(1)課題番号:0104
(2)実施機関名:東京大学地震研究所、広島大学文学部、京都大学理学系研究科、山梨大学教育学部、法政大学社会学部
(3)建議の項目:1.(1)エ.長期的な地震発生確率の推定
(4) 課題名:(活断層調査)丹那断層における地層抜取り調査
(5)関連する建議の他の項目:1.(4)ア、イ、 2.(1)ウ
(6) 平成11年度の成果の概要
平成11年度の到達目標「地震一回分の横ずれ量を推定する手法を確立する」は達成された。静岡県函南町田代地区においてトレンチおよび地層抜取り調査を行い、841年および1930年北伊豆地震のそれぞれ地震一回分の横ずれ量を推定することができた。
調査ではまず、断層を横切る数条のトレンチと断層に平行な2条のトレンチ(深さはそれぞれ約1.5m)を掘削し、次に、断層を横切るチャネル堆積物など、変位基準となるような地質構造に着目し、考古学的手法による断層の平面観察、深さ30〜50cm、幅20〜40cmのマイクロトレンチを適宜掘削し、多数の断面を露出させた。平面観察で認められた断層は丹那断層全体のトレンドに対して時計回りに10°〜40°の走向を示し、ミ型に雁行配列していた(図2)。チャネル状・トラフ状の礫層の復元により、1930年の北伊豆地震の左横ずれ40〜50cm、西落ち20〜30cmの変位量を検出した。これは、地震当時の記載と整合的である。また、これに先行するイベントも含めた過去2回の地震による左横ずれ変位量は80±10cmと推定された。すなわち、先行するイベントの変位量は北伊豆地震によるものと同程度であった可能性が高い。またトレンチ底面より、幅40cm、長さ4mのジオスライサー(地層抜取り装置)を4箇所で打ち込み、深部地質構造を明らかにした(図1)。その結果、約2,800年前に降下・堆積した砂沢スコリア層以降、1930年の北伊豆地震を含めて4回の地震イベントが見いだされた。これは、南の丹那盆地での過去のトレンチ調査結果とおおむね整合的である。なお、この最近4回の地震による上下累積変位量は西落ち2.5m以上である。
また日本最大級の縦ずれ活断層、養老断層の中央,南濃町志津菖蒲原における前年度のジオスライサー調査で得られた試料の年代測定を行った。その結果、1220〜960yBPと960yBP以降の二度の活動で約5mの上下変位を生じたことが明かとなった(図3)。
(7)平成11年度の成果に関連の深いもので、平成11年度に公表された成果
東郷正美・今泉俊文・佐藤比呂志 ・岡田篤正・他17名、養老断層の最新変位地形とその構造、日本第四紀学会講演要旨集、29、82-83、1999
(8) 平成11年度に達成された成果の、全体計画の中での位置づけ
これまで困難であった地震一回分の横ずれ量が推定できたので、この手法を用いて平成12年度以降、糸魚川ー静岡構造線活断層系と中央構造線活断層系等で、繰り返し間隔と地震一回分のずれの量の同時推定や、断層上のずれの分布の調査などを行う。
(9) この課題の実施担当連絡者
氏名:島崎邦彦
電話:03-5841-5694
FAX: 03-5689-7236
E-mail:nikosh@eri.u-tokyo.ac.jp
図の説明
図1 トレンチ調査と地層抜き取り調査により得られた丹那断層の浅部地質構造約2,800年前に堆積した砂沢スコリア層以降、1930年の北伊豆地震を含めて4回の地震イベントを明らかにした。それらの地震により、砂沢スコリア層を含む地層(地層番号7)は上下に約2.5m変位している。
図2 トレンチ壁面の写真(A)と横ずれ変位量検出のための3Dトレンチ調査(B)写真Aにおける番号は、図1の地層区分に相当する。各地震イベントにおける横ずれ、縦ずれ変位量を求めるため、大小多数の平面・断面を観察し、三次元的に断層周辺の地質構造を復元した。2,3条の断層(剪断面)がミ型に雁行し、幅1〜2mの断層帯を形成している。断層を横切るチャネルを追跡することによって、北伊豆地震時の左横ずれ40-50cm、西落ち20-30cmの変位を明らかにした。また、これに先行するイベントも含め過去2回の地震による左横ずれ量は80±10cmと見積もられた。
図3 養老断層のジオスライサー調査結果(縦スケールは横スケールの5倍)養老断層のほぼ中央,南濃町志津菖蒲原地での東西断面を示す。図の左の撓曲崖は赤色で示す泥炭層()c:厚さ0.5〜0.8m、1220~1650yB)やその上位の灰色〜青灰色粘土層()a-b)の堆積後で、黄色で示す沖積層(下部は960yBP)堆積前に形成されたと推定される。また、この泥炭層()c)は東の地点21、16でも認められ、別の撓曲変形を被っている。これは960yBP以降の活動によると考えられるが、「層からなる沖積低地面は、津屋川以東の濃尾平野面より約2m高いので、この活動は960yBPよりかなり新しいかもしれない。なお、層。はほぼ現世の河成堆積物である。