地震・火山噴火に対する防災リテラシー向上のための研究

地震・火山現象の理解・予測の研究成果を社会に適切に還元し,それぞれの人が災害からいのち・くらしを守るための知識枠組み「防災リテラシー」の構成要素を検討する。過去に発生した地震・火山災害の事例に対して,地震・火山噴火によって引き起こされる地震動や津波,降灰などの災害誘因が避難・防災行動,社会的脆弱性や暴露人口等の社会素因へ与える作用に焦点を当てながら,災害が発生した仕組みや要因を解明する。さらに,社会が被害の発生を抑止,あるいは軽減する対策を考えるために必要な知識要素・知識体系を探索的に検討する。それに基づいて,防災リテラシー向上に資する実践的な教育・研修プログラムを開発し,フィールドでの実践を基に検証する。これらの研究においては,地域の行政機関やステークホルダーなどとも協働しながら,社会の共通理解の醸成と防災リテラシーの向上を図る。

 

(1)地震・火山噴火の災害事例による災害発生機構の解明

地震動や津波,火山噴出物などの災害誘因が,避難・防災行動の意思決定プロセスや地域の土地利用,コミュニティ構造などの社会素因とどのように関連し被害をもたらすのか。近年発生した地震・津波・火山災害の事例検証と将来の災害予測を通して,その災害発生過程の解明に向けた文理融合による研究を行う。また,地域の行政機関やステークホルダーと連携して,地震・火山研究で得られた知見に基づく被害推定情報が的確に防災対策等に利活用される仕組みを検討する。

○大学は,災害誘因と土地利用規制の関係等を解明し,地震観測研究の成果を活用した被害想定に基づく土地利用のあり方を検討することで,行政の都市計画・総合計画の改善に資する方策を提案する。

○大学は,東海地域等を対象として,巨大地震に対するコミュニティの社会的脆弱性を地理的・社会的特性の分析を通して明らかにし,地域固有の地理的・社会的条件を踏まえた,防災リテラシーを向上させるための地域的最適解を提案する。

○大学は,災害に対する心理バイアス,被災経験,直近の災害発生等の要因を勘案した,災害に対する人々の意思決定のモデルを検討し,観測研究の成果が人々の避難などの防災行動に適切に反映されるための基礎的条件を解明する。

○防災科学技術研究所は,過去の地震・津波・火山噴火災害による災害誘因予測・リスク評価の成果を統合することで将来の災害における被害状況を推定し,推定結果が実社会で利活用される仕組みを検討する。

 

(2)地震・火山噴火災害に関する社会の共通理解醸成のための研究

地震・火山噴火災害による被害の発生を抑止,あるいは軽減する対策を,社会が主体的に考えるために必要な知識体系を明らかにすることを通じて,政府の科学技術・イノベーション基本計画(国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革)の実現にも貢献することを目指し,特に想定巨大地震や活動的な火山などに対する社会の共通理解醸成のための研究を実施する。防災リテラシーの安定的な知識要素を特定・体系化し,それらを基に防災リテラシーの教育・研修プログラムを設計・開発する。さらに,それらを特定のフィールドで実装して効果を検証し,防災リテラシーそのもののあり方も検証する。また,観測研究の成果が社会システム化していく中で発信される,不確実性を含む災害誘因に関する情報が住民に与える影響について,過去の知見を用いながら解明し,モデル化を目指す。

○大学及び富士山科学研究所は,地震・火山災害についての実効性のある防災対策に必要な知識要素を明らかにした上で体系化し,ニーズ分析に基づき,教育・研修プログラムを設計・開発する。また,それらをいくつかの対象地域で試験的に運用することで効果を検証し,継続的に利用可能なプログラムへの改良を目指す。さらに,地域住民等を対象としたワークショップなどを通じ,教育・研修プログラムの発信手法について検討する。

○大学は,不確かさを含む災害誘因に関する情報が住民等に与える影響を解明し,その後の避難行動から生活再建までの過程における行動パターンを分析し,教育・訓練などで用いる災害シナリオのかたちで住民に研究成果をフィードバックする。