(1)課題番号:0103 1854年安政伊賀上野地震の調査
(2)実施機関名:東京大学地震研究所、京都大学理学部、静岡大学教育学部、群馬大学教育学部
(3)建議の項目:1.(1)
(4)課題名: 1854年安政伊賀上野地震の調査
(5)関連する建議の他の項目
(6)平成11年度の成果の概要
安政伊賀地震(1854)は、海溝型の巨大地震である安政東海地震(1854)、および安政海地震(1854)に約5カ月先行して起きた内陸地震である。地質学的検証から京都府・奈良県、三重県伊賀地方の県境に平行して走る木津川断層の活動によるものであることが判明している。従来の史料集に集められた古文書史料では、木津川断層直近の場所での史料が少なく、前震・本震・および一連の顕著余震の発生時刻、震央について十分な知識を得ることが出来なかった。しかし、今回の研究で木津川山層に沿った、城陽町、加茂町、笠置町、南山城村、奈良県月ヶ瀬村、上野市などの地元史料が発掘され、上記の点の解明が進んだ。
安政伊賀地震の本震は安政元年6月15日(1854年7月9日)の午前2時頃に起きている。震度7の地点の分布や、大規模な地変の発生状況から、本震が上野市北方三田集落と東端とし、京都府南山城村大河原付近を通って、京都府笠置町付近を西端とする木津川断層のずれによるものであることは明瞭に裏付けられた。本震の2日前の13日の正午ごろ、および同日14時頃に顕著な前震活動があり、これによっても被害を生じた。この前震による被害の発生場所は、木津川断層の東半分であって、大河原、奈良県月ヶ瀬村石打、上
野市で被害を生じた。最大余震は本震発生の約5時間後に起きている。最大余震は木津川断層の西側端部、またはその西側延長上の奈良市付近に発生したと推定される。奈良盆地の奈良市、郡山市、天理市では最大余震のほうが本震より強い震度であった。奈良盆地の多くの地点では、この最大余震でもっとも大きな家屋、人的被害を生じている。第2最大余震は、本震発生の6日後の21日20時頃起きたものであることが判明し、これも奈良市、郡山市で建物被害、死者を生じた。
以上、前震は木津川断層の東半分で発生し、本震は木津川断層全体が、最大余震、第2最大余震は西端付近で発生しており、地震発生場所の漸次西進が裏付けられた。なお、大長ら(1982)は、三重県北部・四日市付近の震度分布が大きいことから、木津川断層とは離れた四日市市の内陸部を南北に走る桑名四日市断層の活動を提案したが、これは信頼性の低い史料による誤判断を含んでいることが判明し、この提案は今回の研究の結果では否定される。
今回の研究では古文書史料に基づく「地点事象を単位とするデータベース」という考えを導入した。古文書の集積量がいくら増えても、古文書解読に明るくない研究者たちにもすぐ使える形でデータベース化しないと、そこに含まれている情報を有効に使える研究材料とすることはできない。このことは歴史地震研究を進める上で痛感するところである。「地点事象を単位とするデータベース」とは、要するに地図上のある1点で、その地震によって起きた個別の事象(家屋被害とか、人の死傷とか、液状化とか)を最小基本単位としてデータベースを作成することである。本研究では、原古文書の文章から現代文による自由形式のテキストファイルを作成し、それをさらにマイクロソフト社のエクセルによるデータベースを作成した。このデータベースを参照すれば、原古文書史料を見ることなく安政伊賀地震によって「起きたこと」の95%以上が把握できるであろう。また液状化や灯籠の転倒、火災発生などの各事象が起きた場所を、きわめて短時間に検索収集出来るであろう。
(7) 発表文献、学会発表
中西 一郎・西山 昭仁・荒島 千香子・土佐 圭・北村 健洋、1999, 安政元年(1854)伊賀上野地震に関する史料調査−京都府南部地域について−、歴史地震、15、125-131.
中村 操、1999, 安政伊賀上野の地震(1854/7/9)の液状化被害、歴史地震、15、117-124.
中西 一郎・土佐 圭・荒島 千香子・西山 昭仁,1999, 安政元年(1854)伊賀上野地震の断層運動の再検討(2)、歴史地震、15、138
土佐 圭・中西 一郎・荒島 千香子・北村健洋,1998,安政元年(1854)伊賀上野地震の 断層運動の再検討、歴史地震、14、155-174.
なお、1999年9月、三重県上野市で「歴史地震研究会」を開催し、3日
間にわたるシンポジウムと巡検会を行った。
(8)全体計画の中の位置づけ
内陸活断層の活動事例の解明、海溝型巨大地震に先行する内陸地震の解明という意味を持っている。
(8) 実施担当連絡者
氏名:都司嘉宣
電話:03-5841-5724
Fax:03-5689-7265
E-mail:tsuji@eri.u-tokyo.ac.jp