(1) 課題番号: 0113 (I)

(2) 実施機関名: 東京大学地震研究所

(3) 建議の項目: 3 (2) 観測技術

(4) 課題名: (I)海底地殻変動観測手法の開発 (3(2)イ)

(5) 関連する建議の他の項目: (I):1(1)ア・イ,1(2)ア,1(3)イ,2(2)ア

(6) 平成11年度の成果の概要

・海底設置型傾斜計: 最少分解能10ナノラジアンの精度を持つ自己浮上式海底設置型傾斜計を開発し、これまでに油壺地殻変動観測所坑内、および相模湾、駿河湾の浅い海底での試験を終了した。その結果、温度変化の影響が大きい浅い海底でもほぼ3−5マイクロラジアンの潮汐変動を計測することができた。平成11年度は潜水艇を使って温度変化の影響の少ない深海底に設置し実用化に向けた精度確認を行う予定であったが、その機会は得られなかった。今後は、潜水艇の利用のほか、用船などにより深海底での観測を行う予定である。千葉大学との共同研究。

 

   海底重力・圧力計: 海底での連続観測に向けて、自己浮上方式による機器回収のための音響切り離し機構の検討を行った。東京大学海洋研究所との共同研究。

 

   GPS/音響測位・測距: 

  1.GPS/音響測位による精密海底測位の海域実験

キネマティックGPS測位と精密音響測距を組み合わせて海底の位置を精密に求める実験を相模湾で行った。ブイを用いることにより船の音響ノイズの問題を解決できることが確認された。海底測位の再現性は20-30 cm 程度であったが、音響システムにおける問題や各システム間の時刻同期など、問題点が明らかになった。

  2.海中音響測距の分解能と精度の改良

海中音響測距の基礎は、相関処理による音波の往復時間の精密計測であるが、これまでは波形の処理速度の制限等から、波形の数値化が荒く、それが1−2cmという分解能と7.5 cmの整数倍の不確定さの原因であった。しかし最近の高速ディジタル処理技術と大容量の記録媒体を利用することにより、波形の数値化を細かくすることが可能になった。岸壁実験等でシステムの改良を進めているが、数kmの距離を音波が往復する時間を、距離換算で1 cm よりよい精度で測定できる見込みである。東京大学海洋研究所との共同研究。

 

・レーザー干渉計を用いたボアホール海底傾斜計: これまで光ファイバーリンク方式のボアホール傾斜計を開発し、陸上試験を2年以上行ってきた。本年度は実用性の向上のひとつとして、省電力レーザー光源の開発を行う予定であったが、半導体レーザーの供給が遅れたため、次の2つの研究を行った。

    1. レーザー光源駆動回路の小型化

これまでのdiscreteで100V駆動のものと比べ、バッテリー駆動で野外観測に適しさらに制御性能も向上したものを製作できた。

2.    傾斜計のノイズレベルとドリフトの評価

実際の海底観測時に重要な、傾斜計のノイズレベルとドリフトの評価を行った。これは鋸山においてレーザー干渉計を用いたボアホール傾斜計と水管傾斜計の信号を相互比較することで行った。図1は観測データのスペクトルであるが、0.1mHz以下の低周波側で水管傾斜計よりやや雑音レベルが大きいことがわかる。図2は潮汐を除去した長期変動データであるが、降雨にともない水管傾斜計との差が生じていることがわかる。これらを総合すると、現在のシステムでは孔内へのレバーでの固定に問題があり、地下水位の影響で低周波のノイズレベルが悪くなっている可能性が明らかになった。

 

・海底孔内設置型体積歪計: 鋸山海底地殻変動試験観測井における観測を継続した。また、開発された体積歪計は、平成11年の8月に三陸沖海底に掘削されたボアホールに設置された(国際深海掘削計画LEG186)。 これまでに実際の海底孔への設置手法を模して実施した、検見川観測井でのセメンチング試験と鋸山海底地殻変動試験観測井への体積歪計の設置と試験観測の成果を生かして、広帯域地震計等とともに水深約2500m、海底下約1000mの孔底に、設置されたものであり、現在深海潜水艇を利用して観測を開始する準備が進められている.東京大学海洋研究所,海洋科学技術センターとの共同研究。

 

・海底観測通信ブイ: 伊豆諸島の新島近くの海域に設置して3ヶ月ほどの試験運用を行う予定であったが、黒潮の蛇行等で予定海域の流速が早いなど、ブイ設置の環境が整わなかったため、平成12年度に延期した。試験に向けた機器の整備と水深1000m海域でのブイ設置手法の検討を行った。東北大学理学部との共同研究。

 

(7) 平成11年度の成果に関連の深いもので、平成11年度に公表された成果

佐藤利典、笠原順三、「自己浮上式海底傾斜計の開発」、地球惑星科学関連学会1999年合同大会、1999.

藤本博巳、小泉金一郎、金沢敏彦ほか、「海底・海中における精密重力測定」、地球惑星科学関連学会1999年合同大会CD-ROM講演予稿集、講演番号 De-P001.

長田幸仁・藤本博巳・小泉金一郎ほか、「GPS/音響海底精密測位に関する基礎実験」、地球惑星科学関連学会1999年合同大会CD-ROM講演予稿集、講演番号 Sa-P006.

長田幸仁・藤本博巳・小泉金一郎・金沢敏彦・加藤照之、「キネマティックGPS/音響測位システムの基礎実験」、日本地震学会1999年度秋期大会講演予稿集、講演番号 P046.

藤本博巳・金沢敏彦、「海底における鉛直変動と水平変動の観測」、日本地震学会1999年度秋期大会講演予稿集、講演番号 P047.

藤本博巳・金沢敏彦、「海底観測と海中音響技術」、日本地震学会1999年度秋期大会講演予稿集、講演番号 C18.

新谷昌人、金沢敏彦、中尾茂、「レーザー干渉計を用いた海底孔内設置型傾斜計の

開発」、日本地震学会秋季大会(宮城県民会館、1999.11.17).

新谷昌人、金沢敏彦、中尾茂、「光ファイバーリンク方式ボアホール傾斜計による

地震地殻変動観測」、国内地球潮汐シンポジウム(京大会館、1999.12.7).

荒木英一郎、末広潔、篠原雅尚、金沢敏彦、「孔内設置型地殻変動複合観測システムの校正と観測」、地球惑星科学関連学会1999年合同大会CD-ROM講演予稿集、講演番号 De-P001.

金沢敏彦、望月将志、酒井慎一、渡邊智毅、塩原肇、日野亮太、松本達明、「海底観測データ伝送システム」、地球惑星科学関連学会1999年合同大会CD-ROM講演予稿集、講演番号 Sa-P009.

 

(8) 平成11年度に達成された成果の、全体計画の中での位置づけ

   海底設置型傾斜計: あらためて平成12年度に深海底での観測を行う。

 

・海底重力・圧力計: 連続観測に向けた自己浮上方式の設計のめどが立った。平成12年度に切り離し機構の製作と試験観測を行う。

 

GPS/音響測位・測距: 平成11年度に相模湾で行ったGPS/音響測位の実験により、問題点が明らかになり、海底精密測位実験のメドがたった。岸壁実験および浅海における実験で、水平方向の海底地殻変動観測に基礎である音波の往復時間の精密計測にメドがたった。来年度は実海域実験を行って、システムの改良をすすめるとともに、海中の音速分布の時間変化に関する補正の精度を向上させる問題にも取り組む。

 

・レーザー干渉計を用いたボアホール海底傾斜計: 納品の関係ではじめの計画と順番がかわった形ではあるが、現在あるプロトタイプの実用性の向上として、レーザー駆動回路や設置法についての研究開発をおこなった。当初の開発項目はレーザー納入後の平成12年度に行う。

 

   海底孔内設置型体積歪計: 開発してきた体積歪計が三陸沖の海底ボアホールに成功裏に設置された事により、海域での地殻変動観測の道が開かれた。今後得られる観測データを評価しながらさらなる機器開発を進める。

 

   海底観測通信ブイ: あらためて平成12年度に水深1000m海域での試験を行う。

 

 (9) この課題の実施担当連絡者

氏名:金沢敏彦

電話:03-5841-5780

FAX:03-5841-8265

E-mail:kanazawa@eri.u-tokyo.ac.jp

 

氏名:笠原順三

電話:03-5841-5713

E-mail:kasa2@eri.u-tokyo.ac.jp

 

氏名:藤本博巳

電話:03-5351-6429 

FAX: 03-3377-3293

E-mail:fujimoto@ori.u-tokyo.ac.jp

 

氏名:新谷 昌人

電話:03-5841-5821

FAX:03-5841-5693

E-mail:araya@eri.u-tokyo.ac.jp