値シミュレーションを併用して地震の最大規模評価や活動性評価手法を開発するほか,前震−本震−余震型や群発地震型などのクラスタ地震の発生における応力と間隙流体圧との関係を調べる。群発地震については,高密度な地震観測と地下構造探査に基づき,対象地域内の断層分布や地殻内流体の分布・存在形態の解明を通じて,活動の推移予測モデルを構築する。
○大学は,日本及び海外の沈み込み帯で地震観測を行い,プレートの沈み込みや衝突による地殻・上部マントル構造の発達過程とその周辺で発生する地震の発生機構を調べる。
○大学は,強震動計算などの地震災害研究や,震源過程のシミュレーションなどの基礎研究に幅広く活用することを目的としたコミュニティ断層モデルを構築し公開する。
○大学は,地震学,測地学,電磁気学,地球化学,物質科学
などの観測や分析を行い,個々の火山のマグマ供給系や熱水系の構造を明らかにする。
○大学は,光ファイバを用いたDAS観測等を実施し,火山の浅部構造の推定に資する観測の超高密度化や次世代化を進める。
○大学は,火山近傍で発生する地震活動についてデータベースを作成し,群発地震活動や震源メカニズムなどに着目し,火山活動と火山近傍の地震活動との関連性を明らかにする。
○大学は,地質学,地球物理学,地球化学の手法を組み合わせ,地殻・マントルにおける物質分布,温度分布,地下構造,ひずみ分布,応力分布を明らかにし,地震活動,火山活動,またそれらの相互作用についての統一的な理解を目指す。
○大学は,北海道東部のひずみ集中域において,測地観測や電磁気観測,地震活動調査により地下構造を推定し,内陸地震と火山活動について相互作用を調査する。
○大学は,地震観測や電磁気観測により,九州の地下におけるマグマ上昇経路,及びマグマから供給される揮発性成分の上昇経路を解明し,地震活動やひずみ集中との関連を調べる。